第1回: 顧客リレーションシップの「維持」賢いCRMの3原則

企業が消費者向けのマーケティングを推進し、顧客とのリレーションシップを拡大するために、念頭に置くべき3つの原則が存在する。当連載「賢いCRMの3原則」では、この3原則に基づいたマーケティングキャンペーンの進め方を解説する。第1回目の今回は、顧客リレーションシップの「維持」を取り上げる。

» 2010年08月09日 10時00分 公開
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顧客リレーションシップの本質

 CRM(Customer Relationship Management)という概念におけるリレーションシップとは、いったい何だろうか? 日本語では「関係」という意味を持つこの言葉からは、自社と顧客の関係という意味が読み取れるものの、抽象的な概念に終始しがちな言葉でもある。ここではリレーションシップを「顧客との接触履歴」ととらえたい。その多くは、企業のコンタクトチャネルを通じて発生し、履歴データとしてデータウェアハウスに格納される。

 そしてこの接触履歴は、「顧客から自社」および「自社から顧客」への接触に分けられる。前者の典型的な例は取引履歴であり、それ以外はコールセンターへの問い合わせ、自社Webサイトへのアクセスなどが該当する。一方、後者の典型例はマーケティングキャンペーンによる接触であり、自社から顧客への提案単位である。そしてこの提案に対して自社はコストを費やし、顧客が提案を受け入れれば収入が実現する。その差分が利益となるのはいうまでもない。

 図1は、ある1人の顧客に関する経費と得られた収入のトレンドである。消費者は何らかのきっかけで取引を開始し、顧客となって自社との関係が始まり、そして最後には関係が終了する。企業はなるべく多くの価値を顧客に提供し、その対価として収入を最大化したいと考えている。そのベクトルは、図1に示した3つの方向に大別される。

図1:単一顧客の収入/経費トレンド 図1:単一顧客の収入/経費トレンド

 1つは関係の「構築」だ。今まで関係がなかった顧客と関係を作ることである。ここで重要なのは、マスマーケティングを通じて識別できない顧客にアプローチし、「なるべく早く」取引を開始することである。

 2つめは関係の「維持」。既に関係を持っており、識別可能な顧客に対して、「なるべく長く」取引を継続することである。

 3つめは関係の「強化」。「なるべく多く」取引いただけるよう提案を繰り返し、顧客からの信頼と期待度を高め、一定期間内における収入を最大化することである。

 企業が賢いCRMを実現するための原則は、この3つだけである。ただし、1人の顧客を対象とするだけならシンプルなこの原則も、数百万、数千万が顧客を対象にすると、途端に実現が難しくなる。そのため、マーケティング担当者はテクノロジー、具体的にはデータウェアハウスにデータを蓄積し、顧客分析とキャンペーン管理のソフトウェアを利用して実現することになる。

 この連載では、この3原則に対して忠実に分析(顧客理解)とキャンペーン(顧客アプローチ)を実施する方法を解説する。そのためのテクノロジーは市場に幾つか存在するが、本稿では日本テラデータのデータウェアハウスエンジン「Teradata Database」、その上で稼働するキャンペーン管理ツール「Teradata Relationship Manager」、データマイニングツールの「Teradata Warehouse Miner」を利用して説明していく。

離反可能性顧客の特定と傾向理解

 「顧客維持」に相対する概念や状態を指すのが「顧客離反」である。業態によって脱会、解約、休眠といった言葉が用いられ、いずれも自社との関係が消失する、もしくは希薄になる状態を指す。顧客の維持には、顧客離反の阻止が不可欠であり、その兆候を早めに察知することが重要な課題となる。CRMが顧客との関係を管理することであれば、その関係を損なうことは最も憂慮される事態であり、離反阻止は優先順位の高い取り組みといえる。

 こうした課題に対処するためには、分析を通じて誰が離反しそうなのか、そしてその顧客に共通の傾向は何かを特定する必要がある。そのための分析例として、Teradata Warehouse Minerのデシジョンツリー分析を使った離反可能性顧客の特定と、顧客の傾向理解を考えてみる。

 この分析を行う際はまず、離反していない通常顧客と、既に離反してしまった顧客のデータの両方が必要になる。またデータの種類としては、離反を説明してくれる、離反と関連性がありそうなデータ変数が必要になる(説明変数)。図2では単純な例として、「現在ポイント」「取引年数」「取引金額」などの変数を利用して分析データセットを作成している。通常は企業ごとに試行錯誤し、変数を選定する必要がある。

図2:分析データセットの例 図2:分析データセットの例

 このデータをデシジョンツリー分析のデータとして投入して、モデルを構築する。同分析では、離反有無を決定付けるルールを意味するツリー構造を、説明変数を利用して自動的に作成する。

 図3は、作成されたモデルを視覚化したものだ。このモデルによれば、投入したデータのうち51.0%が「取引年数7.5年未満で、現在ポイントが802.5ポイント以下で、取引金額が9万9745円以下」というルールに該当する顧客であり、該当顧客の90.2%が離反した顧客であることを示している。90.2%という値は離反が起こりうる確率、つまり確信度として利用される。

図3:離反モデルを示す樹形図 図3:離反モデルを示す樹形図

 続いて、構築したこのモデルを本来予測したい顧客群に適用する。実際にはこのモデルの妥当性、精度を検証する必要があるが、ここでは割愛する。予測対象の顧客データは、それぞれ図3で示したモデルの一番上から流し込まれ、分岐条件に基づいて、それぞれのボックスに振り分けられ、各ボックスが持っている確信度がスコアとして付与される。例えば、ルール「取引年数 >= 7.5」に合致する顧客は、確信度0.919で離反しないという結果が出ている。

図4:離反確率スコア計算結果 図4:離反確率スコア計算結果

 Teradata Warehouse Minerでは、選定のための基礎統計機能、分析用のデータセット作成、モデルの構築、スコア付与が、データウェアハウスのTeradata Database内部で実行されるという特徴を持っている。これにより、Teradata Databaseのパフォーマンスを最大限利用できる。従来のようにデータを手元のPCや中間サーバにダウンロード/アップロードせずに、処理を完遂できる。

離反傾向理解に基づくアプローチ

 こうして作成されたデータは、誰に対して離反阻止を行うべきかという命題を明快にしてくれる。端的には離反の確信度が高い顧客が対象となるが、経済的重要度の高い顧客も対象とすることで、優先的に離反阻止すべき対象も明確になる。

 また、ルールの1つに存在している「現在ポイント <= 802.5」という条件も、離反傾向やアプローチ方法の理解に役立つ。これが正しければ、現在ポイントが802.5ポイントを下回らないようにすることで、離反の一因を排除できる。

 Teradata Relationship Managerは、得られた離反スコアのデータを毎日更新することで、離反スコアが0.8を上回った顧客を毎日検知したり、デシジョンツリー分析で得られたルールをキャンペーン対象顧客の選定基準として設定したりできる。図5は、ルールを定めた対象顧客の選定基準例である。

図5:選定基準の例 図5:選定基準の例

 毎日の処理の中で検知された顧客は、Teradata Database内部で顧客リストとして作成、保管される。このリストをそのままチャネルに連携させると、顧客へのアプローチに利用できる。顧客の意見や不満を拾いたい場合は、電子メールを通じたアンケート回答依頼の送付に利用することができる。より直接的に再活性化を促す場合は、コールセンターに連携させて電話をかけ、今後の自社商品やサービスの利用を促すようなインセンティブを提案することも一案だ。

キャンペーン精度を向上させる

 アプローチの方法や内容に迷いがある場合は、幾つかのアプローチ案を試すこともできる。Teradata Relationship Managerでは、ランダムに抽出顧客を分割できるため、A/Bテストと呼ばれる比較効果検証も容易に実施できる。コールセンターと電子メール、割引インセンティブとポイント還元インセンティブ、クリエイティブのA案とB案のどちらが良いかなどを、実際に試すことができる。

 1つのキャンペーンがどの程度効いているかは、その反応率で示される。反応率は案内顧客数に対する反応顧客数の割合で求められる。そして、これを決定付ける要素は大きく4つある。

  • 「誰(対象顧客)に対して案内を送るか」
  • 「何(商品/サービス、提案、インセンティブ、メッセージ)を送るか」
  • 「いつ(タイミング)送るか」
  • 「どのチャネルを通じて送るか」

 賢いCRMを実現する企業とは、分析やテストの結果に基づいてこの4つを適切に選定できる企業である。

 4要素の中でも特に、タイミングを選定する能力は、違いを生み出すかどうかの分かれ目となる。上述した離反検知の能力はその一例といえる。離反の兆候が見られるタイミングは顧客ごとに異なり、それを検知したらすぐにアプローチに結び付けなければならない。そのためには、非同期に発生する顧客変化を包括的にとらえる仕組みが必要となってくる。Teradata Relationship Managerは、マーケティング担当者に代わって顧客データをつぶさにモニタリングし、アプローチすべき顧客を丁寧に拾い上げてくれるのである。

 このような方法論は、顧客維持への取り組みに限らない。せっかく維持した顧客とは、より多くの支持を得て、より強固な関係作りをすることが必要だ。そのため、次回は顧客リレーションシップの「強化」を取り上げる。

インフォメーション

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第6回  2010年11月18日(木曜日):東京


賢いCRMの3原則

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