ポジティブさの効用を科学する〜『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』マネジャーに贈るこの一冊(2/3 ページ)

» 2010年08月28日 11時00分 公開
[堀内浩二,ITmedia]

ポジティブな感情の役割〜拡張−形成理論とは何か

 ネガティブな感情の役割には、以前から説得力のある仮説が立てられていました。例えば恐怖や怒りといった感情は、生き延びるために環境の変化を察知し、逃走あるいは闘争の準備をさせるためのシグナルだと理解できます。例えば山道で突然ヘビを見かけたら、強い驚きや恐怖といった情動が生じ、身体は即座に逃走体勢に入ります(感情・情動などは、心理学では区別されている用語ですが、このコラムではあまり厳密には使い分けていません)。

 しかしそういった「感情は、特定の行動を引き起こすためのシグナルである」という考え方では、ポジティブな感情のはたらきをうまく説明できません。ポジティブ感情はネガティブ感情ほど強い身体的変化を引き起こしませんし、特定の行動に強く結びつくとは言えないからです。喜びの情動を感じたからといって、即座に何か行動しなければ生き延びられないということはありません。具体的にはどんな感情を指しているのか、著者の挙げる代表的なポジティブ感情をまとめてみました。

喜び(Joy) 期待以上にうまくいっている

感謝(Gratitude) 与えられた何かについてその価値を認めている

安らぎ(Serenity) 今の瞬間の感覚に意識が集中し、これをゆっくり味わっていたい、もっとこういう感覚をしょっちゅう味わいたいと思う

興味(Interest) 新しいものごとに関心を抱き、謎を突き止めたい気持ちに突き動かされる

希望(Hope) 絶望的な状況のなかで、「最悪の事態を恐れながら、よりよい状況を望む」感情

誇り(Pride) 自分の努力と能力を投じて何かがうまくできた

愉快(Amusement) 驚きや不調和から引き出された笑い

鼓舞される感情(Inspiration) 奮い立つような感情がわいて、意識はくぎ付けになり、心が熱くなる

畏敬(Awe) 自分が何か偉大なものの一部であると感じる

愛(Love) 10のポジティブ感情のすべてを含んでその上に位置する感情

10のポジティブ感情 - *ListFreak)

 前述の「拡張−形成理論」は、ポジティブ感情にまったく別の役割があるのではないかという説で、現在のところ広く受け入れられているようです。ごく大ざっぱにいえば、ネガティブ感情が生存に役立っているとすれば、ポジティブ感情は進化に役立っているとまとめられると思います。その骨子を著者の言葉から引用します。

 ポジティブ感情は、人類の祖先にまでその起源をさかのぼることができます。身の安全を感じたときや、何かに満足したときのよい気分が、(1)祖先たちの精神の働きを広げ、(2)身体的、社会的、知的、心理的リソースの形成を促し、長い時間をかけて彼らによりよい変化を起こさせてきたのです。(太字は原文のまま)

 もちろん、人間には両方の感情が重要です。仕事の種類によってはネガティブな気持ちになって取り組んだ方が成果が出るという研究もあります。どちらにせよ、われわれの感情は思考に影響を与えています。それを抑圧したり無視したりするよりは、感情のシグナル(情動)の意味をきちんと解釈し、また自分の気持ちを適切な状態に持っていくことに注意を払った方が、仕事の生産性も高まるはずです。このあたりのメッセージは、EI理論(日本ではEQ理論。当コラムの「自他の感情を知り、調整する〜『EQ こころの鍛え方』」を参照のこと)に通じるものがあります。

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