中堅・中小企業を変えるクラウド活用

【第3回】PaaSはシステム間の連携基盤として活用中堅・中小企業のSaaS/クラウド活用(2/3 ページ)

» 2010年09月28日 08時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]
クラウドのデメリット クラウドのデメリット

 「顧客の要望に応じたカスタマイズを施すことができない」「顧客社内の既存システムとの連携が難しい」というのは、前回までに述べたSaaSの主要な課題そのものである。「データのセキュリティが保証されない」はSaaSに限らずクラウド活用全般にかかわる課題といえる。

 ここで注目したいのは「既存の開発手法を利用することができない」である。中堅・中小を顧客に持つSIerは何らかの形で自社製フレームワーク(アプリケーションフレームワーク「Struts」を土台としたものなど)を有しており、それを基盤にして開発工数短縮や品質維持に努めている。クラウドの持つメリットは魅力的ではあるが、開発者が慣れ親しんだ自社製フレームワークを利用できないとなると開発コストや品質リスクが上がるというデメリットもある。両者を天秤にかけた場合、顧客のシステム規模がそれほど大きくなければ、従来通りのシステム形態を維持した方が無難という結論になるわけだ。実際、PaaS活用のために新たな開発手法を習得しなければならないという点を障壁と感じるSIerは少なくない。

共通基盤としてのPaaSは新規システム構築で威力を発揮する

 では、中堅・中小企業にとってPaaSはあまり有効でない選択肢なのか。既存システムを拡充するという観点では、従来の開発手法を継続して利用できることが重要な判断基準となるが、顧客がインターネットを介して利用することも想定した新規のシステムを極めて短期にかつセキュリティや拡張性を保った上で構築したい、初期コストは抑えたいといった場合には話が変わってくる。実際、急激な環境変化に即応するために、こうした要件を満たすシステム構築は今後ますます求められるだろう。

 そこで有効なのが、SaaSも含めた共通基盤としてPaaSの活用である。そもそもPaaSはシステムを開発、運用するためのプラットフォームである。PaaSの上に業務システムを構築してサービスとして提供すれば、それはSaaSにほかならない。つまり、PaaSはSaaSとクラウド上の独自開発システムの共通基盤となり得るのである。

 PaaSには開発言語やミドルウェアだけでなく、認証、アクセス権限、ビジネスプロセスなど業務システム開発に必要となる基本的な仕組みが備わっている。SaaSとして提供されているもののうち自社の要件に合致するものはそのまま採用し、合致しないものはPaaS上で新規に開発する。どちらも同じPaaS上に構築されているので、認証、アクセス権限、ビジネスプロセスなどは共通の基盤を利用することになる。単に所有しないことによるメリットだけでなく、拡張性と連携性を兼ね備えた業務システム群を新規に開発することが可能となるのである。この代表例が「Salesforce CRM」と「Force.com」だ。

 Salesforce CRMはSaaS、Force.comはPaaSに相当するが、Force.comはセールスフォース・ドットコムが提供する各種サービスの共通基盤となっている。そのため、SaaSとして提供されるさまざまなサービスと連携した独自システムを迅速かつ容易に開発できる。SaaSの活用を考えているが、新規に独自システムを開発することも考えており、両者を連携させる必要があるといった場合には、共通基盤としてのSaaSに加えて、共通基盤としてのPaaSも併せて提供されているサービスを選択すると良いだろう。

共通基盤としての役割を担うPaaSの例 共通基盤としての役割を担うPaaSの例

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