ミラクル・リナックスは終わってしまったのか?(2/2 ページ)

» 2009年10月23日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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ミラクルの名前はエンドユーザーから消える?

 児玉氏は第2の創業を経験したミラクル・リナックスを称して“変わらずのOS屋さん”であると話す。「われわれのコアコンピタンスはそこだから。サービス屋ではない」と児玉氏。しかし、Linuxが使うエリアは広がったとし、その中でも組み込み用途、特に、IntelのAtomとLinuxの組み合わせに注目しているという。このエリアについてRed Hatは明確なビジョンを持っていないのも魅力的だ。

 「OS的な観点からいうと、Atom系列のCPUは“新しい”。ARMやMIPSのように“知っている方”が少ないCPUであるともいえる。われわれはこのCPUの特性をよく理解した上でOSを作ることができると考えているし、技術的なアドバンテージを取れる位置にいる」と児玉氏。その理由として、Intel主導で開発され、現在はLinux Foundationに移管されたモバイル端末向けLinuxディストリビューション「Moblin」へのコミットが挙げられるという。

 「Moblinの開発にはうちからもコミッターを出しているが、OSベンダーとして実質的にカスタマイズまでできるプレイヤーはうちしかいないとみている。ベースの開発に参加しつつ、そこにカスタマイズを加え、ミラクルの組み込みOSである『Embedded MIRACLE』として提供する」と児玉氏。ボードベンダーなどの一部とはすでにそうした付き合いがあるとし、早ければ来年の春にもEmbedded MIRACLEを搭載した機器が出てくるかもしれないと明かす。

 「従来のようなエンドユーザーとは層が違い、技術にうるさいこの業界の把握には時間をかけて取り組み、信頼関係を構築することに努めた」(児玉氏)

あるLinux関連の記事に表示されたGoogle AdWordsからも、同社の意気込みが感じられる

 特に、2010年に登場が予想されるIntelの「Moorestown」に期待を寄せる。MoorestownはIntel Atomベースのプラットフォームで、Menlowの後継に位置する。AMDを含める半導体メーカー各社が出荷数を軒並み下げている中、Intelの利益に大きく貢献したAtom。アイドル時の消費電力がMenlowと比べて50分の1ともいわれるMoorestownの投入により、Intelは新たな市場を開拓できると考えているが、児玉氏も、そこから生まれる新たな需要が自社の鍵になるとみている。

 「(Moorestownでは)アイドル時の消費電力が大きく抑えられ、また、小型化が進むことで、スマートフォンやネットブックだけでなく、組み込み用途への利用拡大も期待される。組み込み用途は派手さはないが、実際のビジネスのパイプラインがたくさんある。そうすると、Atomをさまざまな場所で使っていこうとするデマンドができる。そのとき、カスタマイズまでできるプレイヤーがうちしかいないので案件が増える」(児玉氏)

 つまり、組み込みOSを搭載した機器が市場に出荷されるとき、一般消費者向けには「OSはLinux」という見方をされるかもしれないが、機器ベンダーがEmbedded MIRACLEを搭載していることを知っていてくれれば十分とミラクル・リナックスは考えているのである。名を棄てて実を取る戦術というわけだ。

 「1つ1つの単価は安いが、採用されたときのオーダーは大きい。また、『値切られない仕組み』も幾つか考えている。端末ベンダーではなく、サービス事業者に話を持っていき、われわれが端末を作っているベンダーを紹介したりといったものだ。台湾のベンダーなどとも緊密な関係を構築して、必要に応じてサービス事業者と直で話し合いながら最適にカスタマイズされたものを提供していきたい」(児玉氏)

Asianuxはどうする?

 ここまで、主にミラクル・リナックスの新たなビジネスモデルについてみてきたが、アジア各国で進めるAsianuxの活動とは完全に無縁というわけでもなさそうだ。ただ、児玉氏は、Asianuxの取り組みについて、「Asianuxの取り組みというのは利益重視ではない。単純に企業の私的利益だけを追求しすぎると、うまくいかないのがオープンソースの世界。オープンソースの中でわれわれが受けている恩恵を返しながらアジアでのLinux利用を拡大していくことが重要だと考えている。Asianuxの効果指標としては参加してくる国の数が挙げられるが、急に人数を増やしてもマネジメントできなくなるので、1年に1カ国くらいだが、着実に増やしていくことが重要だと考えている。幸い、そうした話はコンスタントに来る」と話す。

 児玉氏は、「ここ数年のAsianuxの取り組みを自己評価すると、50点くらい。マイナス要因は、日本の中でそのブランドを十分に浸透させることができなかったこと。もともと立ち上げたときは、Red Hatと伍してやっていこうとしていたが、結果だけ見ればそうはならなかった。一方、プラス要因としては、アジアのパートナーが増えたこと。(当初の)3カ国の開発というのが本当にうまくいくのかという思いはあったが、予想よりうまくいった」と話す。

 複数の国をまたいだ開発プロジェクトで、どのように円滑にプロジェクトを進めていくか、また、その収益化については以下のように説明する。

 「LinuxやJavaそのものの技術というのはアジアでも広く普及しているが、企業向けのソフトウェアを作った経験という面では心もとないものがある。ある程度の期間をかけて開発し、それをデリバーし、メンテナンスしていくというプロジェクトのノウハウを継承していきたいと考えている」(児玉氏)

 利益は追わないという姿勢ではあるが、この取り組みの中で、アジアのベンダーとさまざまな協力関係が構築できていることは特筆しておくべきだろう。先の組み込み分野での取り組みにも台湾ベンダーの名前が出てくるなど、アジアという枠組みの中で共同戦線を張れるベンダーと信頼関係を構築するのに、Asianuxは寄与しているようだ。


 まとめると、ミラクル・リナックスは第2の創業の後、WindowsユーザーにOSの乗り換えを迫ることなく、アプリケーションのレイヤーでOSSを利用したビジネスを展開しつつ、新たな柱としてAtomに特化した組み込みOSのビジネスを収益につなげたい考えだ。そして、必要に応じて、Asianuxで培った人脈やコネを利用しながら、息の長いビジネスモデルを提供するということになる。

 「(これらのビジネスが)既存ビジネスと肩を並べるくらいになるのは2年から3年先だと思うが、今年の下期から来年の上期が勝負だと思っている」と児玉氏。来春あたりから組み込みOSとして「Linux」とだけ書かれた製品を目にしたら、そこにはミラクルのOSが搭載されている可能性を考えてみた方がいいかもしれない。

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