続・クラウド時代のビジネスモデルの行方Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2010年08月30日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]
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EMCが強調するベストオブブリード

 ただ、マイクロソフトの場合はソフトウェアのほぼ全分野をカバーしており、製品・サービスのラインアップという意味では垂直統合のビジネスモデルを志向しているともいえる。一方のシマンテックは、セキュリティやストレージ管理など特定の分野で競争力のあるソフトウェアを提供していることから、水平分業のビジネスモデルを選択するのは当然だろう。

EMCジャパン テクニカル・コンサルティング本部プロダクト・ソリューション統括部長の糸賀誠氏 EMCジャパン テクニカル・コンサルティング本部プロダクト・ソリューション統括部長の糸賀誠氏

 そうした中で8月27日、垂直統合型と対峙するビジネスモデルとして、水平分業よりも的確と思われる言葉を強調する米EMCのクラウド事業戦略の話を聞く機会があった。EMCジャパンが同日開いたプレスセミナーで、同社テクニカル・コンサルティング本部プロダクト・ソリューション統括部長の糸賀誠氏が強調したEMCのビジネスモデルは「ベストオブブリード」である。

 企業向けクラウド事業において垂直統合型を志向する競合ベンダーに対し、EMCは何を強みにどのようなビジネスモデルで挑むのか、という質問に糸賀氏はこう答えた。

 「EMCグループの大きな強みは、ストレージ、仮想化、運用管理に関する技術力の高さにある。こうした強みをもとに、EMCは垂直統合型ではなく、それぞれの領域での最適なソリューションを組み合わせたベストオブブリードを提供していく」

 そして、その象徴的な例として、EMCおよび同社傘下の米VMwareが2009年11月、米Cisco Systemsとともに結成した「VCE(Virtual Computing Environment)連合」を挙げた。データセンター仮想化とプライベートクラウドへの移行の促進を目的としたこの連合では、3社の製品や技術を統合したプライベートクラウド構築のためのパッケージ製品「Vblock Infrastructure Package」を提供。システムインテグレーターやサービスプロバイダー、ソフトウェアベンダーからなる世界的なコミュニティーを構築することにより、同製品を基にしたシステムの普及拡大を図ろうとしている。

 調べてみると、この3社協業の発表時に、EMCのジョー・トゥッチCEOが「VCE連合では、共通のロードマップと長期的な取り組みにより、真のアカウンタビリティとともに、ユーザーを成功へと導くベストオブブリードのテクノロジーを提供する」とコメントしていた。

 ただ、糸賀氏はこうも語った。

 「企業向けクラウド事業のビジネスモデルとして、垂直統合型とベストオブブリードのどちらが主流になるかは、今の時点ではまだ分からない。ただ、過去20年におけるITのビジネスモデルは、オープンシステム化とともにベストオブブリードが主流を占めてきた。クラウド時代になってもその流れは変わらないと見ているが、もし垂直統合型のほうが多くのユーザーに受け入れられるのならば、EMCとしても戦略を転換する必要が出てくるだろう」

 垂直統合型か、ベストオブブリードか。この選択はいつか来た道だが、果たしてクラウド時代に大きな変化が起こるのか、注目しておきたい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。




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