では本題の、新UNIXサーバにみるHPのクラウド戦略について探ってみたい。とはいえ、製品そのもののクラウド対応の機能やクラウド型の購入形態については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここではHPが提唱している新事業コンセプト「HP Converged Infrastructure」に注目したい。
この事業コンセプトは、2009年後半から耳にすることはあったが、実は意味がよく分からなかった。今回の新UNIXサーバは、この事業コンセプトに基づく最初のミッションクリティカルシステム向け製品という位置付けだ。それもあって、会見ではこの事業コンセプトの説明にも力が入っていた。
それによると、HP Converged Infrastructureとは「コンピュータ、ストレージ、ネットワーク、電源冷却およびIT設備といった既存リソースの統一管理を可能にすることで、仮想化され、高度に自動化された弾力性のあるデータセンターを実現する戦略」のことだ。
杉原氏によると、「要はサーバやストレージだけでなく、ネットワーク接続や電源冷却などもリソースとして扱い、それらを1つの管理ソフトによって統合しシンプル化したインフラストラクチャの構築を目指すこと」だという。
その狙いは何か。杉原氏は、「現在、企業のIT予算の比率は、保守・運用が7割、新規戦略投資が3割といわれている。HPはConverged Infrastructureを実践することにより、この比率を逆転させたい」と力を込めた。さらに「Converged Infrastructureは、HPがめざす理想のクラウド基盤。HPは今後、このコンセプトの実現に向けて製品群を市場投入していく」とした。
今回の説明を聞くまで、HP Converged Infrastructureは、とどのつまりIT基盤をConverged(束ねる、集約する)ための事業戦略だととらえていた。しかし、杉原氏が語った狙いを聞いて、その先に新規戦略投資へのシフトという確固たる理念があることが分かった。
経済環境がいまだ不透明なこともあって、企業におけるクラウド利用の目的はまだまだコスト低減が先に立つのが現状だが、そろそろクラウドを攻めの経営のために利用するという方向性がもっと出てきていいはずだ。HPが理想とするクラウド基盤のコンセプトの真意はそこにある。
それにしても、HPやIBMはこうしたコンセプトづくりが実にうまい。クラウドを攻めの経営に利用するために――日本のITベンダーにも、今後グローバル市場で戦っていくために、ぜひとも明確なコンセプトを打ち出してほしいものだ。
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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