楽天経済圏を支えるアクセス解析の全貌(後編)(2/4 ページ)

» 2010年07月14日 08時30分 公開
[清水誠(楽天),ITmedia]

トップとボトムの両面アプローチ

 楽天がアクセス解析を導入したのは、「経営判断」によるものだ。だがトップダウンの号令だけでは、アクセス解析の文化は醸成されない。関係部署を中心とした現場からのボトムアップの取り組みも重要になってくる。

 そこでアクセス解析・最適化推進チームは、アクセス解析の実施が現場にもたらすメリットを伝えることに注力した。各事業に足を運び、「手作業で集計している日報を一本化します」「優良事業の解析を実現します」「ユーザー管理やサポートは編成部で代行します」「ボリュームディスカウントのため、破格の費用で導入できます」と伝え、アクセス解析への期待値を高めていった。

 また全事業の代表者が集まる毎月の会議には欠かさず顔を出し、アクセス解析の重要性や活用方法、ユーザー管理、サポート業務など、推進チームの働きを繰り返し説明した。他事業のアクセス解析の実例や似た課題を持つ別事業の担当者の紹介も、並行して進めていった。

 同時に、経営層が毎月集まる会議にも出席し、全事業のアクセス解析導入の進ちょくや推進プランを報告した。具体的には、導入の進行具合、完了見込み、導入が進まない場合の問題点と解決策、ほかのプロジェクトとの優先順位――などを共有した。現場の解析担当者や推進チームでは意思決定できない項目を解消することが狙いだった。

短期集中によるメンバーのスキルアップ

 このように、アクセス解析の導入を考える企業に効果的な取り組みは、アクセス解析・最適化推進チームのような専門部署を作ることだ。担当者は最初からアクセス解析の専門家でなくてもいい。実際、楽天の推進チームの初期メンバーは、アクセス解析の実務経験がほとんどなかった。

 こうした状態からスタートする場合、成功の近道は、アクセス解析の導入に必要な要件定義、設計、実装というプロセスの理解を深めていくことだ。そこで楽天では、アクセス解析ツールベンダーのコンサルティングサービスを利用することにした。

 このサービスは業界に特化したパッケージ型であり、要件定義と実装を数週間で進められる。全事業でのサービス導入は高コストになるが、最終的には社内で設計と導入が行える状態にしたかった。そこで、楽天経済圏を構成する幅広い業界を網羅できるような事業を最初に選定し、推進チームがそれらを体験できるようにスケジュールを組んだ。

 推進チームがアクセス解析導入の手順を一通り理解した後に、4人のメンバーで37のサイトに新規導入を進めていった。事業の規模や業種によってKPI(重要業績評価指標)の考え方や解析の手法、組織のカルチャーは異なるが、進め方や個別の手法に大きな違いはない。サイト診断、ヒアリング、要件定義、設計、実装、レポート作成といった一連の業務を短期間に全メンバーが担当することで、チーム内に同じ課題認識が芽生え、同じ試行錯誤を共有できるようになった。

 そのため、改善のための情報共有をすると、「そうそう」「わたしはこうしている」「自分もやってみる」と議論がかみ合い、業務の改善行動に直結するようになった。社外セミナーや参考文献の情報は、身近なアクセス解析の課題に置き換えて考えた。少人数のみで細く長く進めていたら、アクセス解析におけるチームの連帯感は生まれず、迅速な改善活動につなげられなかったかもしれない。

見えてきたパターンを仕組み化

 議論や実践の積み上げは、アクセス解析のノウハウや共有パターンを照らし出す。大切なのは、それをチーム内できちんと共有することだ。

 アクセス解析・最適化推進チームでは、社内Wikiで情報共有をしている。社内Wikiを活用する全メンバーには、更新情報の差分が電子メールで通知される。これにより、「いつ、誰が、何を、どう変更したのか」を共有できる。Wikiを更新すると、履歴が自動で保存されるため、元の記述にも戻せる。担当者が間違いを恐れずに情報を更新できる仕組みの整備は、情報共有に不可欠といえるだろう。

 アクセス解析の担当者は、推進チームのほかに、アナリスト、実務担当者、レポート作成担当者などがいる。各担当者の情報共有を活発にするために、アクセス解析にかかわるすべてのスタッフ向けのイントラネットも別に構築している。ここでは「SEO分析方法」「Twitter効果測定のレポートサンプル」「改善事例」といった完成形の資料や情報のみを掲載している。

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