クラウドという潮流を企業はどうとらえるべきかウイングアーク・フォーラム 2009 リポート

クラウドコンピューティングを取り入れたシステムの運用が一部で進みつつある。こうした動きに対して、企業はどのような心構えでいるべきか。ウイングアーク テクノロジーズが開催したユーザーイベントの基調講演では、このテーマに対する議論が交わされた。

» 2009年10月21日 16時38分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 クラウドコンピューティング(以下、クラウド)の仕組みを取り入れたシステムの構築が脚光を浴びている。初期コストや運用コストを下げ、システムをサービスとして迅速に使える点で企業の期待が集まっている一方、データを外部に預けることに対する不安など、クラウドの活用における悩みのタネは尽きない。

 ウイングアーク テクノロジーズが10月21日に開催したユーザー向けイベント「ウイングアーク・フォーラム 2009」において、『クラウドの本質に迫る〜コストと自由の両立は可能か〜』と題した基調講演が開かれた。サイバー大学 IT総合学部教授 兼 コンピュータソフトウェア協会 専務理事の前川徹氏とASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム(ASPIC) 執行役員 兼 ウイングアーク テクノロジーズ SaaS推進室 室長の岩本幸男氏が集い、クラウドの利点や欠点、クラウドに対する企業の心構えといったテーマで意見を交わした。講演内容の詳細をお伝えする。

クラウドで今何が起きているか

―― クラウドに対するトレンドやトピックで今、注目しているテーマはどのようなものか。

前川徹氏 前川徹氏

前川 クラウドを考える場合、アプリケーション、プラットフォーム、インフラの3階層で考えると、全体像がつかみやすい。(同イベントのテーマである)SaaSはアプリケーションのレイヤーに当たる。クラウドにおいて新しい点は、データセンターにあるIT機器をそのまま使うのではなく、仮想サーバを使うことだ。

岩本 IT業界では流行語が生まれては消えていく。クラウドやSaaSという言葉もメディアやコンサルティングファームが広めているのかと思っていたが、この潮流は、IT業界以外の企業による働き掛けも大きい。

 (ASPICの調査によると)SaaSで事業を展開している企業の3割はIT企業以外だ。例えばコクヨ(「@Tovas」)や三菱商事(「建設サイト・シリーズ」)などが新しいプレイヤーになっている。IT関連の企業にありがちな「過去のビジネスの成功体験」や「SaaSとパッケージ製品が(利益を)食い合わないか」といった考えはこれらの企業にはない。アイデアとスピードがあれば自社のコンテンツをSaaSとして展開できる。

―― 企業や情報システム部門も変わっていくことが求められているのか。

前川 考えようによっては大きなチャンスだ。事業のアイデアがあれば、事業者が展開するPaaS(サービスとしてのプラットフォーム)やIaaS(サービスとしてのインフラストラクチャ)にアプリケーションを載せて、迅速にサービスを展開できるのがクラウドの強みである。従来Webを活用してサービスを展開する場合には、ハードウェアの調達やネットワークの設定などが不可欠だった。クラウドにより、これを考える必要がなくなったことは大きい。

岩本 IT業界以外の企業はいいコンテンツを持ちつつも、それを顧客に届ける方法がなく、(そのシステムの構築を)システムインテグレーターに任せるしかなかった。今は自分たちが主導で、コンテンツビジネスを立ち上げることができる。システムインテグレーターは、この動きに即して新たなビジネスを考えていくことが求められる。

 直近では、クラウド関連や仮想化技術に特化した人材が引っ張りだこだ。反対に、サーバのサイジングや調達などのビジネスは減る傾向にある。不景気の時は新しいことを始めるチャンス。クラウドを支援するビジネスを開拓していくのも1つの選択肢だ。

前川 これからクラウドの基盤となるプラットフォームの標準化が進んでいく。標準化されたインフラは付加価値が付きにくく、(サービスとして提供する場合は)価格競争になる。国内のベンダーは「(プラットフォームに載せる)どんなアプリケーションを構築するか」で勝負していくことになるだろう。

クラウドの課題にどう立ち向かうべきか

―― 雲の向こうのサービスに障害が起こった場合、預けたデータの保証が問題になる。この問題について企業はどう考えていくべきなのか。

岩本幸男氏 岩本幸男氏

前川 データが消失した場合、現状のクラウドサービスではSLA(サービスレベル契約)に基づく金銭的な保証になってしまう。クラウドサービスの採用でデータを外部に預ける企業は、自分で自分の身を守る必要が出てきている。

岩本 最近、海外の企業が事故により、クラウドサービスで預かっていたデータをなくした事件があった。クラウドサービスを使う上で、なんらかの障害は避けられないと考えたほうが妥当だ。SLAにおける現状の基本的な契約内容は「上限を決めて(金額やサービス契約の延長などを)保証する」というスタンスである。利用する企業側も「(安い)値段なので、このサービス保証になる」という割り切りが求められる。

クラウドに関連する企業への提言

―― クラウドビジネスに対して企業やベンダーはどのような心構えでいるべきか。

前川 日本企業が信頼を寄せるベンダーは、諸外国ではなく日本の企業。大手ベンダーには、(クラウドサービスで)付加価値が付けられるソフトウェア、アプリケーションの部分で競争優位に立つ必要がある。そのためにも、早くクラウド(という仕組み)を体験していくべきだ。

岩本 SaaSやクラウドをなぜ使うのかについて、ベンダーや企業は深く考えてほしい。ビジネスのパフォーマンスを上げるのが目的だが、クラウドを取り入れると社内システムではできていたことができなくなるかもしれない。取引先やグループ企業とのやりとりを円滑に進めるためにも、ビジネス全体のつながりを見てクラウドを取り入れていくべきだ。

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