経営説明会で社長交代を発表したNECの思惑Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2010年03月01日 12時10分 公開
[松岡功ITmedia]
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満を持したNECの「反転攻勢の狼煙」

 こうしたV2012の目標を達成するために必要な点として、遠藤次期社長は「NECのコアであるITとネットワークの融合を軸とした顧客指向のソリューション」を挙げ、これまで縦割りで展開してきた両分野の事業形態を大きく変更し、組織を越えた活動で事業拡大に挑む構えをみせた。

 この点については矢野社長もこれまでの経営を振り返りながら、「NECはこれまでもITとネットワークに注力してきたが、最近の成長戦略として半導体や携帯電話に期待した部分は否めない。しかし、期待通りにはいかなかったので再編を進めている。そうした流れと違って今回の中期経営計画は、ITとネットワークの融合というNECのストライクゾーンに集中的に投資する。クラウド時代になってC&Cが現実のものになってきた今、ストライクゾーンにボールをきちんと投げ込めば、売り上げや収益はついてくる」と、事業拡大への強い期待感を示した。

 遠藤次期社長は、さらに事業領域ごとの詳細な計画やグローバル展開の取り組みなどを説明したが、それらについてはすでに報道されているのでここでは割愛させていただく。

 さて、会見での演出に込めた矢野社長の思惑だが、その前にもう1つ、質疑応答で明らかになったエピソードを紹介しておきたい。遠藤常務が矢野社長から次期社長の打診を受けた際のやりとりだ。遠藤常務によると、2月中旬の週末に打診を受けた際、矢野社長からこう熱心に説得されたという。

 「これからはV字回復でNECを引っ張っていかなければならない。そのためには世代交代が必要だ。若い人たちが大いに力を発揮できるようやってほしい」

 この言葉に心を動かされた遠藤常務は、重責を覚悟したうえで週明けに「お受けします」と答えたという。

 矢野社長66歳、遠藤次期社長56歳。66歳から56歳への10歳の若返りは、くしくも1月22日に社長交代を発表した富士通のケースとまったく同じだ。両社とも56歳の新社長が4月1日付で就任する。矢野社長の今回の決断には、富士通の社長交代も影響を与えたことは間違いないだろう。

 それにしても今回の会見の演出は見事だった。中期経営計画の説明もさることながら、どんな質問にも的確に答える遠藤次期社長は、もはや経営トップとしての立ち居振る舞いを身に付けているように見えた。同時に、矢野社長は遠藤次期社長に計画を説明させることで、経営トップとしての覚悟を肌で感じさせようとしたのだろう。

 NECはここ2年間で売上高が1兆円減少し、株価もここ数年低迷を続けている。理由はいろいろあるが、「どうした! NEC」という声が高まっているのも確かだ。NECへの思いが非常に強い矢野社長は、そうした声も敏感に受け取っているはずだ。そうした背景から、今回の会見は満を持したNECの「反転攻勢の狼煙」に感じられた。矢野社長の思いもそうだったのではなかろうか。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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