Rackable SystemsとSun Microsystemsの最近の製品は、このコンテナをベースにしたシステムのアプローチが、商業的に成功する可能性を示唆している。
データセンターのデザインを洗練させる過程では、今後ハードウェアとソフトウェアに関する数多くの作業をこなさなければならない。特に、本稿で提起しているフィールドサービスなしのコンテナは現実的な設計上の利点だろうか? つまり、工場で組み立てるコンテナに、メンテナンスサービスなしで丸3年プラス償却サイクル期間稼働させるに十分な冗長性を持たせることができるのだろうか?
フィールドサービスを不要にするデザインアプローチが、高い費用効果を実現するなら、これまでよりも高い集積度が実現できる。通路スペースが不要になり、統合化された冷却装置のデザインが実用的になるからだ。一般的に、フィールドサービスを前提としてデザインされるシステムでは、液体によるダイレクトな冷却は制約を受ける。Rackable は、それぞれのラックの横に小型のCRACユニットを配置することで、ダイレクトな液冷に近づいている。しかし、同社は空気を水で冷やすというアプローチをまだ用いている。
現時点で何社かのベンダーは、さらに電力効率のいいデザインを提示している。各システムに対して、非効率なスイッチング電力を供給するのではなく、ラックレベルで何らかの整流器/変圧器が提供され、そのラック内のすべてのシステムに対してDCが分配される。送電中のロスを避けるため、ラックまでの電力供給には高圧ACが使われる。トランス出力電圧480VACが一般的な選択である。ラックレベルの高性能な整流器/変圧器とシステムごとの効率的なDC供給の組み合わせは目覚ましい省電力効果を生み出す。効率的なことに加えて、このアプローチは実地使用においても高い信頼性が得られることが証明されている。
それぞれのラックに高圧ACを供給し、システムには低電圧DCを供給するデザインには欠点がある。システムにおけるDCの損失を防ぐには、DCを通電する母線を太くする必要があるのだ。つまり、ラックに高電圧のDCを分配することで潜在的なメリットが得られても、電圧が上昇するにつれて、人的作業におけるリスクも高くなってしまう。
このシステムを安全に運用するために、電気技師の手助けが必要になってしまうと、あらゆる省電力を講じても、そのコストは増大してしまう。だが、フィールドサービスを行わない前提であれば、コスト面で問題を生じることなく、高電圧を活用できる。フィールドサービスにおけるコストの制約が取り除かれるなら、どのような電力分配が可能になるのだろうか?
これまでに説明してきたデザインでは、データセンターのビルディングブロックは全天候型搬送用コンテナで、3〜5段に積み重ねられる。このモデルによる理想的なデータセンターとは、どのようなデザインになるのだろうか? 積み重ねられたコンテナに囲まれた、コンパクトで集中化されたネットワーキング、および、電源、冷却、セキュリティなどの設備で運用していけるのだろうか? コンテナを屋内に設置することは、コスト面で正当化されるのだろうか? 今日のデータセンターの設計理論では、理想的な設備規模は10〜20メガワットとされている。モジュール式のデータセンターは、どのようにして、このデザイン上の要点を変えていくのか?
一般的なデータセンターでは配電と装置のためのコストが全コストの40%を超えるのに対して、建物自身のコストは15%*をわずかに超える程度である。その結果として、電力密度を選択するときには、難しいトレードオフに取り組まなければならない。
対象となるデータセンターを、きわめて高い電力密度(容積率を上回る電力)をサポートするようにプロビジョニングした場合、データセンターの設計より少ない平方フィート当たり電力しか消費しないようにラックを設置すれば、供給される電力を消費しきれないというリスクが生じる。これでは、高価な電源装置が無駄になってしまうだろう。
その一方で、低電力密度がデータセンターにプロビジョニングされる場合のリスクは、床面積が無駄になるということである。しかし、フロアスペースの無駄によるロスは、電力容量の無駄遣いよりも、ずっと安いものである。このトレードオフをうまく調整するのは難しいため、多くの施設では低電力密度プロビジョニングの方向に向かう。なぜなら、設備における電力密度を下げ過ぎる失敗の方が、過大な電力を供給するよりも安く済むからである。
その結果として、たいていの施設でフロアスペースが無駄にされている。これはコストの無駄であり、効率的な冷却と配電にネガティブな影響を与える。モジュール式のデザインでは、データセンターのフロアスペースを、電源の供給や配電能力に対して容易に適合させることができる。この制約の緩和は、データセンターのデザインにどのような影響を与えるのだろうか?
モジュール式のデータセンターは、大規模に分散したサービス網の可能性を広げる。10〜20メガワットの電源消費と、巨大なネットワーキング要件に対応する少数の大規模データセンターにすべてのリソースを凝縮するよりも、モジュール式データセンターであれば、実際にコンピューティングを利用する場所の近くからサービスを提供できるのではないだろうか? 大規模分散データセンターの設計は、ネットワークリソースへの要求を減らすことができるのだろうか? そして、このデザインで、より多くの分散サービス網の管理における増加する複雑さを正当化できるだけの十分なコスト削減が可能なのか?
セクション3で述べたように、汎用のハードウェアコンポーネントの冗長性をベースにして、信頼性の高いサービスを構築する際に生じるソフトウェアの課題は数多く残っており、ここで説明している方法でそうした複雑さが緩和されることもなければ、悪化することもない。
幸いにして、インターネットスケールにおける大半のサービスが、このソフトウェアデザインを用いて構築されている。しかし、1万〜10万ノードのレンジで分散システムを構築する際にも相当量の課題が残っており、成功事例も公表されていない。このエリアにおける、さらなる研究が必要とされている。
今日のデータセンターは、きわめて高い冗長性でデザインされている。そして、停電時の運用を保証するために、10台以上の2.5メガワットクラスのディーゼル発電機(図6)を持つことが一般的となっている。これらの発電機を購入/保守するには、大きなコストが必要となる。
多数のモジュール式データセンターを用いることで、データセンターやサービスに障害が生じたときに、電源の冗長性に依存することなく、ほかのデータセンターが負荷を引き継ぐような方式は意味をなすだろうか? データセンター間で負荷を自由に移動できるような、遅延に対して充分な耐性を持つアプリケーションを記述できるのだろうか? こうした環境において、どのようなソフトウェアアーキテクチャが最適であり、また、そのような状況で意味をなすのだろうか?
発電機業界では、大型のディーゼルエンジンを搬送用のコンテナ内に詰め込んだ製品を、ポータブルパワーとしてリースするビジネスが展開されている。それらは、交戦地帯や災害指令センター、恒久的施設など、メンテナンスが行えない場所で使用されている。貧弱なインフラしかない場所や既存施設での季節的あるいは予想外の要求に迅速かつ効率的にコンピューティングとストレージを提供することを中心に構築されたリース業があれば、同じことが、コンピューティングとストレージ容量でも可能だろう。
本稿では、20x8x8フィートの搬送用コンテナをベースにして、新しいデータセンターマクロモジュールを提案してきた。機敏性や、資産性、可用性に加え、展開、管理、保守の利点と、ライフサイクルにおける先進性も説明してきた。さらに、各コンテナはサービスを要求することなく、コンポーネントに障害が生じても、冗長性を持ったキャパシティで対応することで、モジュールとしての機能も維持できる。そこでは、管理コストが大幅に削減される。さらに、従来のデータセンターで人的エラーが引き起こすダウンタイムの20〜50%が低減される。
これらのモジュールは、ダイレクトな水冷式であるため、今まで以上に高集積度のシステムが実現でき、さらには、スペース要件が低減される。すべての装置をハウジングするデータセンターのための大規模な建物の必要性に替えて、全天候型の汎用搬送コンテナの中に、システムはインストールされ出荷される。必要なのは、セキュリティ、電源、冷却、ネットワーキングを管理するための小規模な建物だけである。データセンター全体を、トラックや鉄道、貨物船により、容易に移動できる。このアーキテクチャはデータセンターを、静的で極めて高価なものから、動的で安価なものへと変質させる。
CIDRの匿名レビューと、彼らからの情報に感謝する。シュエドン・ファンは、データセンターの効率化と自動化、そして、データセンターにおけるハードウェア革新に関する初期のブレーンストーミングで、アイデアを文書化することに貢献してくれた。
また、顧客のためにインストールされたベータ・コンフィグレーションから、一般的には入手が困難な資料、画像、経験的なデータを提供してくれた、Rackable Systemsのマット・ガムバルデッラとジョバンニ・コグリトールに感謝する。
さらに、すべての貴重なレビューコメントを提供してくれた、アツール・アジャ、アンドリュー・センシーニ、サム・クリスティ、ファイロ・デソウザ、ジム・グレイ、ジェニファー・ハミルトン、デビッド・ニコルス、パット・セリンジャー、デビッド・トレッドウェルに感謝する。
九州電力株式会社情報通信部に在籍後、九電子会社の役員を経て株式会社インフォテック アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。同社では、電気通信事業や情報通信技術などにかかわる調査・研究や、人材育成のアドバイザーなど幅広いコンサルティング業務を展開している。
Windows ServerおよびAzure、Hadoopを専門とする、翻訳家でありコンサルタント。wipseの事務局長を務め、Azure User GroupのJapanローカルグループをホストしている。ブログは「Agile Cat」
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