NECはクラウドコンピューティング、スマートグリッド、認識に関する技術の研究開発の成果を公開した。
NECの中央研究所は7月1日、研究開発の取り組みについて報道機関に説明した。年内から今後数年後の実用化を目指す研究の中から、クラウドコンピューティング、スマートグリッド、認識に関する成果を披露した。
まず同社の研究開発について、國尾武光執行役員常務が説明した。NECは2012年度に当期純利益1000億円を目標とする中期経営計画「V2012」と、2017年度に同2000億円を目標とする「グループビジョン2017」を掲げている。國尾氏によると、中央研究所の役割は、この2つの計画を達成するための新規事業の創出につながる先端技術を実現していくことだという。
「当社が“C&C”(Computers and Communications)というビジョンを提唱して30年以上が経過し、目指すべきものをほぼ実現できたと考えている。今後は技術起点から、人間の創造性・活力の増大と持続可能な社会の進展という2つに軸足を移していく」と國尾氏は述べた。2017年までの長期的な研究方針として同社は、「シンバイオス」(人間や社会、ITの共生)、「ディペンダブル」(安心・安全の社会基盤)、「エコロジー」(社会と地球環境の共存・共栄)の3つを打ち出している。
國尾氏はまた、社会でのIT普及に伴って技術の陳腐化や商品ライフサイクルの短縮化が加速しているといい、研究開発における効率性と収益性の向上が大きな課題であるとしている。このため中央研究所では、外部機関と連携したマーケット志向の研究開発、オープンな革新的技術の活用という2つの取り組みを推進しているという。
この日公開した成果は、OpenFlowというアーキテクチャを採用したシステムおよびネットワークの集中制御技術、スマートグリッドでの円滑なデータ転送を実現するための「コンテンツルーティング技術」、米国国立標準技術研究所(NIST)のベンチマークテストで第1位の性能評価を得た顔認識技術の3点である。
OpenFlowアーキテクチャは、米スタンフォード大学が中心となって設立したOpenFlow Consortiumが提唱するスイッチング技術に関するアーキテクチャで、サービスやアプリケーションの状態に応じて仮想ネットワークをダイナミックに構成できるようにする。
研究では経路制御を行う「プログラマブルコントローラ」と転送制御を行う「プログラマブルフロースイッチ」の2種類の機器でネットワークを構成することで、アプリケーションの負荷に応じて自動的に複数システムのリソースを柔軟に配分できるようにした。今後クラウドコンピューティングの利用がさらに拡大すれば、物理的に離れた複数のデータセンター間でリソースを効率的に配分できるようにする重要な技術として注目されている。
NECは2010年度中の製品化を計画しており、当面はデータセンター内での利用に限定して、市場展開する方針である。将来的に通信事業者やサービスプロバイダーの基幹ネットワークでの使用に耐えるものになるよう開発を行っていく。
コンテンツルーティング技術は、パケットの中身を細部までチェックするDPI技術を応用して、電力事業者やサービス提供企業、電力の需要家(家庭や企業など電力を使う立場)などの間で、情報を円滑に転送するものとなる。
スマートグリッドでは、電力に関するさまざまな情報(供給量や使用量の検針情報、電圧、気温など多岐にわたる)がやりとりされるが、既存のIPベースのネットワークでは接続する機器が増えてしまうと、情報のやりとりがスムーズにできなくなる恐れがあるという。このため転送される情報の内容に応じて柔軟にルーティング処理を行うことで、スムーズな情報のやりとりを維持できるようにするのが狙いだ。
顔認識技術には、他人を本人と誤って識別してしまわないように、「変動画像生成」と「多元特徴識別」という2つの手段を用いているという。変動画像生成は、照明の向きや明るさによって表情がどのように変化するのかを計算し、1つの登録画像から幾つもの画像を生成する。生成した画像と登録された画像との照合を行う。多元特徴識別では、登録された画像から個人を識別するための特徴を抽出して照合を行う。これにより、顔の向きや明るさ、また、経年変化などの条件に左右されることなく、高い精度で本人を特定できるようになったという。
デモンストレーションでは、正面を向いた登録画像と顔が上下左右を向いた画像を照合させる作業や、登録画像から35年までさかのぼった画像を照合する様子を紹介した。顔の向きが違う画像との照合は、いずれの向きであってもほぼ正しく識別していた。経年変化した画像の照合では、15年程度古い画像まではほぼ正確に識別でき、25年程度では本人と特定するしきい値の限界まで精度が低下した。だが、例えば空港の入国審査のような実際の運用には支障がないレベルであるようだ。
今後は低解像度の画像やボケ・ノイズで不鮮明な画像の識別、明るさが常に変化するような環境での照合が可能になるよう開発を進める予定。監視用途以外の利用も検討していくという。
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