組織をつなぎ、スマート化する――ビジネスプロセスを最適化するSOAIBM IMPACT AUTUMN 2009 JAPAN Report

今、世界中の企業で、ビジネス環境のパラダイムシフトが起こりつつある。変化への即応性が問われる中、競争力を強化する手段としてSOAが改めて評価されている――。

» 2009年12月14日 10時00分 公開
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 早くも4度目の開催を迎えたIBM IMPACT Japan――“Smarter Planet”というメッセージを発信している最近のIBMらしく、設定されたテーマは「スマートな働き方」とそれに伴う「業務プロセスの改善」である。

世界中で進む「組織のスマート化」

日本IBM 専務執行役員 ソフトウェア事業担当の三浦浩 氏 日本IBM 専務執行役員 ソフトウェア事業担当の三浦浩 氏

 11月26日の朝、会場を埋める聴衆の前に、基調講演のスピーカーとして登壇した日本IBM 専務執行役員 ソフトウェア事業担当の三浦浩 氏は「例えばバングラデシュでは、海外での労働を希望する自国民に他国の求人情報をインターネットで提供し、オンラインでビザの発行も申請できるというシステムを構築した。これにより単なる人材のマッチングだけでなく、いわゆる“出稼ぎ”労働の条件も大きく改善している」と切り出した。「それだけ、組織やチーム、そして働き方がフラットに、そしてスマートになっているということ」(三浦氏)。

 「自分が入社した当時、情報の生産性は1日に処理できる“パンチカード”の量で規定されていた」と同氏は振り返る。しかし、会議室でのミーティングや電話、ファクシミリといった従来型のコミュニケーションに加え、スマートフォンやモバイルPC、ウェブ会議の普及や、ビジネスにもSNSやwikiといったツールを使うことが一般化した現在、「個人の生産性は(パンチカードのような物理制約に悩まされることも少なくなり)大きく向上した」と三浦氏は評価する。

 だが“組織の生産性”という観点ではどうだろうか? 三浦氏は“ビジネスとITが連携していない企業は、連携している企業に比べて売り上げが12%少ない”、“非効率な業務プロセスによって、従業員1人当たり、毎週5.3時間が浪費されている”という調査結果を紹介する。

 こういった問題を解消するよう“スマートに働く”ためには、“スマートな組織”が必要だと三浦氏は説く。スマートな組織とは、人材が協働するために機能化され、相互接続された基盤やプロセスがある組織だという。

 「既に世界中の組織が、スマート化の取り組みを開始している」という三浦氏の紹介を受ける形で登壇したのは、日本IBM 専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略・市場開発担当のピーター・カービー氏だ。

スマート化がビジネスの構造を変える

日本IBM 専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略・市場開発担当 ピーター・カービー氏 日本IBM 専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略・市場開発担当 ピーター・カービー氏

 カービー氏は、三浦氏が言及したスマート化の取り組みの具体例として、特に米国で実用化が進む電力の“スマートグリッド”を挙げる。

 スマートグリッドは、各家庭(あるいは企業など)に設置される電力メーターを、インテリジェントなスマートメーターに置き換えることで使用量を“見える化”し、故障検知を含む送電網の自動監視や、電力の需給予測を行う仕組み。

 ユーザーにとっても、電力使用量をオンラインで確認したり、家電などを遠隔操作できたりといったメリットがある。ソーラーパネルなどを設置している場合は、余剰電力を電力会社に売却することもできるという。

 「日本の場合、米国と比較し送電網が安定しており、修理スタッフも全国に展開しているが」と前置きした上でピーター氏は、「鳩山首相が約束したような規模でCO2を削減するには、スマートグリッド化が必須となるだろう」と指摘する。

 同時にピーター氏は、「スマートグリッドが、新しいビジネスモデルを創造する」と提言する。

 例えばスマートグリッド化された家庭で、電気自動車を利用するケースを考えてみよう。満充電で発車したとしても、出先で充電する可能性がある。その場合の利用電力は、ユーザーの家庭に課金される電気代として、請求されることになるだろう。

 また、出先で電力を使いきらずに帰宅した場合、家庭用の電力として還元する(または電力会社に売却する)ケースも考えられる。

 「従来、電力会社のビジネスモデルは“顧客は動かない(電力の利用場所は一定)もの”として構築されてきた」とピーター氏は分析する。「だがスマートグリッド化された社会では、自動車産業や金融産業と、より密に連携する必要がある」(ピーター氏)

 企業が、このようなビジネス環境の変化に即応するには、リソースを最適に配置する必要がある。もちろん従来も、既存のビジネスの枠組みを前提としたリソース配分が行われていたわけだが、これからは国境や産業に捉われない最適配置(組織のスマート化)が求められる。

 スマートな組織に求められる要素は、変化に即応できる俊敏性、即応した組織の“協働”効率を上げる協調性、そして中でも重要なのが、組織の内外を問わずビジネスプロセスを一本化する接続性の3つだという。

プロセスを一本化、そして意思決定の最適化へ

 ビジネスプロセスの柔軟な接続を担うものとして期待されているのが、SOA基盤である。再び登壇した三浦氏は、SOA基盤の構築と、それによるビジネスプロセス最適化に成功した事例として米国のアトラス航空社を挙げる。

 貨物航空会社である同社にとって、所有する航空機の稼働率を高めることは重要な指標となる。しかし、稼働率を高めるあまり顧客のリクエストに迅速に応じられなくなっては意味がない。

 アトラス航空は、この相反する命題を両立するため、航空機、乗務員、パートナー企業、そして顧客(からの配送依頼)という各管理プロセスを最適化したSOA基盤を構築。結果として運用コストを“激減”するとともに、パートナーとの連携コストを半減し、アプリケーションの開発コストは30%低減できたという。

 「IBMは、自らもSmart Workを実践してきた」と三浦氏は話す。プロセスの最適化で、価値ある人と情報に素早くアプローチできるようになり、生産性の改善効果は年間約6000万ドルにのぼるという。

 「検知し、レスポンスするという情報システムは、各企業とも高いレベルで実装しつつある」と三浦氏は現在の企業環境を評価する。「今後は、SOA基盤によるプロセスと意思決定の最適化が、企業競争力を高める要因になるだろう」(三浦氏)

SOAは死んだのか?

 もちろん、早くからSOA基盤の構築に取り組んできた企業は、IBMに限らない。当日は調査会社ITRでシニアアナリストを務める舘野真人氏をモデレーターに迎え、「ユーザー企業における『SOA』の価値と企業ITのネクスト・ステップ」と題したパネルディスカッションが行われた。

写真に向かって左から、ITR シニアアナリスト 舘野真人氏、カシオ計算機 執行役員 業務開発部長 矢澤篤志氏、セガ コーポレート本部 情報システム部 部長 松田雅幸氏、日産自動車 グローバル情報システム本部 エンタープライズアーキテクチャー部 主担 大関洋氏 写真に向かって左から、ITR シニアアナリスト 舘野真人氏、カシオ計算機 執行役員 業務開発部長 矢澤篤志氏、セガ コーポレート本部 情報システム部 部長 松田雅幸氏、日産自動車 グローバル情報システム本部 エンタープライズアーキテクチャー部 主担 大関洋氏

 冒頭、舘野氏が設定したディスカッションのテーマは刺激的である。「SOAというキーワード自体は世に問われて久しいが、いわゆるバズワード化してしまい、ユーザー企業に受け入れられなかった側面もあるのではないか。つまり、SOAは死んだのではないか?」と、舘野氏はパネリストとして集ったカシオ計算機の矢澤篤志氏、セガの松田雅幸氏、日産自動車の大関洋氏に問う。

 それに対し矢澤氏は、米国では、約75%の企業がSOA基盤を構築済みか、構築中であるという調査結果があると紹介する。「SOAは死んでいない。むしろSOAを導入していない企業は死んでしまうのではないか? といった観点から評価すべき」(矢澤氏)

 加えて松田氏、大関氏も「SOAという“モノ”を入れるのではなく、その仕組みを採用するのは企業として当然と考えている」(松田氏)、「米国で主流となっている“ビジネスプロセス最適化”という観点でのSOAに加え、欧州ルノーやニッサン・ヨーロッパではデータの抽出と分析という視点でもSOA化を進めている」(大関氏)と指摘。流行ではなく“当たり前化”したという点で、見解の一致を見せた。

 ただし、課題も有するという。松田氏は「SOA基盤構築の必要性はユーザー企業の多くが理解するところだ」としながらも、「リソースは限られる。目指すゴール(開発目標)に達するまで、どのようにプロジェクトを維持し、膨らませていけるかが重要」と指摘する。

 また松田氏は“システムを構成するCAP3要素(Consintancy、Availability、Partition)のうち、同時に満たせるのは2つまで”という、いわゆるCAP定理を挙げつつ、SOA基盤構築に当たり「無理に大きな目標を掲げたり、技術的な完璧さを求めたりする必要は無いのではないか」と提言する。

 矢澤氏も「例えば仮想化技術でサーバを集約し、いわゆるプライベートクラウドを構築すると、可用性が犠牲になる側面があるかもしれない。だが余剰のITリソースを柔軟に使えたり、新しいサービスを迅速に立ち上げたりできるようになる。SOAとクラウドはセットだと考えているし、実際カシオ自身、拠点間やグループ企業間での統合を進めてきた」と話す。

SOAを通じ情報システム部門はビジネスセンスを磨け

 SOA基盤の構築、そしてクラウド化といった取り組みを進めていくと、所管部署である情報システム部門(以下、情シス部門)にも意識の改革が求められるだろう。大関氏は「例えば“受注”という言葉でも、部署や役職によってその定義が違う。情シス部門は、その枠の中にとどまるのではなく、ビジネスプロセスを理解し、踏み込んでいくことが必要だ。その際は“社内を横串で見渡せる”という情シス部門の特性が、強みになるだろう」と、その考えを示す。

 実際日産自動車では、情シス担当者を“ビジネスアナリスト”に育成するプログラムを設けているという。「情シス部門を見れば、その企業の良し悪しが分かる」(大関氏)

 松田氏、矢澤氏も、「ITアーキテクトとは、技術の専門家ではない。情シス部門には全体を俯瞰できるセンスを有する人材が必要だ」(松田氏)、「3K、5Kと言われて久しい情シス部門だが、ビジネスの視点を意識することでブレークスルーにつながる」(矢澤氏)と大関氏の見解を支持。SOA基盤の構築を通じ、業務系、そしてビジネスプロセスに対する理解を深めることが、情シス部門を強化し、企業競争力を高める結果になると提言された。

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