お父さんはすぐにアクションを起こした。しかし管理者からの回答は「削除できない」というものであった。理由は、「サトルくんに成りすましているようには見えない」「見た限りでは、わいせつ、暴力、援交、犯罪・自殺の誘発、アダルトサイトなどへの引き込みなどの利用規約に違反する内容はない」からである。
サイト管理者の回答は極めて正しい。プロフは通常匿名であり、個人の確認もメールであるため、管理者にはどれが本物だか判断できないからだ。
そこでわたしは実際にお父さんと会って、今後について話をすることにした。
わたしはお父さんに「新しくプロフを始める」ことを提案した。作るのは、“サトルくんのプロフ”と“お父さんのプロフ”の2つだ。無視したり削除したりする守りの対応だけでなく、積極的に自分自身を発信していく攻めの対応がサトルくんたちにはできると考えたからだ。
今回の件を、サトルくんとお父さんは学校に報告していない。理由は、「ある学校の先生が『いじめられる方にも問題がある』という発言したのを聞いたことがあり、問題のある生徒として扱われたくない」からだった。自分の学校が必ずしもそうだとは思っていないが、中にはそのように思う先生もいるかもしれない、と心配したのだ。
「いじめられる方にも問題がある」という発言は、わたしもたびたび聞く。ある県の議員がテレビで公然と言っているのも聞いたことがある。しかしこれは、あまりにも現状を知らない不勉強な人の発言ではないだろうか。目立つから、目立たずおとなしいから、金持ちだから、貧乏だから……あらゆる理由でいじめは発生する。金持ちや貧乏なのは、子ども本人の問題ではなく家庭の問題だ。目立ちすぎず、目立たなすぎず、個性のない普通の子どもにならないのが問題というのであろうか。
父親として、そんな個性のない子どもになってほしいとわたしは思わない。
お父さんとサトルくんにプロフを始めてもらうことにしたが、単にプロフを作るだけではまだ足りないとわたしは思った。お父さんやサトルくんが偽プロフを作った生徒を非難したり、偽プロフに関連した誹謗中傷コメントに対して反発したコメントを書くと、偽プロフを喜ばせ、ほかの生徒たちの反発をまねく場合もあるからだ。そこで、新しいプロフをどのように使い、どのようなことを書いたら良いかについて時間をかけて話をすることにした。
重要なことは、「偽プロフが偽者であることを周知すること」「二度とこのようなことが起こらないように、気持ちと意思を広く伝えること」である。
→ネットファーザーの金言第3回:偽プロフvs.本物のプロフ
日本の大手SI企業にて、業務システム販売のトップセールスマンとして活躍後、初期のインターネット構築やグループウエアシステムの企画・商品化、販売促進などでソリューション推進部のリーダーを務める。
99年、ロータス株式会社に入社し、マーケティング本部 販売促進部長などを務めた後、2003年より現在の日本アイ・ビー・エム株式会社に勤務。
ITmedia オルタナティブ・ブログ『けんじろう と コラボろう!』で、ビジネススキル、コラボレーションソフトウェア、青少年のネット問題および家族について執筆して人気を博している。
著書に、『諭座 2008年9月号:ネット規制で子どもを守れるか』(朝日新聞出版)、『日本の論点 2009年度版:裏サイトから子どもを守るには〜子どもがネットのいじめにあったら』(文藝春秋社)、『子どもをネットから守り、ネットで育てる』(翔泳社)。
ネットファーザーの金言のバックナンバーはこちら、吉田賢治郎さんのブログ『けんじろう と コラボろう!』はこちらです。
企業向け情報を集約した「ITmedia エンタープライズ」も併せてチェック
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.