リスクマネジメントにITが求められる理由Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2010年08月16日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]
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「木を見て森を見ず」からの脱却

 パートナーとして最後に説明に立ったプロティビティジャパン ディレクターの牧正人氏は、リスクマネジメントへのIT活用についてこう話した。

 「企業におけるリスクマネジメントは、各部門ごとではなく全社横断で横串を刺して取り組むことが求められている。その手段として最も効果的なのがITを活用することだ。ただし、表計算ソフトウェアを使って人手に頼っていては、これからのスピード経営には追いつかない。SAPのソリューションのような高度なITツールをもっと有効活用すべきだ」

 三氏の説明からリスクマネジメントにITが求められる理由を探るキーメッセージをピックアップすると「経営者が素早く把握して的確な指示を出せるようにすること」(丸山氏)、「共通プラットフォームの実現で整合した形で各部門の業務遂行が可能になる」(辻田氏)、「全社横断で横串を刺した取り組み」(牧氏)といったところか。

 最後に、このプレスセミナーとは別の機会に、リスクマネジメントにITが求められる理由をテーマに取材していた中で、ある経営コンサルタントから聞いた印象深い説明を紹介しておきたい。

 企業の組織には幾つかの階層がある。例えば、幾つかの部を従える事業部の場合、事業部長は通常、各部長からの報告を受けながら事業部全体を統括している。したがって各部長が「問題なし」と報告してくれば、予定通り業務が進行しているとみなす。つまり、この状態においては、事業部長はそれぞれの「木」である各部長から報告をきちんと受けていることによって、「森」である事業部全体を見渡しているつもりでいる。各部の業務プロセスのマネジメントは部長に任せていればいいのである。

 ところが、ひとたびどこかの部で問題が生じたとき、事業部長がその部の部長に成り代わって陣頭指揮を執るケースが少なくない。この姿勢自体の善し悪しは別として、ここで問われるのは陣頭指揮の執り方である。日本企業の場合、その部で問題が起こってから事業部長が乗り出し、その問題の原因を追及し詳細を把握して解決にあたるといったケースが多い。しかし、これでは複雑で変化の激しい業務の流れの中で問題解決が遅れるばかりか、事業部全体のリスクマネジメントとして非常に心もとない状態になってしまう。

 今、この事業部長が行うリスクマネジメントとして必要なものは何か。それは部長の報告だけではなく、常日頃から各部の業務プロセスをとらえて、どこかで問題が起こればその内容を即座に、的確に把握して対処できる術を持つことである。そのためには、ITを活用して日々状況を監視することが必要だ。

 かねて日本企業のマネジメントは、ことわざにあるように「木を見て森を見ず」と形容されてきた。ただ、実際にはどのマネジャーも「森」を見ようと努力しているのだが、問題は「森」を見るすべを持っていないことにある。これは個々のマネジャーだけの責任ではない。まさしく日本企業のマネジメントのあり方の問題である。

 「木を見て森を見ず」というマネジメントからの脱却は、SAPジャパンのプレスセミナーでパートナーの三氏が語っていたメッセージと基本的に同じだ。リスクマネジメントにITが求められる理由は、まさにここにある。

SAPジャパンのプレスセミナー。右からデロイト トーマツ リスクサービスの丸山満彦氏、あらた監査法人の辻田弘志氏、プロティビティジャパンの牧正人氏、SAPジャパンの中田淳氏 SAPジャパンのプレスセミナー。右からデロイト トーマツ リスクサービスの丸山満彦氏、あらた監査法人の辻田弘志氏、プロティビティジャパンの牧正人氏、SAPジャパンの中田淳氏

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。




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