情報システムのクラウド化に取り組んだ「中堅企業のCIO」コスト削減を経営改善につなげる

“環境対応印刷会社”をうたう野毛印刷は、リーマンショックを契機に経営の構造改革に着手した。情報システムの改善を担ったのは、CIOとしての眼差しで“あるべきIT基盤”を構想した情シス担当者だった。目標達成率120%という結果を出した移行プロジェクトを支えたソリューションは、どのようなものだったのか――。

» 2010年02月22日 10時00分 公開
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 環境に優しい印刷方式というと、古紙パルプを配合した再生紙や、ソイ(大豆)インクを利用したものが挙げられる。実際、緑の「R100マーク」などを目にしたことのある読者も多いことだろう。

 加えて近年、印刷物への表示が増えているものに「バタフライマーク」がある。オオカバマダラという蝶の意匠をあしらったこの環境ラベルは、1993年に米国で発足し、その後日本を含む各国に広がった「Waterless Printing Association(以下、WPA)」が発行するものであり、その名のとおり「水なし印刷」を意味するものだ。

 水を使う、一般的な印刷方式では、その過程でIPAという有機溶剤が利用される。また廃液からは、VOC(揮発性有機化合物)やCO2が発生してしまう。だが水なし印刷であればこれらの発生を抑えられ、また浄水の仕組みも不要になる。印刷会社自身のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)につながるだけでなく、顧客企業自身も、でき上がった印刷物を通じて、環境に配慮していることを伝えられる。

 横浜を中心に事業展開し、2008年には創業60年を迎えた野毛印刷も、“環境対応印刷会社”として水なし印刷を推進する企業だ。日本WPAの会員企業としてもその名を連ね、廃液を伴う従来のフイルム出力も、「水なしCTP(Computer to Plate:入稿データからフイルムを出力することなく、直接刷版を出力する方式)」へ完全に移行したという。

 実は印刷という業態は、比較的早くから業務の電算化が図られた分野だ。版下はDTPアプリケーションで制作された入稿データとして届けられることがほとんどだし、後工程も(野毛印刷のように)CTPということであれば、顧客との間だけでなく、社内の業務プロセスも必然的にネットワーク化されることになる。実際、「Windows 95がリリースされてほどなく、事務的な業務にもPCを利用し始めました」と総務部 担当係長 システムエンジニアの浅野貴年氏は話す。

リーマンショックを契機に“筋肉質な情報システム”構築を目指す

野毛印刷 浅野貴年氏

 野毛印刷では印刷関連事業だけでなく、Web制作やデータベースパブリッシングといったサービスを顧客に提供していることもあり、その後社内でのIT活用範囲は大きく拡大。2007年頃には社内にクライアントPCを束ねるネットワークサーバを7台設けるまでに拡大したという。ネットワークサーバはbit-driveが提供するオールインワン型サーバで、VPNやファイアウォールなどのゲートウェイ機能とメール/Web/プロキシ/DNSなどのインターネットサーバ機能を統合したものであった。

 こういった基盤の構築と運用は、浅野氏の前任者によるもの。浅野氏が情報システム担当として引き継いだのは2008年7月のことだが、その9月、世界経済に大きな影響を与えた事件が起こる。リーマンショックだ。

 米国に端を発した金融危機が、日本経済にも波及したことで、「特に広告、宣伝系の印刷案件に影響がありました」と浅野氏は振り返る。生き残りを図るだけでなく、景気回復時にはその波にいち早く乗ることができる体制づくりのため、野毛印刷は経営の構造改革に着手した。「社長命令により、情報システムに限らず全社的に、コスト削減に取り組んだのです」(浅野氏)

 とはいえ浅野氏は、全社的なコスト削減への取り組みが開始される前から、より効率的な情報システムについて構想を練っていたという。「顧客からのデータ入稿が当たり前になるといった背景から、“印刷業務のIT化”は急ピッチで進み、本社内だけでなく、工場などもネットワーク化を図りました。印刷で扱うデータと業務で扱うデータを分離するなど、通信環境が安定するよう、ネットワークルートを複数化するといった方法をとったのですが、結果として複数のゲートウェイが立つ構造になってしまい、異なるゲートウェイに向けているPC同士がVPN間で会話できない問題もありました」と浅野氏は話す。

 こういった課題を解決するにも、浅野氏はいわゆる“兼任情報システム担当者”であり、インフラの運用だけでなく顧客に提供するための開発案件も、SEとしてこなさなければならない。すべてを自分の手で構築/運用していくのは、作業負荷の点から難しいし、人を増やせばコスト削減という流れに逆行してしまう。「わたしのような“兼任情シス”でも無理なく運用できる、集約化と一元管理化された情報システム基盤。その構築をイメージし、検討を始めました」(浅野氏)

 そこで浅野氏が注目したのは、既存のネットワークサーバの後継サービスで、サーバなどのハードウェアリソースを社内に抱える必要がない(=VPNで結ばれた事業者データセンターに集約できる)だけでなく、WebサーバやメールサーバなどもSaaS型で利用できるソニーのプライベートクラウドサービス、「bit-drive マネージドイントラネット」だった。

可視化と一元管理可能なマネージメントツールが大きな力に

 マネージドイントラネットについては、2008年11月に出席したソニー主催のセミナーで、さらに理解を深めたというが、当然、他サービスとも比較検討したという。「公平に判断して、コストについてはどちらも遜色ありませんでした。しかしプライベートクラウドをうたうマネージドイントラネットはVPNというセキュアな環境でサービスとして利用できるアプリケーション群が魅力的でした」と浅野氏は話す。

 一般的なホスティングサービスの場合、ハードウェアは集約できても、その上で利用する各種サーバやセキュリティサービスを自社で構築する必要があるが、マネージドイントラネットなら、基本アプリケーション/オプションアプリケーションとして、必要とされるサービスが取り揃えられている。ユーザーは自社が求めるサービスをチョイスし、適用するだけで済むのだ。

 野毛印刷は2009年3月にマネージドイントラネットの導入を決定。浅野氏が主導して段階的に移行を進め、2009年6月に全面稼働に至った。「とはいえ自分でハードウェアを設置したり、サーバを設定したりする必要はありませんから、実質的な移行期間は1カ月ほど。ユーザーに負担を与えることもなく、移行に関するトラブルも“ゼロ”でした」と浅野氏は胸を張る。

 同社はマネージドイントラネット上で、メール/Web/プロキシ/ログ管理の各種サーバ群に加えウイルスチェック環境を配置している。その管理下とするクライアント数は100台強。「以前の環境では、例えばサーバ毎に管理アカウントが設定され、計7台のサーバ別々にログインしていましたが、そういった手間がなくなりました」と浅野氏は話す。

 浅野氏によるこの評価の背景には、アプリケーション群を管理するWebベースのインタフェース「マネージメントツール」の存在が挙げられよう。

 同ツールは、bit-driveのデータセンターとユーザー環境を結ぶ専用ルータ「DigitalGate」を通じて収集された情報を可視化し、一元的に制御する管理アプリケーション。野毛印刷にもDigitalGateが4台設置されているが、以前のように1台ごとに設定する必要はなく、マネージメントツールに1回ログインするだけで、すべてに設定を反映できる。

 これはDigitalGateが多拠点にまたがり配置されている場合でも同様だ。メール/Web/プロキシ/ログ管理の各種サーバの設定はもちろん、異常を検出した際のフローも、一元的に定義できる。併せて管理者がどのような設定が最適かを判断する材料として、CPUやメモリの利用状況、そしてネットワーク内の回線負荷状況をGUI上に表示する「トレンドグラフ」が提供される。

 負荷をモニタリングするため、全拠点を対象にトレンドグラフを一括表示している(画像はサンプル) 負荷をモニタリングするため、全拠点を対象にトレンドグラフを一括表示している(画像はサンプル)

 浅野氏は実際に、トレンドグラフにより障害を未然に防いだことがあるという。「あるネットワーク間で、毎秒8Mバイトものパケットが流れていました。明らかに過大な負荷なので確認したところ、あるPCの設定に問題が生じていたことをすぐに発見できたのです」と浅野氏は振り返る。

 「管理者がたやすくネットワーク全体を見渡せ、問題があっても1つの管理ツールから一元管理できる。当初イメージしていた“集約され一元管理可能な情報システム基盤”を構築できました」と浅野氏は評価する。「結果として、ユーザーに対するサービスレベルを向上できたと考えています」(浅野氏)

マネージドイントラネット移行前は拠点間のネットワークが複雑だったが、刷新によりシンプルになった。運用負荷やコストも削減できたという マネージドイントラネット移行前は拠点間のネットワークが複雑だったが、刷新によりシンプルになった。運用負荷やコストも削減できたという

CIOとしてクラウド時代の情報システムを構想する

 なお、移行のきっかけでもあったコスト削減については、どういう結果だっただろうか? 「先日、設定された目標に対する下半期(2009年1-6月)の評価が行われた結果、削減目標に対する達成率は約120%と示されました」と浅野氏は話す。

 実際、上述の通り従来環境では計7台のオールインワン型サーバとそれぞれの回線で運用していたが、移行後は4台のルータとデータセンターへのアクセス回線、そしてホスティングサーバに集約、一元化された。これだけでもコスト削減が見込めるだろうし、今後サーバを追加利用する際も、仮想サーバで構築できるため、運用負荷やコストの低減に対するさらなる効果も見込めるだろう。

 だが浅野氏の意識は、コスト削減だけに向けられてはいないようだ。例えば外出することが必要な営業系のスタッフを中心に、モバイル環境からの社内ネットワーク接続を実現するbit-driveの「PRA PLUS」を導入している。不要な移動時間などを排除することが利益に直結すると考えられるだけに、“目先のコストに捉われず投資すべき分野にはしっかり投資する”という野毛印刷の姿勢の表れだと言えよう。

 より良い情報システムを構想し、実装し、経営の構造改革に寄与する――こういった浅野氏の姿勢は、既に氏がCIOの立場にあることを意味する。マネージドイントラネットの導入で削減できた負荷とコストを、今後の改善にもつなげたいという。

 「自分は運用だけでなく、会社の利益を生む開発にも携わる立場。兼任とはいえ、情報システムの改善でさらに運用負荷を下げ、開発の比率を上げたいと考えています。また、社内にはまだ(マネージドイントラネット上に)集約しきれなかったサーバ群や、業務アプリケーションが存在している。PCにエージェントを常駐させるタイプのアプリケーションも廃していきたい。それらを今回構築したプライベートクラウド環境に包含するにはどのような手段があるのか、構想を続けます」(浅野氏)

 浅野氏の眼差しは、所有するITから利用するITへと変わるクラウド時代の到来を、的確に見据えているようだ。

株式会社 野毛印刷社

株式会社 野毛印刷社

水なし印刷を中心とした環境対応印刷「eco noge」を展開。さまざまな業務を一貫した「ワンストップサービス」で対応。

株式会社 野毛印刷社

・所在地 営業企画本部 横浜市南区新川町1-2

・設立 1948年9月


・事業内容 高精細カラー印刷および印刷に伴う企画・制作

 XML・PDFデータ加工並びにデータベースパブリッシングの構築

 バリアブルデータプリント/カラー・モノクロオンデマンドプリント



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