世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

利用契約の検討――グローバルクラウドで失敗しないために(前編)世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(2/2 ページ)

» 2010年02月09日 10時00分 公開
[水越尚子,ITmedia]
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(2)紛争解決の方法

 クラウドサービスを利用する企業は、契約当事者や準拠法(どの国の法律を適用すべきかという問題)、管轄裁判所などの確認が必要だ。与信や技術力の信頼のため、そしてプロバイダーとの紛争が起きた場合にどう解決するかを検討するために、契約当事者の実績なども確認しておきたい。

利用契約の準拠法は、当事者自治の原則により、当事者の意志に決定を委ねるという考え方が一般的だ。日本でも、法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による(法の適用に関する通則法 第7条)と定められている。


 企業がクラウドサービスで定められているセキュリティポリシーに違反すると、別の利用者にも影響が出る。場合によっては、契約違反としてプロバイダーから契約を解除されたり、損害賠償を請求されたりする。逆にプロバイダーが重要な情報を流出、消滅させると、利用側からの訴訟も起こりかねない。

 企業は双方の場面を想定して、利用契約の紛争に関連する条項を検討する必要がある。

 一般的に、クラウドサービスの利用契約の成否や効力は、プロバイダーと企業が契約で合意した準拠法に基づいて決まる。約款(不特定多数との契約を定型的に処理するために作成された契約条項)など契約の内容を変更できない場合も、当事者による準拠法の指定として否定されないのが通説である。利用契約を交渉できない場合も、準拠法の指定は有効と認められる。

 世界規模でクラウドサービスを提供するプロバイダー間でも、契約の当事者が誰か、どの地域で紛争を解決すべきかといった点について、利用規約の異なった考え方を取っている。

クラウドサービスの種類 契約企業 準拠法 専属的合意管轄裁判所 備考
Google Apps Premier Edition 米国デラウェア州法人・Google カリフォルニア州法および米国連邦法 カリフォルニア州サンタクララ郡の裁判所 日本からの利用を想定し、アジア向けの利用規約を検討している
Amazon EC2S3 米Amazon Web Services ワシントン州法 ワシントン州キング郡の裁判所
Force.com セールスフォースドットコム日本法人 日本法 東京地方裁判所または東京簡易裁判所 日本語Webサイト上で確認できるマスターサブスクリプション契約を検討している
主要クラウドサービスと関連する準拠法や管轄裁判所

(3)期間満了、解除、事前解約におけるデータの返却

 クラウドサービスは、契約期間の満了や解除、プロバイダーや企業が事前解約した場合に終了する。任意の解約の権利は、プロバイダーと利用者の双方に認められていることが多い。Google Apps Premier Editionでは6カ月前、Amazon EC2/S3の有料サービスでは60日前に事前通知をすることで、プロバイダーから任意の解約ができる。

 データ返却の項目が利用契約に記載されていない場合もある。Google Appsでは、Googleが同社のサービスに用いるソフトウェア関連の機密事項を保護するという条項が定められているが、データの返却に関する条項はない。

 プロバイダーの都合で緊急にデータ移行を迫られる場合もある。2009年2月、Webデータベースのホスティングサービスを手掛ける米Cogheadは経営不振に陥り、IT資産を独SAPに売却した。クラウドサービスの停止を伝えられた顧客は、9週間中に返却されるデータを吸い上げ、別のクラウドベンダーや自社のサーバに戻し、データベースを作り直さないといけなくなった。

 企業はデータ移行やバックアップ、破損データのサポート、必要なコストについて考え、プロバイダーと別途契約を交わすか代替手段を練るかを決めておいた方がいいだろう。

クラウドサービスの種類 プロバイダーの対応 利用者への選択肢
Google Postini Services 期間内にサービスを更新しなかった場合、Googleは電子メールのアーカイブ機能に蓄えたデータやインデックスの保管を終了させる (1)データの削除(無料)、(2)HDD媒体でのコピーの受け取り(有料:その時点での相場価格による)、(3)該当データへのアクセス期間を延長(有料:その時点での相場価格による)
Force.com 有料サービスのサブスクリプション契約が終了した場合、30日以内の解約請求がなければ、すべてのデータを消去する 30日以内にCSV形式の顧客データファイルと独自のフォーマットをダウンロード提供する
クラウドサービスのデータ返却事項

 次回はグローバルクラウドを自在に活用するための「データ管理」について、企業が検討しておくべきポイントを紹介する。

著者プロフィール 水越尚子(みずこし なおこ)

水越尚子

2010年3月1日にエンデバー法律事務所を設立。日本およびカリフォルニア州の弁護士資格を有し、IT企業での社内弁護士の経験を生かして、情報通信、セキュリティ、知的財産権、国際取引を専門に、企業法務に関するアドバイスを行う。一橋大学卒業。




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