SAPによるSybase買収 狙いはモバイル分野のてこ入れ

この買収でSAPはOracleとの競争力を維持できる可能性が高くなるほか、モバイル製品の統合・拡張が可能になる。

» 2010年05月17日 17時43分 公開
[Nicholas Kolakowski,eWEEK]
eWEEK

 独SAPが5月12日(現地時間)に発表した米Sybaseの買収は、エンタープライズソフトウェア業界の状況に大きな変化をもたらすものだ。まず、新たな収益源と豊かな技術ポートフォリオを獲得するSAPは、Oracleとの競争力を維持できる可能性が高くなる。加えて、最大の戦略的パートナーの1社であるSybaseを買収することで、SAPはモバイル製品を統合・拡張することが可能になる。モバイル分野の取り組みが同社に欠けていたと指摘するアナリストもいる。

 「これが強者と弱者の取引であることは、一目見ればすぐ分かる。SAPの年間売上高および同社の時価総額は、いずれもSybaseの規模の10倍以上だ」と米調査会社Pund-IT Researchのアナリスト、チャールズ・キング氏は5月13日付のリサーチノートに記している。「SAPは広範なエンタープライズビジネスソフトウェアソリューションを開発・販売しているのに対し、Sybaseの製品はグローバルモバイル市場の方に傾斜している。この分野では、同社のデータベースソリューションが40億台以上の携帯電話のSMSのメッセージング機能を支えている」

 「グローバルモバイルテレフォニー分野におけるSybaseの強力なプレゼンスは、SAPがビジネスソリューションをさらに拡張する機会をもたらす」とキング氏は付け加えている。モバイル市場が進化を続ける中、これはSAPにとって重要な取り組みとなる可能性があるという。「スマートフォンやタブレットなどの携帯コンピューティングデバイスへの関心が急激に高まっている状況を見れば、この買収は当然だ」

 モバイルコンピューティング、クラウドコンピューティング、オンプレミス(自社運用型)エンタープライズリソース管理アプリケーションが、短期的にも長期的にも自社の事業を支える主要な柱になるとSAPが考えているのは明らかだ。この買収は、SAP American(SAPの米国子会社)とSybaseとの契約という形で行われ、SAPはSybaseの株式を1株当たり65ドル(同社の直近四半期の平均株価に44%上乗せした価格)で買い取る。

 ビジネスインテリジェンスソフトウェアメーカーのBusinessObjectsを2008年に買収して以来、SAPにとって最大の企業買収となる今回の取引は、企業市場でモバイル技術の付加価値が高まっていることを示すものだ。

 SAPの共同CEO兼取締役のジム・ハガマン・スナーベ氏は「モバイルデバイスは、ビジネスアプリケーションの操作端末として人気が高まっている。主なユーザーは、工場の監督、小売店のマネジャー、新興国の起業家などだ」と買収発表の声明文で述べている。

 アナリストらも、買収の狙いはモバイル分野へのてこ入れにあると指摘する。

 米J. Gold Associatesの主席アナリスト、ジャック・ゴールド氏は、5月12日付のリサーチノートに「企業では今後2〜3年以内に、デスクトップよりもモバイルプラットフォームの方が多く利用されるようになることをSAPはよく理解している。特に、多くの企業が伝統的なPCデバイスを飛び越して、さまざまなスマートフォンや無線端末を使うようになってきた新興諸国でその傾向が強い」と述べている。

 「SAPはSybaseの買収で、広範な分野にわたってモバイル化ソリューションに強い影響力を持つ技術プレーヤーを獲得することになる。この買収の狙いはモバイル技術にあるようだが、SAPは質の高い分析技術とモバイルインフラ企業(Sybase 365)も手に入れるのだ」とゴールド氏は記している。

 さらにゴールド氏は次のように付け加える――「SAPはこれまで、自社のバックオフィスアプリケーションスイートを自力でモバイル化する取り組みで、大きな成果を上げることができなかった」と付け加える。「Sybaseの買収により、SAPはSybaseのモバイルミドルウェアであるUnwired Platformに加え、モバイル管理、セキュリティ、スマートフォン用のセキュアクライアントなど多数の技術を利用できるようになる。しかもSybaseは大量データのリアルタイム分析技術を持っており、エンタープライズアプリケーションのモバイル化でも実績がある」

 「Sybaseは金融業界を中心に魅力的なニッチ市場を抱えているが、アプリケーションスイートではOracleと真正面から対抗できない。これが彼らを不利な立場に追い込んだが、SAPと手を結ぶことで、この状況を改善できる」とゴールド氏は記している。「SAPにとってSybaseを買収することは、モバイル分野の主要なプラットフォームベンダーを市場から排除するとともに、SAPの競合企業による買収を阻止することにもなる。つまりこれは戦略的な技術買収であるだけでなく、ビジネス的にも戦略的な買収なのだ」

 SAPは、ほかの買収案件を検討する意欲を示しているものの、同社幹部によると、Oracleのように次々と企業を買いあさるつもりはないようだ。

 「この業界では、自社の成長を金で買うのは簡単だ」とスナーベ氏は4月14日の記者会見で語った。「収益拡大するための買収は盛んだが、イノベーションへの姿勢はほとんど見られない。われわれはその反対のことをしたのだ。イノベーションを目指しているのだ」

 しかしSAPのビル・マクダーモット共同CEOは、“理にかなった”買収であれば何でも検討する用意があることを認めている。

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