加熱するクラウド市場と冷静なユーザーマインドアナリストの視点(2/2 ページ)

» 2010年09月02日 08時00分 公開
[雪嶋貴大(クロス・マーケティング/イーシー リサーチ),ITmedia]
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クラウドコンピューティングの意識

 次に、クラウドコンピューティングに対する企業の印象や評価を判断するため、「魅力」「現実性」「価値」「トレンド」「革新性」という5つの評価分類を設け、それぞれ2通りの選択肢について当てはまるものを聞いた。結果からは以下の傾向が見られた(図2)。

image 図2:クラウドコンピューティングへの関心(出典:クロス・マーケティング『10年7月クラウド・コンピューティングに関する企業の意識調査』)
  • クラウドコンピューティングの「現実性」という観点では、「実態がない/よく分からない」が51.4%、「定義があいまい」が71.0%となり、逆の意見を上回った。
  • 「魅力」については、「魅力的な仕組みである」とする回答が6割近くに達した。大半の企業が前向きな印象を持っていることが分かる。
  • 「トレンド」では、「ベンダーによって言うことが違う」が63.1%となり、ITベンダーに対する不信感ともとれる結果が示された。一方で「新しいトレンドとなっている」「これからのITの主流となっていく」という回答も6割前後に達した。クラウドコンピューティングの発展性や普及については、前向きな意見が多かった。
  • 「価値」については、「ベンダーのマーケティング用語にすぎない」とする回答割合は、同選択肢の対となる「ユーザーにとって価値のあるものである」と同程度だった。一方、「利用価値がある」とする回答は7割を超えた。
  • 「革新性」の点では意見が二分され、特に顕著な傾向はみられなかった。半数近くの企業は、クラウドコンピューティングの技術および仕組みを冷静に見極めている様子が見えてくる。

 これらの結果から、企業はクラウドコンピューティングという用語に不明確な点があると感じつつも、その価値には一定の評価を下しているといえる。一方で、ITベンダーのマーケティングには振り回されたくないという意識も垣間見え、市場の盛り上がりを冷静な目で見ているといった状況がうかがえる。

改めて見直されるべき「顧客視点」

 国内の景気は回復基調にある。だが、欧州の金融情勢や円高の進行といった不安材料も多く、経済情勢の先行きは不透明だ。不確実性が高まる現代の経済情勢において、企業には変化に迅速かつ柔軟に対応する能力が求められている。そのためには、事業を支えるインフラとして重要な役割を担う情報システムにも、柔軟性や迅速性が必要となる。

 クラウドコンピューティングのメリットは、サービスインまでのリードタイムの短さや初期コストの低さである。激しい変化に直面している企業にとって、クラウドの利用価値は高いと考えられる。だが、あらゆる企業のIT基盤がクラウドに向くとは限らない。クラウドの利用には、ITサービスの用途や周辺領域のシステムとの連携性、取り扱う情報の機密性などの視点から検討を重ねなければならないからだ。

 こうした状況下では、ITベンダーの一方的な「クラウドコンピューティングありきのアプローチ」では、企業からの信頼を獲得できない。クラウドコンピューティングは、それぞれの企業の事業において、ITがどのような位置付けにあるべきかといったビジネスとのつながりを意識した視点で語られることが望ましい。



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