世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

アニマルスピリットで行け――元産業再生機構COOの日本再建論世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(2/5 ページ)

» 2010年02月25日 08時00分 公開
[聞き手:怒賀新也, 土肥可名子,ITmedia]

「グローバル化」の落とし穴

 ここで気をつけないといけないのは、グローバル化が日本のGDPに必ずしも貢献しないということです。

 例えば、海外で環境産業を育てるとします。この分野で日本企業が強くなったからといって、それが日本人の雇用につながり、日本人の所得につながるとは限りません。今話したような地産地消型でやるとしたら、現地雇用を生み、現地で消費されるわけですから、ほとんどの利益は日本に来ません。

 そのことに気づいていない人が意外と多い。成長戦略を描くときにどうしても昔みたいな閉鎖型の経済システムを前提で考えてしまう。環境産業が盛り上がる、イコール国内で製品を作って輸出するというように考えてしまいます。海外で生産すると日本のGDPにはなりません。法人税も現地で納めるわけです。せっかくある産業を育成しても、それが花開くときに現地生産、現地消費になってしまっては、日本人の所得にはならないのです。

 つまり日本企業にとっていいことが日本国にとってもいいこととは限らなくなるのです。逆もまた真なり。残念ながらこれがグローバリゼーションのリアリティです。これを分かっていない日本人が多い。小泉政権時代の好景気のとき、企業業績が上がったのに労働分配率が上がらないと指摘されましたが、上がらなくて当然です。海外の子会社の売り上げが伸びているだけで国内の親会社が伸びているわけではない。あれは労働分配率の問題ではなくグローバリゼーションが原因です。

 だから大事なのは中国をはじめとする新興国の経済成長の果実をいかに日本に結実させるかなんです。

ITmedia 中国市場についてはどのように見ていますか。「社会主義市場経済」という言葉自体が矛盾をはらんでいるようにも思えます。

冨山 いろいろ言われていますが、潜在成長率は高いので、波はあっても長期的には成長していくと考えています。

 歴史的観点からいうと「言論の自由」だけでは人間は生存できません。経済的な発展段階では、食えるか食えないかというのが主要な問題であって、政治体制が民主的かどうか、言論の自由があるかないかはシリアスな問題にはなりません。市民革命であれ、社会革命であれ、革命を起こす側は大抵飢えている。人間、お腹いっぱいのときにわざわざ血を流してまで政権転覆を図ろうとはしません。

 もちろん政治哲学的には言論の自由は大事ですし、わたし自身そういった不自由な社会は嫌いですが、人間が「生きていく」というリアリズムで考えれば「食える」ことの方が大事ですよ。

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