「少人数でも、必ず大きなうねりを生み出せる」。これは第5章の見出しです。目的が世界の持続可能性であれ、自社の変革であれ、組織に良き変化をもたらしたいと願うマネジャーにとっては、勇気づけられるタイトルではないでしょうか。
変革のうねりを生み出すためには、どのような能力が必要なのか。著者は大きく3つの能力を定義しています。これらは「丸いすを支える三本の足」であり、どれも欠かせないとのこと。
1 より大きなシステムをとらえる
「視野を広げてより根深い問題を直視すると、ある時点から、まったく新しい機会が見えてくる。アルコアは、画期的なイノベーションをとおして、水を使わないアルミ製法を開発した。コカ・コーラは、グローバル規模での水資源管理にいち早く乗り出した。だが、旧来のマネジメント観から抜け出せない企業は、このような機会を決してつかみ取れないだろう」
2 境界を超えて協業する
「いま求められるのは、個人ではなく集団によるシステム思考である。これを実現するには、組織内外のさまざまなレベルにおいて、数々の業界、地域、グローバル・サプライチェーンなどにまたがるチームやネットワークを形成し、おおぜいが力を合わせなくてはならない」
3 望ましい未来を切り開く
「問題解決が望まないものを取り除こうとする行いであるのに対して、創造とは自分たちが希求するものの実現をさす。このふたつには、表現しづらいが深遠な差があり、それゆえにまったく違った未来をもたらすはずだ」
それぞれに70〜80ページを費やして、具体的な事例やツールなどを紹介しています。“ラクな”事例は1つもありませんが、大きな変革に挑む一般人――著者の表現を借りれば「並外れた選択をした、ふつうの人々」――の事例が多く、勇気を分けてもらえるところは本書の魅力のひとつです。ツールに関していえば、システム思考から会議・会話の進め方に至るまで、著者がこれまで積み上げてきたさまざまな思考ツールを実務の中で用いる方法が書かれています。
最後に第5章から、お気に入りの文を引用します。
イノベーションをなしとげるには数え切れないほどの変革を積み重ねる必要があるが、その中身はあらかじめ予想できず、気の遠くなるほど難しそうな印象があるため、実現への起爆剤となるのは得てして、全体のパターンをつかみながら大きなうねりを生み出すためにささやかな努力を積み重ねることができる、少数の人々である。
「全体のパターンをつかみながら大きなうねりを生み出すためにささやかな努力を積み重ねる」。イノベーションを成し遂げる少数の人々にはなれないかもしれませんが、わたしも自分の目指すところへ向けてささやかな努力を積み重ねていきたいと思います。
著:ピーター・センゲ、 ブライアン・スミス、ニーナ・クラシュウィッツ、ジョー・ロー、サラ・シュリー、翻訳:有賀 裕子
日本経済新聞出版社
2010年2月23日
ISBN-10:4532316022
ISBN-13:978-4532316020
2625円(税込み)
持続可能な未来へ向けた改革は経済的価値があるのか、なぜ企業が取り組まなければならないのか。『学習する組織』のセンゲが、いま世界の組織と個人に求められる変革を解説する。
株式会社アーキット代表。グロービス・マネジメント・スクール講師などを兼任。
「個が立つ社会」をキーワードに、個人の意思決定力を強化する研修・教育事業に注力している。工学修士(早稲田大学理工学研究科)取得後、外資系コンサルティング企業(現アクセンチュア)入社。シリコンバレー勤務を経験。帰国後日米合弁のベンチャー企業にて技術および事業開発を担当。2002年より現職。
著書に『クリエイティブ・チョイス』『リスト化仕事術』(『リストのチカラ』の文庫化)がある。「起-動線」「*ListFreak」などのサイト運営も手掛けている。
ITmedia オルタナティブ・ブログにて「発想七日! 」を執筆中。
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