デジタルコンテンツ展開の鍵を握るソフトウェア――SAP

SAPジャパンは課金ビジネス向けソフトウェア「SAP Consume-to-Cash」の提供を10月以降に開始する。アプリケーションストアの課金の仕組みなどを最適化でき、世界では既に200社が同ソフトウェアを採用しているという。

» 2010年07月28日 12時25分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 SAPジャパンは7月27日に記者説明会を開き、デジタルコンテンツの配信や課金プランの策定を支援するソフトウェア「SAP Consume-to-Cash」の提供を10月以降に開始すると発表した。スマートフォンやタブレット端末向けのアプリケーションストアの開設など、新たな課金ビジネスを視野に入れるメディアやエンタテインメント関連の企業、クラウドサービス事業者、モバイル端末メーカー向けのソフトウェアだ。「企業のシステム要件にもよるが、ライセンス価格は1500万円程度から」(SAPジャパン)としている。

 SAP Consume-to-Cashは、配信するコンテンツの料金計算、課金や請求、収益管理などを包括的に支援するソフトウェア。「ディシジョンツリー形式」と呼ぶパラメーター設定型の仕組みを採用し、グラフィカルユーザーインタフェースで課金サービスの料金プラン設定や未収金情報の一元管理が可能となる。

image SAP Consume-to-Cashを構成するコンポーネント。料金の計算から未収金の管理までを一括で実施できる(出典:SAPジャパン)

 例えば課金サービスの料金プランは、「イベント単位での料金」「月次料金」といったパラメーターのアイコンを操作するだけで設定できる。課金システムの多くは難解なプログラムの構築を必要とするが、SAP Consume-to-Cashでは「システムの知識がない現場のマーケティング担当者でも、アイコンの意味さえ覚えれば誰でも使いこなせる」ような基本設計を売りとしている。「30秒閲覧すると10円を課金する電子書籍の料金プラン」などを柔軟に設計できるという。

ディシジョンツリー形式を採用したSAP Consume-to-Cashのグラフィカルユーザーインタフェース ディシジョンツリー形式を採用したSAP Consume-to-Cashのグラフィカルユーザーインタフェース。課金サービスの料金プランを直感的に設定できる(出典:SAPジャパン)

 複数の契約を束ねた一括請求や複数の利用者をまとめた集約請求にも対応している。繰り返し請求する月次課金や1度きりの入会金などさまざまな課金体系を持つ課金ビジネスにおいて、SAP Consume-to-Cashは、別々に構築されたシステムから課金情報を受け取り、顧客ごとに請求する役割を果たす。

台頭するアプリケーションストアのビジネスモデル

image SAPジャパンの早川正明氏はSAP Consume-to-Cashの競合製品として、米Amdocsのソフトウェアや「Oracle Portal」シリーズを挙げた

 SAP Consume-to-Cashは既に世界で200社以上の企業に採用されている。日本を除く世界の大手通信事業者でも導入が進んでいるという。同ソフトウェアを日本市場に投入する背景について、SAPジャパン インダストリー戦略本部 通信・メディア産業担当部長の早川正明氏は「新たなビジネスモデルの台頭」を挙げる。

 例に出したのは米Appleの製品戦略だ。Appleは各種端末と、コンテンツを配信する「流通プラットフォーム」を組み合わせるという戦略を採用し、デジタルコンテンツ市場で存在感を示している。iPhoneとApp Storeを併せて提供する戦略は、「スマートフォン市場にコンテンツのオープン化とグローバル化をもたらした」(早川氏)。

 スマートフォン市場に目を転じると、App Storeを他社が追随する構図が浮かび上がってくる。米Googleの「Android Market」や米BlackBerryの「BlackBerry App World」、ノルウェーのNokiaによる「Nokia Ovi Store」など、デジタルコンテンツ市場でのシェア獲得に向けた独自アプリケーションストアの提供という新たなビジネスが生まれている。

 ここから得られる教訓は「デジタルコンテンツ市場の寡占化の鍵を握るのは、コンテンツの流通を押さえること」(早川氏)だ。アプリケーションストアのビジネスを支えるのは課金サービスの仕組みである。「今動かないと稼げない」(早川氏)という特徴を持つ課金サービスの生命線は、ビジネスの成長に応じて価格やプランを柔軟に変更できるかどうかである。

 数千万人規模の利用者が使う課金システムの場合、システムの変更には一般的に「3〜6カ月がかかる」(早川氏)。現場の担当者が新しい料金プランを作り、システム担当者がプログラムをテストするといった一連の工程が発生するからだ。SAP Consume-to-Cashはこの部分を簡略化し、システムの変更などを「数日から数週間に短縮できる」(早川氏)という。

 課金サービスは日本でも多数の企業が展開しているが、「富士通やNECによる手組みのシステムが多く、パッケージソフトウェアが普及していない」(早川氏)こともあり、ビジネスの変化に柔軟に対応するのが難しい。SAP Consume-to-Cashは、こうした企業の新たなニーズに応えるソフトウェアとして注目できる。

アプリケーションストア市場の動向 さまざまな業種の企業がデジタルコンテンツの流通網を確保するため、アプリケーションストアを立ち上げている(出典:SAPジャパン)

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