オープンソース流「広報戦略“虎の巻”」オープンソースソフトウェアの育て方(1/4 ページ)

フリーソフトウェアの世界では、内部での議論と一般向けのアナウンスの間に明確な違いはありません。このため、正しい方法で情報の報道価値を示す必要があります。とりわけセキュリティ問題については、開放性と秘密主義の対立に折り合いをつける方針が存在しますので、これらをまとめて紹介します。

» 2009年10月29日 08時00分 公開
[Karl Fogel, ]

宣伝・広報

 フリーソフトウェアの世界では、内部での議論と一般向けのアナウンスの間に明確な違いはありません。その一因としては、想定する読み手がはっきり定義できないことがあります。ほぼすべての投稿が一般向けに公開されているとすれば、プロジェクトの外部の人たちがその投稿をどう受け取るかなどコントロールできません。プロジェクトの外部に公開するつもりなどまったくなかった投稿であっても、例えばslashdot.orgへのタレコミなどの影響で何百万もの人に読まれることになるかもしれません。

 オープンソースプロジェクトを運営していくに当たってこれは避けられないことです。ただ、通常そのリスクはあまり大きくありません。一般に、正しい方法で情報の報道価値を示しさえすればプロジェクトの外部に伝えるべき情報はきちんと伝わるようになります。

 重要なアナウンスの場合、その公開方法は4通りか5通りくらいになることもあります。そして各方面へのアナウンスはほぼ同時に行わなければなりません。

  1. プロジェクトのトップページは、恐らく最も多くの人たちが目にする場所でしょう。重大なアナウンスに関しては、トップページにも掲載しましょう。ここに掲載するのは概要だけとし、詳細な情報を知りたい人のためにはプレスリリース(以下で説明します)へのリンクを用意しておきます。
  2. また、Webサイト上には「ニュース」や「プレスリリース」と題した場所を設け、アナウンスの詳細はそこに書くようにします。プレスリリースの目的の1つは、ほかのサイトからのリンクの際に使用する、正規の「アナウンスオブジェクト」を用意することにあります。従って、プレスリリースは適切な構造にしておく必要があります。プレスリリースごとに個別のWebページを用意するにしても、1つのブログの個別のエントリとするにしても、あるいはそのほかの形式にするとしても、ほかのサイトからリンクする際に別のプレスリリースと区別できるようにしておかなければなりません。
  3. そのプロジェクトがRSSフィードを提供しているのなら(RSSフィード項をご覧ください)、そこにもアナウンスを含めなければなりません。サイトの構築方法によっては、プレスリリースを作成したら自動的にフィードも更新されるようになっているかもしれません。
  4. 新たなリリースが公開されたというアナウンスの場合は、freshmeat上のそのプロジェクトについてのエントリも更新しましょう(Freshmeatのエントリを作成する方法は広報項をご覧ください)。Freshmeatのエントリを更新すると、Freshmeatの変更履歴を扱うメーリングリストにそのエントリの内容が投稿されます。このメーリングリストに投稿されるのはFreshmeatの更新情報だけではありません。それ以外にも、多数の人が注目しているポータルサイト(Slashdotなど)の更新情報も投稿されます。Freshmeatは、これらのデータをRSSフィードでも提供しています。つまり、あなたのプロジェクトのRSSフィードを購読していない人たちにもFreshmeat経由で情報を伝えることができるのです。
  5. あなたのプロジェクトのアナウンス用メーリングリストにメールを送信します。アナウンス用メーリングリストの名前は“announce”とします。つまりannounce@yourprojectdomain.org のようになるというわけです。これは事実上の標準として使われている名前であり、この名前のメーリングリストに流されるメールは重要なアナウンスのみに限定しなければなりません。流れるメールのほとんどはそのソフトウェアの新たなリリースに関するものとなるでしょうが、それ以外にも資金集めのお知らせやセキュリティ上の脆弱性の発見(本章で後ほど取り上げるセキュリティ脆弱性の告知項をご覧ください)に関するメールも送信されます。あるいは、プロジェクトが大きく方向転換する際のお知らせなども投稿されるでしょう。

 announceメーリングリストの流量はあまり多くなく、また重要な内容のみに使用するものです。そのプロジェクトの各種メーリングリストの中でも購読者の管理に最も力を入れる必要があります(あまり乱用するのではなく、熟考してから投稿しましょう)。誰もが好き勝手にアナウンスを作成したりスパムだらけになってしまうことを避けるため、announceメーリングリストは必ずモデレートしなければなりません。

 これらの各所に出すアナウンスは、できるだけ同時に行いましょう。メーリングリストに流されたアナウンスがプロジェクトのホームページやプレスリリースに反映されていなければ、それを見た人は混乱します。さまざまな変更(メールの送信、Webページの編集など)を事前に準備した上で同時に実行すると、情報の一貫性が失われることが少なくなります。

 それほど重要でもない出来事の場合は、上述の手法のうち幾つか(あるいはすべて)を省略してもかまいません。出来事の重要性に応じて、それでもプロジェクトの外部には自然に伝わっていくでしょう。例えば「新しいリリースが公開されました」というのは重要な出来事ですが、ただ単に「次のリリースの公開予定日が決まりました」というのは、実際のリリースに比べてそれほど重要ではありません。リリース予定日が決まったという程度の情報なら(アナウンス専用ではなく)通常のメーリングリストに投稿し、後はWebページ上のタイムラインを更新しておくくらいで十分でしょう。

 しかし、あなたのプロジェクトに関心を持っている人たちは、リリース予定日が決まったという話題をインターネット上のほかの場所で持ち出すかもしれません。メーリングリストに参加しているけれどもただ話を聞いているだけで自分は一切発言しないという人たちが、必ずしもほかの場所でも同じように黙っているとは限りません。口コミの影響は侮れません。ちょっとしたアナウンスであっても、それが正しい内容で周りに広まるよう心がける必要があります。具体的に言うと、ほかの人に引用されることを想定した投稿では、どの部分を引用してもらいたいのかを明確にし、その部分は公式のプレスリリースと変わらないレベルで書くようにするということです。

 例えば以下のようにします。

開発の最新状況をお知らせします。Scanleyのバージョン2.0を、2005年8月中旬にリリース予定です。詳細な情報は http://www.scanley.org/status.html でもご覧いただけます。このバージョンで追加される主要な機能は、正規表現による検索です。

そのほかの新機能は、... また、次のようなバグの修正も含まれます ...

 最初のパラグラフでは、2つの重要な情報(リリース予定日と新機能)を簡潔に説明し、さらに詳細な情報を知るためのURLを示しています。この部分だけしか読まなかったとしても、内容が伝わるようにしておきましょう。メールの残りの部分は、ほかに伝わる際には無視される可能性があります。もちろん、中にはメール全体へリンクする人もいるかもしれません。しかし、ほとんどの人はメールの一部を引用するのみとなります。そうである以上、一部を引用する人が引用しやすいようにすることを心がけましょう。うまく引用してもらえば、情報を広く伝えることができます。

       1|2|3|4 次のページへ

content on this article is licensed under a Creative Commons License.

注目のテーマ