第2回:顧客リレーションシップの「強化」賢いCRMの3原則

企業が消費者向けのマーケティングを推進し、顧客とのリレーションシップを拡大するために、念頭に置くべき3つの原則が存在する。当連載「賢いCRMの3原則」では、この3原則に基づいたマーケティングキャンペーンの進め方を解説する。第2回目の今回は、顧客リレーションシップの「強化」を取り上げる。

» 2010年09月27日 10時00分 公開
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リレーションシップを「強化する」ということ

 企業が顧客単価を向上させるために、どのような選択肢があるだろうか?  例えばこれまでと同じ商品やサービスの値段を上げることは、相当の理由がない限り難しいだろう。そもそも企業努力の方向として消費者に受容されるには正反対の方向――値段を下げること――が求められる方が圧倒的に多い。となると、既存のリレーションシップを基礎に、ほかの商品やサービスを追加提供することによって、より多くの価値交換を図ることがその方向性となる*1。これにより「顧客が自社を信頼、依存し、生活の中でより密接に自社の商品やサービスを取り入れるようになる」ことが、今回のテーマ「顧客リレーションシップの強化」である。

 さらに細分化していこう。今までのリレーションシップを基礎に、商品やサービスを追加提供していく場合、その方向性としては3つの方法がある。関連性の高い異なる商品やサービスを提案する「クロスセル」、より高価値の商品/サービスを提案する「アップセル」、同じ商品/サービスを提案する「リピートセル」だ。以降ではクロスセルとリピートセルを取り上げる。

*1:ただし、直接的な価値交換を伴わないリレーションシップ、もしくは価値交換の量を戦略的に低減させるようなリレーションシップも存在する。前者の端的な例はニュースレターやメールマガジンのような情報提供であり、後者の例としては、リレーションシップ期間の長期化を目的とした価格競争への対処である。

クロスセル:文脈に従う

 クロスセリングを考えるとき、そこには基準となる商品/サービスがあり、これに対して交差(クロス)要素を持つ関連商品/サービスが存在する。2つ以上の商品/サービスが交差するということは、顧客の日常風景(生活シーン)や嗜好性(生活スタイル)、社会的な役割(生活ステージ)において、その商品/サービスが同居していることを意味する。従って分析の目的は、このような商品間の関係を理解することである。

 例えば物販で考えた場合、プリンタとトナーは、非常に交差の度合いが高い商品である。ほとんどのプリンタ購入顧客にとってトナーは不可欠であり、顧客を細分化することなく、交差の度合いが高いと理解できる。では、PCとプリンタだとどうだろうか?  年賀状など、印刷ニーズのある顧客にとっては交差しているといえるが、印刷ニーズのない顧客にとっては、例えばワイヤレスアクセスのサービス(モバイルニーズ)や、スピーカー(音楽ニーズ)の方が、その人の日常や嗜好性に「なじんだ」提案になる。

 このような顧客ごとに異なるニーズの違いをとらえるのが、「顧客セグメント」である。例えばモバイルノートPCの購入により、外出先での利用ニーズを特定できるかもしれないし、年賀状印刷ソフトの購入からプリンタのニーズを特定できるかもしれない。もちろん両方のニーズを持っている顧客もいるはずだ。そして購入商品だけでなく、取引や接触の量やパターン、年齢や性別などのデモグラフィック属性によってもセグメントを特徴付けることが可能となる。そしてこの特徴付けによって、そのセグメントが支持している商品群が傾向として浮かび上がり、そのセグメントが有している日常や嗜好性が透けて見えるようになる。

 図1はデータマイニングツール「Teradata Warehouse Miner」の分析機能「アソシエーション分析」を実施した例である。アソシエーション分析では、発生事象間の関連性の強さを理解する。この例ではデータの母集団としてPCを購入した顧客の取引データを利用している。また、対象セグメントとして2つのセグメントを加え、各商品群も含めた関連性の強さを分析している。

図1:アソシエーション分析の結果 図1:アソシエーション分析の結果

 ここでは、色が赤に近いほど関連性が高いことを意味する。まず商品間の関連性を見た場合、高い関連性を示しているのはプリンタとデジタルカメラ、ヘッドフォンとスピーカーの組み合わせである。次に2つのセグメントと商品間の関連性を見ていく。各セグメントは単純に35歳未満と35歳以上の年齢で区切っているが、35歳未満のセグメントはスピーカーに対して高い関連性があることが分かる。一方で35歳以上を見た場合、プリンタとデジタルカメラとの関連性が高い。この結果から、35歳未満セグメントの中にPCを利用して音楽を聞く層が存在すること、同様に35歳以上セグメント内には、写真撮影や印刷にPCを利用する層が存在することが類推できる。

 ここまで理解できれば、例えば35歳未満でPCとヘッドフォンを購入した顧客で、かつスピーカー未購入の顧客に対して、「PC接続用、小型、高品質スピーカーの案内」を実施することは容易だ。すぐにキャンペーン管理ツール「Teradata Relationship Manager」で対象顧客を抽出し、キャンペーン案内を行うことができる。また、型番レベルで上記データの購入スピーカーを調べ上げれば、省スペースの「小型」スピーカーが欲しいのか、チャンネル数の多い「サラウンド」スピーカーが求められているのかなども分かってくる。

 また、クロスセリングを行う際に最も適切なタイミングは、言うまでもなく基準商品の購入タイミングである。Webやコールセンターのようなインバウンド(顧客から接触する)チャネル上で商品推奨を行う場合も、同じ分析知識を適用できる。上述した分析を基に、顧客や条件ごとに提案する商品を決定しておき、「提案テーブル」として用意しておく。いざ顧客がチャネルに接触し、基準商品を購入したときには、その接触データをキーに提案するべき商品をページ上、もしくはコールセンターのオペレーター端末上に表示させ、購買を促すことが可能となる。この際にもTeradata Relationship Managerの機能を用いることが可能だ。提案テーブルを作成し、顧客の商品購入に応じて提案テーブルを最新状態に維持しておくことも容易にできる。

リピートセル:顧客のテンポに従う

 リピートセルの場合、案内するべき対象は補充型の商品やサービスとなる。何のアプローチもせずとも顧客からリピート購入があればそれに越したことはないが、忘却や他社商品/サービスへの浮気といった要素がリピート購入を阻害する要因となる。こうした課題に対処するため、分析の手順としては、補充型商品の購入サイクル、つまり期間を求める。そしてその期間の前後で案内を行うことにより、定期的に訪れるはずの購入サイクルを補強することが目的だ。

 ここでは補充型商品の例としてファンデーション(化粧品)を取り上げよう。図2は、Teradata Warehouse Minerのヒストグラム分析を用い、ファンデーション購入から、次のファンデーション購入の期間までを購入サイクルとし、サイクル分布がどのように発生しているかを分析している。

図2:ヒストグラム分析の結果 図2:ヒストグラム分析の結果

 分析結果からは、4カ月ごろからリピート購入のサイクルが立ち上がり、8カ月程度までにおおよそのリピート購入が発生するという分布になっている。通常こういった商品は、容量と品質上の観点から標準使用期間が決定されているが、実態としては顧客によってサイクルが異なることが分かる。

 そのため、リピートセリングにあたってこのようなルールを考えたい。リピート購入サイクルが存在している顧客を対象に、顧客ごとの平均購入サイクルを基準にリピートセルを行う。これをTeradata Relationship Managerで設定する場合、以下のような選定基準式となる。2回以上ファンデーションを購入した顧客を対象に、未購入期間が平均的な購入サイクルの1.1倍超過した顧客を抽出している(図3)。

図3:選定基準の例 図3:選定基準の例

 こういったアプローチをリピート購入傾向のある商品/サービスごとに、「小さな」単位のキャンペーンを数多く組み立てていく。これによって顧客それぞれが本来有している商品需要のテンポに合わせ、適切なタイミングで案内をすることが可能となる。

 以上、当連載の第1回、第2回で、既存顧客とのリレーションシップを維持、強化する方法を論じてきた。これらの取り組みを通じて、今現在付き合いのある顧客との関係を管理していくことが可能となるが、一方で新規の顧客を獲得し、既存顧客へと定着化できなければ、自社のリレーションシップ顧客数は縮小均衡に陥る。また当たり前のことだが、今現在付き合いのない顧客に関して自社は連絡先情報を持ち得ず、当然ながら直接的な接触手段も、知識も有していない。このような場合に、どのように顧客データベース、さらには顧客分析やキャンペーン管理ツールを活用して、リレーションシップを構築することができるだろうか?  次回はリレーションシップの「構築」について解説する。

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