富士通、元社長・野副氏辞任の詳細な経緯を説明

富士通は、元社長の野副州旦氏の辞任に関する経緯を説明した。

» 2010年04月14日 23時53分 公開
[國谷武史,ITmedia]
会見する間塚道義代表取締役会長

 富士通は4月14日、都内で記者会見を開き、元社長の野副州旦氏の辞任に関する経緯や、同氏から出された地位保全仮処分申請に対する見解を説明した。

 同社は2009年9月に「病気療養」を理由に野副氏の社長辞任を発表。今年3月5日に、野副氏側が社長辞任の取り消しを求める文書を富士通に提出していたことが明らかになった。富士通は翌6日に臨時取締役会を開き、野副氏を相談役から解任することを決議した。

 富士通によれば、野副氏からは社長辞任の取り消しを求める2月26日付の内容証明郵便が間塚道義代表取締役会長あてに送付され、3月1日に受領したという。さらに、3月15日には野副氏が横浜地方裁判所川崎支部に地位保全の仮処分を申し立てた。社長の辞任は富士通側の詐欺・脅迫、錯誤に基づく行為が理由であり、取締役への復帰を求める内容だった。

 横浜地裁川崎支部は、野副氏側と富士通側の聴取や証拠提出などを行う「審尋期日」を3月23日と4月6日に実施。当初、野副氏側は審尋期日を設けることなく仮処分を認めるよう裁判所に求めたが受け入れられなかったという。審尋期日では、富士通側が野副氏へ辞任を求めた2009年9月25日のやりとりに関する録音データや、本来の辞任理由とする野副氏と関係のあった組織や人物に関する調査報告を証拠として提出。4月6日の審尋期日で結審した。

 しかし野副氏側は、6日の結審後すぐに仮処分の申し立てを取り下げていたことが分かった。同氏は7日に記者会見を開き、損害賠償や名誉回復を求める株主代表訴訟を起こしたことを明らかにしている。会見で同氏は、取締役復帰を望んでいないとし、辞任の経緯を公平に調査する第三者機関の設置を要望した。富士通は、8日になって横浜地裁川崎支部の通知で野副氏側の取り下げを知ったという。

 14日の会見で間塚会長は、「裁判所は最も公平性の高い第三者機関であり、裁判所の判断に委ねるべき。野副氏の行為には疑念を感じざるを得ず、誠に遺憾だ」と述べた。野副氏が求める第三者機関の設置には応じない方針だという。

辞任の背景

 富士通が野副氏に辞任に求めた理由は、野副氏が富士通グループを代表する人材として不適格と判断したためと説明している。同社では2009年2月上旬に、野副氏が主導する子会社ニフティの再編に関して、あるIT企業への売却が経営課題に上った。野副氏は、個人的にも関係の深い投資ファンドを売却取引に関与させようとしていたという。しかし、金融業界などから投資ファンドについての情報が富士通に寄せられ、投資ファンドに関与させることが富士通の経営リスクになる可能性があると判断した。

 野副氏に対しては、2月下旬から3月上旬に秋草直之取締役相談役が投資会社との関係に注意するよう促したという。野副氏は「この投資ファンドは怪しげなので外す」と秋草氏に明言したといい、監査役などへも同様の報告をしたとしている。

 野副氏は、7月になってニフティの売却案件を再開すると主張したが、再び投資ファンドが関与していることが判明。藤田正美執行役員副社長によれば、この時点から1カ月程度をかけて投資ファンドの状況や野副氏との関係を調査し、富士通が好ましくないと判断する証拠を固めたという。

 その結果、野副氏が秋草氏に述べたことに反して投資ファンドとの関係を継続していたことが同社代表取締役にふさわしくないと判断。9月4から24日にかけて社外の取締役や監査役に対して、野副氏の辞任もしくは解任を審議する必要性を説明した。

 間塚氏らは、9月25日の取締役会を前に野副氏に対して取締役陣の判断を伝え、インサイダー取引や金銭の授受などの違法行為がな無いかも含めて最終弁明の時間を設けたという。しかし、こうした違法行為は確認されなかったといい、野副氏は投資ファンドとの関係を危惧する取締役陣の意向を汲んで、間塚氏の辞任要求に同意したとしている。

 この点について、野副氏は「密室で辞任を強制された」「“病気療養”という理由を後から知った」と主張している。一方、間塚氏は「やりとりをしたのは役員来賓室であり、わたしのほかに秋草氏を含めた5人で野副氏と話し合った。辞任理由も野副氏が社長に就任する以前から通院していた事実があり、われわれからの提案に本人も同意して辞任届に署名した」と反論した。

 なお、富士通が野副氏辞任の理由を病気療養と公表したことについて、間塚氏は「対外的に大きな影響を与えかねない事情だったので、なるべく穏便にしたかった。今となっては適切ではなかったと反省しており、投資家や顧客など多くの方々にご迷惑をお掛けした」と謝罪した。

 野副氏側は3月30日に富士通に対して提訴請求し、間塚氏と秋草氏を相手とする株主代表訴訟を予定している。富士通では現在、監査役会で対応を協議しているところだという。

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