ペーパーレスとお客様対応レスポンスタイムを50%短縮、製品開発のナレッジデータベースとしても期待――池田模範堂導入事例(1/2 ページ)

暑い夏に、誰もが一度はお世話になったクスリ「虫さされのムヒ」。「越中富山の薬売り」で有名な富山県に本社を置く池田模範堂の製品だ。同社が製品に関する問い合わせを電話で受け付ける「お客様相談窓口」を設置したのは1995年。ところが2007年、この体制を見直すきっかけとなる出来事が起きる。それは、会社組織を改編し、全国の支店まで巻き込むことになるプロジェクトの始まりでもあった。

» 2010年04月01日 08時00分 公開
[井上健語(ジャムハウス),ITmedia]

紙データの限界を痛感し、お客様対応のシステム化に踏み切る

 富山に本社を置く池田模範堂は、本社と同じ敷地内に工場と研究所が併設されている。研究所内の「くすり情報室」にお客様相談窓口が設置されたのは、1995年のことだ。問い合わせの内容は多岐にわたる。「副作用はありますか」「赤ちゃんにムヒを使っても大丈夫?」などなど。問い合わせ件数は一日平均で20〜30件、主力製品であるムヒの売り上げが増加する夏場ともなると、一日に50〜60件にもなるという。

 お客様からの問い合わせとその対応は、A4の記録書に手書きでまとめられ、保管されていた。こうした中、この体制を見直すきっかけとなる出来事が起きる。その出来事について、研究所 くすり情報室 グループ長 佐々木康之氏は次のように語る。

佐々木氏 池田模範堂 研究所 くすり情報室 グループ長 佐々木康之氏

 「2007年に、米国で風邪シロップの過量服用による副作用の事例が発生しました。このため、厚生労働省から、弊社の製品である子供用シロップの調査を行うように指示があったのです。誤って大量に飲んだ子供の割合、服用した子供の年齢、服用した量、症状などについて、過去10年分のデータを調べることになりました。詳細なデータはすべて紙に記録していたため、スタッフ総出で段ボールに保管しておいた紙を引っ張り出し、約2週間かけて調査を行って報告書にまとめました。その作業があまりに大変だったため、紙によるデータ保存の限界を身をもって知ることになったのです」(佐々木氏)

 調査を人海戦術に頼らざるを得なかった経験から、お客様対応のIT化の必要性を痛感した佐々木氏は、さっそくシステムの調査を開始する。2008年の6月〜8月にかけて、実際にお客様対応システムを導入している企業を訪問したり、コールセンターシステムの展示会に足を運んだりして情報を集めたという。

 その過程で、システムの使いやすさ、メンテナンスの容易さ、担当者の対応の善し悪し、レスポンスの早さなどの項目ごとに3段階で評価して、徐々にベンダーを絞り込んでいった。最終的に、ソフトウェアの使いやすさとアフターケアの2点で、東芝ソリューションのコンタクトセンターソリューション「CT-SQUARE FX」が選定される。

導入に先だって組織改編で窓口を一本化し、営業も含めたシステムに計画を拡張

 プロジェクトのキックオフは2008年9月。翌10月から業務要件定義がスタートしたが、ここで新たな問題が持ち上がる。問い合わせ窓口はお客様相談窓口の1つであったが、その後の対応経路が2つに分かれていたため、そのままではシステム導入が困難であることが判明したのである。研究所 取締役研究所所長 西井正廣氏は、次のように説明する。

 「お客様からのお問い合わせは、くすり情報室のお客様相談窓口で受けて、その場で回答できるものは回答します。ただし、容器の破損などの商品の品質に関するお問い合わせについては、品質管理課が対応していました。このため、品質管理課からお客様にお電話をかけ直すまでに、最大で20〜30分の時間がかかっていました。また、その際には、くすり情報室と品質管理課との情報伝達が不十分で、お客様に同じことを二重にお聞きして、ご迷惑をおかけしてしまうこともありました」(西井氏)

 品質管理課とは、本来は製品のさまざまな品質試験を行っている部署であり、顧客対応を専門としているわけではない。このため、お客様に直接電話して対応するという作業も、品質管理課の担当者には負担になっていたという。さらに、ミーティングを重ねる中で、もともと計画にはなかった営業との連携についての話も持ち上がる。

 「弊社は東京、名古屋、大阪、福岡に支店があります。各支店の営業担当者のところには、薬局を中心とするお客様から、さまざまな情報が入ってきます。営業にとっては、こうした情報をくすり情報室に連絡すればよいのか、あるいは品質管理課に連絡すればよいのか明確でありませんでした。また、お問い合わせに対応するため、営業がお客様を直接訪問することがあるのですが、その際の記録の取り方が支店ごとに異なり、支店間での情報共有も不十分でした。そこで、今回のシステムを営業にも使ってもらうことで、情報の共有を図ることにしたのです」(佐々木氏)

 人の異動も含めた組織改編、部署間の情報のやりとりや共有方法の変更など、業務そのものの見直しを行い、業務要件の定義が完了したのは2008年の11月末。そこから、定義した業務要件をシステムへと落とし込んでいくシステム要件定義を行い、2009年2月からシステム構築へと入っていく。開発にあたっては、使いやすさを徹底的に追求したという。

 「項目の幅をどうするか、何文字入力できるようにするか、プルダウンメニューにはどんな項目を入れるか……といった細かいことをわれわれの方で詰め、それをシステムに反映する作業を繰り返しました。また、お電話をいただいたときのお客様の様子、例えば怒っていたとか、急いでいたといった、その場の臨場感までも記録する項目を用意することで、他部署へのエスカレーションや履歴管理にも活用できるような情情報の充実を図りました」(佐々木氏)

 こうした地道な作業を積み重ね、2009年6月からテスト版の稼働がスタートする。約3カ月間、テスト版での試験運用を行い、問題のないことを確認したうえで、2009年9月、本稼働を迎える。

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