求められるプロダクトアウトからの発想転換伴大作の木漏れ日(1/3 ページ)

日立製作所が地方自治体向けのクラウドサービスを発表した。同社のビジネス展開から行政システムとクラウドの関係を明らかにする。ベンダーは、プロダクトアウトでシステムを拡販するという発想を転換する必要がある。

» 2010年04月15日 08時00分 公開
[伴大作,ITmedia]

 これまで、国産ベンダーはほぼ例外なく、自社製品を納入することによりビジネスを成立させてきた。しかし、ハードウェアに代表されるプロダクトの低価格化は、旧来のビジネスモデルを崩壊させた。これに代わるビジネスモデルは、すべての国内ベンダーに求められている。

 日立製作所は3月に地方自治体向けクラウドサービスの提供を発表した。この発表は、本格的なクラウドサービスを大手コンピュータベンダーの一社である日立が提供するという点で注目に値する。

ライバルからシェアを奪いにいく日立

 3月28日、日立は地方自治体向けクラウドサービス「日立自治体クラウドソリューション SUSTINAD」を発表した。その前に富士通が実施したアプリケーション統合開発プラットフォーム「INTARFRM」の発表を意識したのかもしれない。両社は本体、関連会社で異なっていた開発環境を統合する動きにおいて、軌を一にしている。日立と富士通の発表で大きく違う点は、「クラウド形態」でのサービス提供にある。

 日立はグループ企業を含め、大規模な企業をビジネスの対象としてきた。この傾向は地方自治の世界でも同じであり、大きな地方自治体、特定行政都市を中心にビジネスを展開している。一方、全国1600余りの市、1000余りの町村へのビジネス展開は、あまり得意としてこなかった。市町村は、ライバルの富士通とNECの縄張りになっている。

 日立は、ライバル企業の縄張りを荒らさないことでもよく知られている。大昔あった「安値入札」で強引にシステム受注を狙い、批判を浴びた富士通とは好対照だ。日立のイメージは、まじめで大人しい――これが業界にいる人の共通認識になっている。このイメージは、同社が1990年代半ばに高性能バイポーラ型CPUを搭載したIBMメインフレーム・コンパチブルマシン「Pilot、Skylineシリーズ」を米国市場に投入し、多くの支持を集めたにもかかわらず、突然プロセッサビジネスから撤退し、ストレージに方針転換した姿勢からも見て取れる。

 その日立が新サービスにおいて、官公庁需要、中でもライバル企業が最も得意とする中堅・中小規模の自治体ビジネスに参入する。これはどういうことなのだろうか。

地方自治体の朗報になるクラウドサービス

 小泉改革以来の地方交付金の削減やサブプライム不況により、地方自治体の財政事情は一層深刻化している。地方の中核都市以外の小さな市は、平成の大合併で特別補助金を給付されたが、それもやがて終わる。

 地方自治体は今、法律に従い、従来のシステムやプログラムの改変を余儀なくされている。一方、日本の官公庁の多くは、今や化石となりつつあるメインフレームを情報処理に活用している。メインフレームで使用されている代表的な開発環境(言語)はCOBOLであり、そのシステム構築は基本的に手組みだ。メインフレームとCOBOLで構築したシステムは堅固だが、システム自体が高額であり、開発ツールもない。結果として、開発工数という言葉に表現されるように、大量のプログラマーを投入しなければならなかった。

 これはシステム改変時も同じである。疲弊した財政状況を抱える地方自治体にとっては、恐怖以外の何者でもない。この状況は、今まで彼らにシステムを納入していた業者にとって、危機的な状況という意味ではまったく同じだ。それは、今まで同分野で参入機会がほとんどなかった日立にとって、絶好のチャンスなのである。

 日立が提供するクラウドサービスは、こうした地方自治体とって朗報に違いない。確かに、基幹系を含む住民サービスシステムをクラウドに移行すると、コストを抑えられる。だが、ここでクリアすべき課題が幾つかある。

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