いよいよ始まるタブレット戦争 「両面の敵」と戦うiPad

AppleのiPad発売が近づき、タブレット市場で本格的な戦いの兆しが見えている。iPadは一方では他社のタブレットPC、もう一方ではKindleなどの電子書籍リーダーと戦うことになる。

» 2010年03月19日 18時52分 公開
[Nicholas Kolakowski,eWEEK]
eWEEK

 AppleはiPad発売日の3週間前の3月12日、同製品の予約受付を開始した。数カ月前から期待されていた話題の製品の発売の準備が整い、消費者向けタブレットPCの分野は盛り上がりを見せている。

 Appleは2つの面でライバルと戦うことになる。iPadに本格的な電子書籍リーダー機能を搭載することで、AmazonのKindleやBarnes & NobleのNook、小規模企業の電子書籍リーダーと直接競合する。そしてタブレットマシンとして、2010年末までにHewlett-Packard(HP)などの企業が投入する類似の製品とも競合する。

 戦線がどう展開されるのか、誰が巨額の利益を得られるだけの市場シェアを獲得するのかが明らかになり始めている。おかしなことだが、今の段階で目立っている戦線はAdobe Flashだ。

 AppleはiPhoneと同様に、iPadでFlashをサポートしないという決定を下した。ジョブズ氏はその理由を、Flashは非常にバグが多いからと説明したと伝えられている。だが、Flashは多数の人気Webサイトでリッチメディアを表示するのに使われている。その上すぐさま多くのライバルが、自社のタブレットを差別化する手段としてこの問題を利用している。

 「このタブレット製品では、手のひらでフルにWebサーフィンが楽しめる。骨抜きにされたインターネットではなく、何かを犠牲にすることもない」とHPのパーソナルシステム部門副社長兼CTO(最高技術責任者)フィル・マッキニー氏は3月8日のVoodoo Blogで同社のタブレットについて語っている。「この製品の大きな特典は、Windows 7を搭載しているため、Adobeをフルにサポートしているということだ」。HPのデバイスはiPadと同様に、電子書籍の閲覧、Webサーフィン、映画などのメディア再生の機能を備える。

 ジョブズ氏のFlash外しは裏目に出る可能性があると、Pund-IT Researchのアナリスト、チャールズ・キング氏は3月10日のリサーチノートで述べている。

 「われわれにとって、ジョブズ氏のコメントはiPadの欠点について言い訳しようとして、いら立ちながら誤った説明をしているように思える」とキング氏。「Flashについてどう考えていようと、メディア利用を主な目的として設計されたiPadを、有名なメディアサイトの幾つかに対して閉ざしてしまうのはおかしい」

 AppleがFlashをサポートしないことで、MicrosoftとHPにとって「Appleに張り合う余地」と思えるものができたかもしれないとキング氏は付け加える。「Flashに対するジョブズ氏の全面攻撃は、Appleの最大かつ最も危険で有力なライバル2社(HPとMicrosoft)に『こっちでは問題なくAdobeが使えますよ』とアピールする機会を与えている。これはジョブズ氏とApple自慢のエンジニアに言外の疑惑を投げ掛けることになる。HPとMicrosoftがFlashに対応できるのに、Appleには何の問題があるのか、と。

 「Flashのように広く普及している技術を無視し、その開発元を軽視することで、ジョブズ氏は閉じておきたいはずのドアを開いてしまった。ライバルがこれらのデバイス、技術、マーケットをジョブズ氏自身以上にはっきりと定義づける機会を与えてしまっている」(キング氏)

 普通のユーザーにとってFlashが差別化要因になるかどうかはともかく、さまざまなタブレットPCや電子書籍リーダーのメーカーも価格を中心に新たなパラダイムを規定しようとしている。これは予想されていたことだ――競争の激しいビジネスは何であれ、価格競争の要素がある――が、Appleもそのライバルも特に、値下げを予期しているようだ。

 2月18日のWall Street Journalの記事によると、HP幹部はAppleのiPadに対抗するために自社のタブレットの価格を調整する可能性がある。一方Apple幹部は、Credit Swissのアナリスト、ビル・ショープ氏に、必要があればiPadの価格設定に「融通を利かせる」と示唆したと伝えられている。

 iPadは16GバイトHDD搭載のWi-Fiモデルが499ドル、Wi-Fi+3Gモデルが629ドル。32GバイトHDDだとWi-Fiモデルが599ドルで、Wi-Fi+3Gモデルが729ドル。64GバイトではWi-Fiモデルが699ドルで、Wi-Fi+3Gモデルが829ドル。Wi-Fiモデルは4月3日に発売され、Wi-Fi+3Gモデルを注文したユーザーは「4月後半」まで待つ必要がある。契約不要のAT&Tの3Gデータプランは、通信量250Mバイトまでで月額14.99ドル、無制限で29.99ドル。

 一方、電子書籍リーダーメーカーは、Webブラウザやアプリを開発するためのSDKなど、タブレットPCに対抗する機能を自社のデバイスに加えている。市場に出回るタブレットPCや電子書籍リーダーが増えるに伴って、価格は下落している。AmazonのKindleとBarnes & Nobleのデバイスはいずれも259ドルで売られている。

 ほかの電子書籍リーダーも400ドルを切る価格で売られているが、高めの値段を断固維持しようとしている企業もある。Plastic Logicの「QUE」は10.7インチディスプレイを備え、Wi-Fiと4Gバイトストレージ搭載で649ドル、Wi-Fi、3G、8Gバイトストレージ搭載で799ドルだ。同社はQUEがMicrosoft Word、PowerPoint、PDF文書をダウンロードして表示できる点を繰り返し強調している。

 同社のテクニカルマーケティング担当上級ディレクター、スティーブン・グラス氏は1月のCES(Consumer Electronics Show)で、高めの価格を付ける理由を次のように語っていた。「価格を高めにしているのは、ビジネス文書を読みたい顧客という、ほかとは異なるユーザー層に向けた製品だからだ」

 グラス氏はまた、コメントを追加したり、テキストをハイライト表示したり、文書に指先でメモする機能もQUEの差別化要因として挙げている。「ほかの製品ではそれができない。注釈を付けられる程度だ」

 だがPlastic Logicのリチャード・アーチュレッタCEOは3月11日に、QUEを予約した顧客に、夏まで発売を延期すると伝える電子メールを送ったと報じられている。同氏は延期の理由を、デバイスの調整と「ユーザー体験全般の強化」が必要なためとしている。

 QUEは価格を引き下げて市場に現れる可能性もある。それはいいアイデアかもしれない。夏までには、タブレットPCと電子書籍リーダーの戦いは最高潮に盛り上がっているだろうから。

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