デル宮崎カスタマーセンターに根付く“サザン・ホスピタリティー”テキサス×宮崎=?

デル日本法人の従業員のうち、実に3分の1が、宮崎カスタマーセンターに勤務している。そこでは主に国内法人向けサポートが行われ、顧客満足の向上に取り組んでいる。

» 2010年09月03日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 デル日本法人の社員は約1600人。これは同社コーポレートサイトでも確認できる、周知の情報だ。だが、そのうち約530人もの社員が宮崎県の「デル宮崎カスタマーセンター」で勤務している事実を知る人は、そう多くないのではないか。

 宮崎カスタマーセンターの設立は2005年11月のこと。法人向け製品のサポート(テクニカルサポート)および、電話やインターネットによる訪問を伴わない法人向け営業(スモール&ミディアムビジネスセールス)が主たる業務である。

宮崎カスタマーセンターは市中心部のショッピングモール「カリーノ宮崎」内にある。スタッフは帰宅時に買い物もできて便利なことだろう

宮崎人の人柄が、サポートに向く

宮崎カスタマーセンターの小林治郎センター長。着任して4年ほど。「そろそろハロウィンが近づいてきました。今年は何の変装をしようか悩んでいます……」と苦笑い

 530人にのぼる従業員のほとんどが正社員。その大半は地元宮崎県での採用となっている。カスタマーセンターの設置場所を宮崎県に定めるに当たっては行政の強力な誘致活動もあったというが「おもてなしの心を大切にする宮崎人の人柄が、カスタマーセンターに適していると感じます。宮崎の“お国ことば”も、サポートを受けるユーザーに実直な印象を与える一助となっているのではないでしょうか」とセンター長の小林治郎氏は話す。

 実際、これは数字にも表れている。テクニカルサポートにおける顧客満足度の推移を見ると、目標として設定された“満足度90%”という数値を、2008年末以降クリアし続けている。デルは全世界におよそ60カ所のサポート拠点を有しているが、「宮崎カスタマーセンターの数値はその中でも最高のパフォーマンスです」とテクニカルサポート本部長の角昭雄氏は自信を見せる。なお顧客満足度の調査手法は非公開だが、コール回数やトークタイム、アバンダン(通話放棄)といった数値を組み合わせたデルの内部基準にのっとり、全世界共通の手法で調査しているという。

 考えてみれば、ユーザーのサポート業務というのは、なかなかに辛い仕事である。コンタクトしてくる顧客は基本的に、障害が発生したり、状況が分からなくなったりしているのであり、精神的に余裕がなくなっている場合もあることだろう。そういったユーザーから状況をヒアリングし、解決に導いていくというのは、センターのスタッフにとっても精神的な負荷の高い業務であるはずだ(機材に障害が発生してしまったユーザーが一番大変であることは、もちろんだが)。

テクニカルサポート本部長の角昭雄氏。宮崎に来てからもうすぐ1年。「単身赴任ですが、スタッフに囲まれ楽しくやっています。アイ・ラブ・宮崎!」

 スタッフのモチベーションを維持、向上させるために、「ワークライフバランスの拡充や、キャリアパスのサポートを積極的に実施しています」と小林氏は話す。例えばデルには“One Dell , One Community”という考え方があり、宮崎での社員ミーティングに、ジム・メリット社長はもちろん米国のエグゼクティブが(気軽に)訪れ、デルの戦略を語りかけたり、業務上の課題についてヒアリングしたりするという。キャリアについても「宮崎から川崎(デル日本法人の本社)勤務になったり、またその逆のパターンを希望したりするスタッフもいます」と小林氏は話す。

 スタッフは必ずしもIT系のスキルを持って入社するわけではなく、「ほとんどのスタッフは、入社時に高いITスキルを持っているわけではありません。“前職はピザ屋さんで働いてしました”というようなケースの方が多いですね。カスタマーセンターはユーザーを相手にするフロント業務ですから、コミュニケーション能力を重視します。ITスキルは入社後の研修で、十分に身に付けられますから」と角氏は話す。

 なおカスタマーセンタースタッフの男女比や年齢分布については、「採用や異動、昇進に当たって性別や年齢を考慮することはなく、そもそも把握すらしていません」(角氏)という。女性の社会進出状況を把握するために、行政から調査協力を求められることもあるそうだが、「男性だから、女性だからという考え方自体がデルには存在せず、そのような調査があると、かえって困ってしまうほど」と小林氏は笑う。ちなみに記者がカスタマーセンターの執務室内を概観したところ、男女比は半々、というよりやや女性が多い印象であった。

近年、顧客満足度は高い値をキープしている

法人向けサポートが大連につながる、という誤解も

 デルといえば、“徹底した経営の合理化と、それによる価格競争力の高い製品投入”という戦術が想起される。小林氏も「コストダウンは、デルのDNAとも言えます」とするが、半面「それだけではダメなのです」(小林氏)

 そもそもデルは、中国の大連にも、日本国内向けのカスタマーセンターを構えている。宮崎の拠点ができるまでは、法人向け・個人向けともに大連でサポートを行っていた。センターを運用するトータルコストだけを見れば、宮崎の半分以下だというが、角氏は「日本語が通じない、というお叱りを国内のユーザーから受けることもありました。もちろん、日本語力も技術スキルも規定に達した中国人スタッフで運営しているのですが……」と振り返る。

 その影響か、IT系メディアが実施するサポート満足度調査などでも、予期しない結果が出るようになった。「他社との差別化においては、性能や価格だけでなく、サポート品質が大変に重要」(小林氏)という反省のもと、法人向けの国内サポート拠点を増強することになった。これが、宮崎カスタマーセンター設立の背景だ。

 現在、大連で受けているコールは、コンシューマー製品に限るが、「実は今でも、法人のユーザーにアンケートをとると“サポートに電話したら中国につながった”というフィードバックがあります。現実的にはあり得ないことですから、デルのサポートに対する以前からのイメージが、そう言わせているのかもしれませんね」と角氏は話す。

 だが宮崎カスタマーセンターが、4年半に渡り“国内法人ユーザーに対するデルの顔”として機能してきたことで、日経マーケット・アクセスによるサポート満足度調査(「主要ベンダーのハードウェアに対する顧客満足度調査」、サポート・サービス項目、2009年12月)において首位を獲得するなど、確実に改善を見せている。

スタッフはチームごとに目標を設定し自己研鑽を重ねる(写真=左)。製品知識を高めるための研修が熱心に行われている(写真=右)

 宮崎カスタマーセンターでは地域に対する貢献として、公共機関や学校にハードウェアを寄贈したり、清掃活動やPC教室といったボランティア活動を実施したりしてきた。企業ポリシー上、特定の産業や業界に対する支援は難しいというが、それでも社内の有志が個人の資格で、口蹄疫支援の寄付を行うこともあった。「デルは米国の南部(テキサス州)で創業した企業。デルの企業文化と宮崎人気質の相性が良かったのかなと思う」と小林氏は話す。

 デル発祥の地である米国南部には“サザン・ホスピタリティー”という言葉がある。相手を問わず思いやるその心が、宮崎カスタマーセンターには根付いている。

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