ふぞろいの編集者たち【後編】編集後記2009

暮れゆく2009年。ITmedia エンタープライズのふぞろいの編集者たちにとって、どんな年だったのでしょう。編集後記という大義名分を借り、自由に書いてみました。

» 2009年12月28日 13時00分 公開
[ITmedia]

 後編は、セキュリティの動向を追いかける國谷、WebPRを追いかけた藤村、兄弟サイトのITmedia エグゼクティブからは、中国への熱い思いを語る伏見と、セミナーや勉強会を通じて経営者の横顔を紹介した福盛田、最後はITmedia エンタープライズ編集長の怒賀の順に、2009年の振り返りと2010年への意気込みを伝えます。

恋人感覚で探すウイルス対策ソフト

(國谷武史)

 PCを使う上で導入を避けられないのが、ウイルス対策ソフトです。仕事で使うPCなら会社が指定するものをインストールしますが、家庭や個人で使うPCでは「どうすればいいだろう?」と考えてしまい、「面倒だ」という声をよく耳にします。

 製品の性能を見分ける基準に「ウイルス検出率」や「パフォーマンス」があります。検出率はテスト機関が独自に集めたサンプルを各製品がどれだけ検出できるか調べたものです。第三者が提供する基準としてある程度参考になるでしょう。パフォーマンスではベンチマークなどを用いた比較テストなどがありますが、PCの起動が遅くならない、動画やゲームを楽しんでいるときに画面がフリーズしないといった、ユーザーの感覚に頼らざるを得ません。

 結局は何が基準になるのか――ベンダーに聞いても現状では明確な答えはないようです。そう言っては身もふたもありませんが、逆にユーザー自身で基準を作れるというメリットに目を向けてはいかがでしょうか。

 ある専門家は、自分でどのようなセキュリティ対策をしたいかを考えれば、製品選びの基準が自ずと明確になるとアドバイスします。例えば、「思い出の写真をたくさん保存しているからファイルを保護してほしい」「ゲームにしか使わないから動作に影響しないものがいい」「セキュリティ対策はよく分からないから日本語のサポートがある方がいい」――このようにPCをどのように使っているかを少し考えてみるだけで、少しずつ基準がはっきりしてきます。

 後は幾つか基準になりそうなものを用意し、ほかのユーザーの意見も参考にしながら、基準に近い製品を体験版などで実際に確かめてみることが大事です。納得できるものであれば、その製品が自分にとってベストに近い製品であるはずです。

 ウイルス対策ソフトは、Webブラウザや動画ソフトなどに比べると、PCを守る裏方のような存在です。しかしOSのようにずっと起動してユーザーとも長い時間を共にする存在でもあり、ぜひ良いパートナー(恋人?)を探すような感覚で製品を選ぶと、製品への愛着が深まっていくのではないでしょうか。

ブロガー連携とWebPRを追いかけた1年

(藤村能光)

 編集部の藤村です。このパートでは、ITmedia エンタープライズで2009年に打ち出した企画や特集の一部を時系列に沿ってお伝えします(タイトル部分をクリックすると、関連記事のWebページが表示されます)。

ビジネスマンの不死身力

 コーチでオルタナティブ・ブロガーの竹内義晴さんが執筆する、隔週土曜日掲載のコーナーです。マネジャーや現場の担当者が経験するさまざまな課題を、コーチングの手法を用いて克服していくのが狙いです。ホウレンソウ(報告・連絡・相談)がうまく回らない、会議で物事が決まらない……。こうした問題を乗り越えるためのヒントを紹介しています。

タスクチームのススメ

 特定の課題に対して組織の間の壁を越えて取り組み、単一の部門では対処しきれない問題を解決する「タスクチーム」のつくり方を、オルタナティブブロガーの永井孝尚さんにまとめていただきました。成果を出し、勝つための組織作りを目指すマネジャーは必見の内容です。

キラーウェブを創る

 オルタナティブ・ブロガーである前野智純さんの著書をベースに、何らかの要素で「一番」を持ち、それがユーザーに支持されているWebサイトである「キラーウェブ」を実践している企業の事例を紹介していきました。情報が溢れる中、どうやってユーザーをWebサイトに呼び込み、購買に結び付けていくかについて、各企業が試行錯誤や失敗を繰り返しながら成功をつかんでいきます。次々と技術革新が生まれるインターネットの世界において、Webマーケティングにおける勝ちパターンを知ることができます。

アナリストの視点

 エンタープライズ界隈で起こるトレンドに焦点を当て、その本質を事実に裏付いた数字で理解できる情報を出すという目的で、2009年も引き続き実施しています。クラウドコンピューティングやIT投資動向からデジタルサイネージ、位置連動型広告の市場動向まで、さまざまなテーマを扱いました。

勝ち残る企業のWebプロモーション

 企業の広報やマーケティングの軸足が、マスメディアからWebに移りつつあります。マスに向けて広告を打つことに加え、その情報を欲しているユーザーに的確に情報を届けることが必要とされているからです。

 同企画では、Webプロモーション、Twitterマーケティング、ウィジェットマーケティング、エコシステム・マーケティング――など、新たなマーケティングの手法を紹介してきました。今後企業は、ソーシャルメディアやWebを活用して、顧客満足度や売り上げを向上させていくことが求められます。そのヒントをつかんでいただければ幸いです。小林啓倫さん、斉藤徹さん、本荘修二さんなどオルタナティブ・ブロガーの執筆陣の協力の元、形になった特集です。


 2009年は、組織論とWebを中心としたマーケティング関連の特集を多く担当しました。また「ITmedia オルタナティブ・ブログ」のブロガーの皆さまとも、積極的に連携していきました。2010年もこの流れを継続しつつ、企業分野における新たなトレンドやトピックを追いかけていきます。どうぞお楽しみに。

来年は中国で取材します

(伏見学)

 今年1年を通じて、中国本土に足を踏み入れられなかったのが心残りでなりません。10月に香港を訪れることはできましたが、既に完成しつくした感のある香港と、いまなお成長を続ける本土とでは街の息づかいがまるで違います。例えば、同じ中国の第一級都市である香港と上海は、似て非なるものなのです。

 その上海では来年、国際的な博覧会「上海万博」が開かれます。4000億円以上の費用を投じた上海万博は、会場面積(観覧エリア)が愛知万博の2倍以上に当たる328ヘクタールで、過去の万博では前例のない7000万人という来場者数を見込んでいます。2008年の北京五輪に続く、中国の威信をかけた国家的な大事業なのです。

発展する上海

 万博開催に伴い、ここ数年、上海の街は高速道路やビルなどの建設ラッシュで、工事の音が鳴り止まない日はありません。地面の下に目を向けると、こちらは地下鉄の穴掘り作業が進められています。現在8路線あるうちの3路線が2007年12月に開通、同時に既存2路線の延伸も行われました。2012年には13路線、2020年には全18路線となり、世界最長の約980キロメートルになる計画です。わたしは2007年と2008年の年末に上海を訪れましたが、ちょうどその間に新たな路線が開通していたため、昨年は手に持っていた2007年版のガイドブックに載っていない駅が乱立していて驚いた記憶があります。中国のスピード成長を実感した瞬間でした。

 11月から始まったITmedia エグゼクティブとITmedia エンタープライズの共同特集「世界で勝つ 強い日本企業のつくり方」では、主に中国ビジネスにまつわる企業を取材しております。そこでお会いした三菱商事顧問の武田勝年氏は、30年にわたり日中間のビジネスに従事し、中国事情に精通しています。武田氏は、胡錦濤国家主席が任期満了となる2012年が次の中国の大きな転換期になると言います。さらなる成長軌道を描けるか、それともブレーキが掛かってしまうのか……。

 環境問題や地域格差などさまざまな課題を抱えているとはいえ、中国の経済成長はしばらく続くでしょうし、来年にはGDP(国内総生産)で日本を抜いて世界2位になる見通しです。日本の高度成長期やバブル経済を知らない、いわゆる「ロストジェネレーション」のわたしにとって、今の中国やインドに触れることは国家レベルの成長を肌で感じるまたとない機会ですし、現場の空気を吸わずして臨場感など得られるはずもありません。そのことを編集者の使命として、来年早々にでも中国での取材を敢行したいと思います(決意表明)。

期待は現場にある

(福盛田結花)

 ITmedia エグゼクティブでは2009年もサイト上でそしてセミナー、勉強会を通して多くの会員の皆さまとの交流があり意義深いお話を伺ったり、価値ある情報をいただくなど貴重な1年でした。

 4月からスタートした連載「エグゼクティブ会員の横顔」ではさまざまな分野で活躍する会員の方たちに登場いただき、仕事に対する心構えや考えなどを紹介してきました。

 オリンピックやWBCなどに帯同し、選手の活躍を支えているスポーツ科学センターの小松先生、常に新しいことにチャレンジしているブリヂストンの原氏、部下へのあつい思いやりを持つ東レの橘氏など、人としてのありかたを考え直す機会をもらいました。

 物事を多角的に見るようなIT人材を育成しているウイングアークの岡氏、開発がいかに楽しいかを語るタイトーの三部氏、経営に欠かせないITにワクワクしながら取り組んでほしいと積水化学工業の寺島氏。IT技術者の育成はしばしば大きな課題として取り上げられますが、このようなリーダーからのメッセージを若者に伝えたいものです。

 新しいことに取り組むのが大好きというソニー銀行の河原塚氏、既存の価値観を打ち破りベストセラーを生み続ける日本経済新聞出版社の西林氏。イノベーションなど朝起きたら偶然ひらめいたということはなく、緻密な情報収集と考えて考え抜く日々の中から生まれるのだと思い知らされました。

 リーマンショックに端を発した経済危機で世界中が崩壊に向かっているように見えた年でしたが、実業で結果を出している方たちの話を聞いた後は必ず勇気がわいてきました。日本は大丈夫と思えました。来年もまだまだ厳しいと言われていますが、会員の皆さまのインタビューを通して、元気がでる「ITmedia エグゼクティブ」を目指します。

妙なアドレナリン

(怒賀新也)

 2009年に最も印象に残った出来事は、米OracleによるSun Microsystemsの買収です。J.D.Edwardsを買収して間もないPeopleSoft、Hyperion、BEA Systemsといった当時の主な取材先を次々と飲み込んだOracleでしたが、あくまでもソフトウェアカンパニーとしての位置づけであったため、Sun買収には驚きました。

 4月20日の夜9時近くでした。東京・有楽町のドイツ系居酒屋で、昔の同僚と意味のない話をしていました。ソーセージでつながったのか、同じくドイツ系のERPベンダー最大手に勤める友人から、携帯電話に連絡をもらいました。

「OracleがSunを買ったで」

「え、Oracle?」

 その時は、既にIBMによるSun買収で固まりつつあり、買収額をめぐって何やらもめているといった状況でした。かといって、Oracleによる買収を予想していた人はあまりいませんでした。実際にはOracle、IBM、HPの3社が綱引きをしていたようです。

 大型買収は、ニュース性だけでなく、運用保守などの面で既存のユーザー企業への影響が大きいこともあり、記事への注目度が高くなります。特に、OracleとSunといえば、エンタープライズ系IT企業として中心的存在であるため、情報をもらった瞬間から一種の非常事態になりました。

 外国の大型買収の話が日本にいながらにして漏れてくることはまずないので、速報という意味では、現地の公式発表が「ヨーイドン」の瞬間になります。2004年12月のOracleによるPeopleSoft買収を日本で最初に報じたのはわたしですが(すみません、未確認かつ自己満足です)、今回は居酒屋にいたこともあり、第一報は既に別のメディアに先を越されてしまっていました。そこで「解説で勝負」と意を決したのでした。

 騒々しいお店の席に座りながら、パワードリンク(ビール)の力も借り、業界アナリストやライターさんなど手当たり次第に電話を掛けて「OracleがSunを買収しました。今後の展開についてコメントをください」のように依頼していきました。何人かのお話は、その場で聞いてPCに打ち込みました。(関連記事

 こういう瞬間は、なんというのでしょう。妙なアドレナリンが出ているようです。正直なところ、読者のためというよりは、そうすること自体が目的になっています。動物的な欲求と同じように、見えない何かに突き動かされている感覚で、多くの記者が「これだからこの仕事はやめられないね」と言う際の根拠なのでしょう。

 ところで、この一連の記事展開で、ITmedia エンタープライズを自画自賛したことが1つだけありました。それは、ブログとの連携です。ITmedia エンタープライズは、220人のブロガーを抱えるオルタナティブ・ブログと組織を1つにして連携しています。OracleによるSun買収について、オルタナティブ・ブロガー全体にエントリーを依頼したところ、各分野で専門知識を持つ多数のブロガーが、ユニークなエントリーをしてくれました。

 記事には記事の、ブログにはブログの長所があります。1つのテーマについて、記事とブログを融合させ、大きな盛り上がりを作るという手法は、新聞や雑誌ではできないインターネットメディアならではの強みだと考えています。今後もこれを進めていきます。

 2009年のご愛読ありがとうございました。2010年も、読者にとっての分厚い情報源になるべく、ふぞろいの編集者たちが最大の努力をしていきます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。よいお年を!

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