まず、高い更新率について藤本氏は、「サービスを開始してから、顧客の1年単位での更新率が85%程度と、わたしたちが当初想定していたよりも高い水準で推移している。これが売り上げのベースとして確実に計算できるようになってきた」という。
その高い更新率に売り上げの伸びの相乗効果をもたらしているのが、もう1つの要因である導入規模の拡大だ。藤本氏によると、「当初はSaaSという新しい仕組みに対する様子見から、多くても数十ユーザー単位の導入が中心だったが、SaaSのメリットが浸透するにつれて数百ユーザー、数千ユーザーへと導入規模を拡大する顧客が増えてきた」という。
そして、最新版への意気込みをこう語った。
「この2年余りでビジネス拡大に向けた顧客基盤をしっかりと構築できた。さらに市場ではSaaS型CRMアプリケーションを本格的に導入しようという気運が非常に高まっていると感じている。そうしたタイミングで投入する最新版R17は、完成度の高いサービスとして大いに競争力を発揮できると確信している」
では、あらためてオラクルがSaaS型CRMアプリケーションに注力する理由は何か。この分野に詳しい業界関係者がこう話す。
「シーベルを買収したオラクルとしては、シーベルの技術をベースとしたSaaS型CRMアプリケーションのビジネスを何としても拡大しなければならない。立ち止まっていると、セールスフォースに侵食されるのは歴然だからだ。幸いにして従来からのユーザーは、シーベルのCRMアプリケーションを苦労しながら使い込んできており愛着心が強い。まずはそうしたユーザーを絶対に逃がさないのがオラクルの大命題だ」
その意味で、85%程度という更新率の高さは、オラクルが必死に自らの牙城を守っていることの証左といえよう。さらにその業界関係者はこうも語った。
「オラクルが本当に危機感を抱いているのは、SaaS型CRMアプリケーションもさることながら、その開発基盤であるPaaS(サービスとしてのプラットフォーム)の分野でセールスフォース・ドットコムに脅かされることだ。その懸念を払拭するためにも、SaaSの急先鋒であるCRMアプリケーションで、セールスフォース・ドットコムの勢いを削ぐ必要がある」
オラクルがSaaS型CRMアプリケーションに注力しなければならない理由は、そこにあるといえよう。
「BI機能を標準実装しているのが最大の差別化ポイント。CRMの中核機能についても負ける部分はない。しかも価格は半額。パートナーとの協業もさらに強化して、セールスフォース・ドットコムと真っ向から勝負を挑みたい」(藤本氏)
オラクルは最新版の投入を機に、一気呵成の攻勢に出る構えだ。
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.