世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

グローバルサイトの課題 組織・文化の壁をどう解消するか世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(2/2 ページ)

» 2010年07月22日 08時00分 公開
[大里真理子(アークコミュニケーションズ),ITmedia]
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対象とする市場の文化を吸収せよ

 ハイコンテクスト/ローコンテクスト文化という言葉をご存じだろうか。ハイコンテクスト文化とは、生活習慣や文化的背景、経験などのコンテクストを容易に共有できる文化を指す。明確な表現や主張を避け、状況から事態を察知することを好む傾向にあり、日本・韓国などのアジア系やアラブ、南欧が該当する。一方米国や北欧などが該当するローコンテクスト文化は、背景が多様な文化で情報のやりとりの大部分を言語に頼る。直接的で分かりやすい表現とシンプルな理論を好み、論理的飛躍を嫌う。

 グローバルマーケティングを展開する日本の担当者の多くは、言語の壁に遭遇するだろう。豊かな語彙(ごい)や表現力を好む日本人は、同水準の言語能力を外国語にも求めがちだ。だがローコンテクスト文化では、少ない語彙(ごい)やつたない表現でも、言いたいことが誤解なく通じることが多い。

 言語以上に苦労するのは、仕事の進め方である。日系企業はコンセンサスを重視し、現地法人のやる気をそいだり、話が一方通行になったりしないように、さまざまな配慮をする。一方、欧米企業はトップダウンを当然とみなし、少々のあつれきは目をつぶる傾向にある。この文化の違いが、グローバルマーケティングの実施において、壁になることも少なくない。

 これを如実に表したエピソードがある。ある輸送機器メーカーの日本担当者が、米国支社の担当者の仕事の欠点をメールで指摘した時のことだ。以下がそのやりとりである。

Thank you for cooperation in the event held in New York Yesterday.Your contribution helped us achieve success with....(と賛辞が並ぶ)However, I have concerns regarding....(と不満が並ぶ)

 返ってきたメールはこうだ。

Thank you for your compliment.

 これは、ハイコンテクスト文化をバックグラウンドに持つ日本人が不満を直接的に表せず、相手の気持ちを害さないようにした配慮の意図が、ローコンテクスト文化の米国人には通じず、メール内の都合の良い情報しか受け取られなかった例だ。コンテクスト文化の違いに優劣はないが、国をまたいだグローバル市場でマーケティングを行う場合、日本人はローコンテクスト文化に積極的になじんでいく必要がある。


 そのためにも、まずは課題の「見える化(可視化)」が重要だ。TQC(統合的品質管理)が根付いている日本の企業文化にとって、課題の可視化は得意分野だ。これを行うことで、異文化の人々の間でも、問題意識を共有しやすくなる。グローバルマーケティングコミュニケーションの課題となる組織の壁を破るには、まずローコンテクスト文化の中に共通の背景――会社のミッションやビジョン、部門間をまたがる共通の問題意識――を理解することから始めよう。

 最後に、文化の違いに悩むグローバルマーケティング担当者には「Focus on Issue, Not on Style」という言葉を贈りたい。課題を絞り込み、問題解決を優先する姿勢を徹底することで、いずれは文化の違いから生じる考え方の差を乗り越えられるようになるはずだ。

プロフィール 大里真理子(おおさと・まりこ)

大里真理子

アークコミュニケーションズ 代表取締役社長。日本アイ・ビー・エム、ユニデン、アイディーエスにてグローバルビジネスや新規事業立ち上げに従事。5年にわたる米国、ドイツ、中国での実務経験を生かし、VisualとVerbalで「Local+Global」なビジネスコミュニケーションをサポートするアークコミュニケーションズを設立。「目指せグローカルなビジネスコミュニケーション!」をモットーに、Web・クロスメディア制作、翻訳、通訳、人材派遣を営む。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「マリコ駆ける!」を執筆中。Twitterのアカウントは「@marikokakeru




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