求められるプロダクトアウトからの発想転換伴大作の木漏れ日(2/3 ページ)

» 2010年04月15日 08時00分 公開
[伴大作,ITmedia]

課題解決が大変

 情報システムをクラウドサービスに移行する上で問題になるのは、自治体が抱えるIT関連スタッフだ。どの自治体にもほぼ例外なく電算部や情報システム部といった部署があり、最低でも数人が在籍している。

 荒っぽい計算だが、市町村の合計を2500とすると、クラウドサービスへの移行によって1万2000人程度がリストラ対象となる。もちろん、ほかの部署に配置変えをして、大半を救うことは可能だ。だが、これに抵抗する動きが出る可能性は否定できない。

 地方自治体のシステム構築を支える事業者の存在も見逃せない。彼らは、自治体がクラウドサービスに移行した途端、大きな得意先を失うことになる。地方では、最大の事業者が役所というケースが多い。この場合、自治体のクラウド移行により、下請け企業が倒産する可能性も非常に高くなる。

 データのセキュリティも問題だ。地方自治体のシステムは独自に開発されており、ほかの市町村からは完全に独立している。クラウドサービスの採用は、個々の自治体のデータベースの蓄積を、分散型データベースに移行することを意味する。クラウドサービスでは、データを幾つかのデータセンターに分散して保管することもあるからだ。データの一元的な管理という点で不安が残る。

 一時、「住基ネット」がセキュリティ面で問題になった。住基ネットのデータは各自治体に設置されたサーバに蓄えられている。自らが管轄する地域外からデータの問い合わせが来た場合、そのデータから必要なデータだけを返せばよい。しかし、自治体クラウドの場合、どのセンターにデータがあるのか分からない。極論すると、仕組みがまったく異なり、データの保管場所は誰にも分からない。

 当然、自治体は自らのデータの安全性に対して保証を求めるだろう。日立がこの問題に対し、どの程度クラウドの安全性を担保できているのかは、現時点では見えてこない。

IAサーバの出現とクラウド

 僕は「米国が深刻な不況に陥った時に、UNIXは本格的に普及した」と断じた事がある。「日本では、経済が深刻な不況に陥らないと、UNIXシステムは本格的に普及しない」とも予測した。この予測はおおむね的中したが、一部で外した。日本の企業ユーザーはメインフレームに思った以上にこだわったからだ。

 そして1990年代中期からIA(インテルアーキテクチャ)サーバが本格的に台頭してきた。メインフレームに対する企業ユーザーのこだわりは、日立が対象としている公共機関の多くでいまだにメインフレームが利用され続けているという事実が象徴している。

 IAサーバには、LinuxやWindowsが搭載されている。もちろん、富士通のようにIAサーバに独自のOSやASPを搭載する「鬼子」もある。その中でも、Windows NT系は予想以上に利用されている。時代の流れという側面が強いが、UNIX以上に安いプラットフォームが出現したということだ。

 1990年代は、メインフレームが基幹系システム、ベンダーUNIXが情報系やアプリケーションサーバなど、用途がある程度定められていた。それに対して、IAサーバの多くはOA系やWeb系に導入され始めた状況だった。つまり、IAサーバは脇役にすぎなかった。

 しかし、最近はIAサーバの性能が向上し、アプリケーションサーバに用いられるケースも増えた。米Googleや米Amazonのパブリッククラウドがわれわれの日常に浸透しているが、その多くにインテル系CPUが用いられている。今では、大規模なクラウドセンターの80%以上でIAサーバが使用されている。IAサーバはクラウド時代を象徴するプラットフォームとなった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ