廃棄する瞬間まで管理の意識を――情報の誤廃棄セキュリティ対策は事前と事後をつなぐ時代(2/3 ページ)

» 2009年12月14日 07時15分 公開
[尾崎孝章,デンカク]

解決策は廃棄までを管理すること

 事故報告だけではG社の書類管理がずさんなように思えるものの、決して何も取り組みをしていないわけではなかったという。Z氏が事故の発生状況を振り返ってみると、原紙からのスキャニングは原紙自体の紛失を防止するための取り組みであった。委託元から原紙を預かる際に、預かる段ボールの個数を記載した授受記録も残していた。社内の一角にある倉庫室は施錠をするルールもあった。しかし、情報管理の最終工程である「保管」から「廃棄」や「返却」をする場面での管理を見落としていた点が今回の事故につながったのである。

 そこでZ氏は、次の2つの実行を通じて保管から廃棄への流れを透明化することが抜本的な解決策であることをまず伝えた。

  • 保管期限の設定を決めること
  • 保管状態を常に把握できる状態におくこと

 「保管状況が分からなければ、捨ててはいけないものが捨てられる、いわゆる誤廃棄が起こります。その逆として、捨てるべきものが捨てられない問題も起こります」とZ氏は話した。O部長は、誤廃棄が起きなければ今回の事故は起きなかっただけに、「保管し続ける分には問題は無いのではないか」と疑問に思った。

 だがZ氏は、「理由なく保管し続けてしまうのは結局、管理していないのと同じようなものです。保管する書類が多くなると、倉庫室に入らないといって倉庫室付近に書類を積み重ねれば、ほかの書類と混ざる危険があります」という。

 今回の事故も返却物が廃棄物に混ざった可能性が高く、保管し続けること自体が直接のリスクにはならずとも、ほかのリスクを引き起こす要因になり得る。Z氏はこのように指摘した。

 O部長は、倉庫室の収納スペースが限られ、繁忙期には執務室のキャビネットの周囲や、社員の机周辺に書類が積み重なっている風景を目にしていた。情報の保管期限を決めるに当たり、必要な情報を廃棄した際の責任問題が生まれる可能性があり、保管責任は決めても廃棄責任(廃棄すべき情報が廃棄されることへの責任)はあいまいにしやすい。廃棄指示を出す人間がいないことで、誰も捨てないという問題が起こりやすく、Z社も廃棄責任は不明確な状況であった。

保管期限の設定をする

 保管期限の設定に際し、Z氏は「改めて個々の書類について保管期限を線引きするのではなく、現状の管理状態をまずは明確にしてルール化しましょう」と助言した。G社の保管期限は、会社の内部書類を各部のキャビネット等で永続的に保管し、委託元からの預かり書類は業務終了までとするという慣習的なルールがあった。

 O氏は現状をルール化することの意味がどれほどあるか疑問を感じたが、Z氏の指示通りにまずは自部門のみ保管期限を記載するため、次の「保管期限シート」を社員に配布して記入させ、社員各自の現状を明確にさせた。

書類の保管期限の設定シートの例

 社員が記入したシートには、慣習により「廃棄せず」が全体に多いながら、同じ書類であっても社員によって「廃棄せず」や「決めていない」などに分かれ、O部長の想定していたものと違う部分が多かった。

 O部長は「これを何で保管する必要があるのか分からないな」などとつぶやきながらシートをチェックしていたが、Z氏は「どうですか。ルール化されていない中で社員一人ひとりが、これまでの業務から導いた基準がこれです。人によってバラバラですね。まずは第一段階として不透明な“決めていない”書類の期限から決定してみましょう」と話した。

 廃棄を決めていない書類は、いわゆる「不要と思うが、必要かもしれない」といった書類が分類されやすいため、これらは明確な廃棄時期を決めていくようにした。その上で、毎月末に机上の書類を整理して、その段階で業務が終了した書類は、部署ごとに業務終了書類として月別の段ボールに入れることとした。これにより、「クリアデスク(机上の整理整頓)」にもつながるのだ。

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