クラウドを海外進出の足掛かりとせよ 経産省

企業の投資意欲の低下などによって、厳しい状況が続く日本のIT産業。その突破口となるのが自国でのクラウドサービス構築だという。

» 2010年10月19日 08時30分 公開
[伏見学,ITmedia]

 世界的な経済危機の引き金となったリーマン・ショックから2年。日本経済にも深刻な爪あとを残し、いまだ多くの企業がその“後遺症”にもがき苦しんでいる。国内のIT産業については、多くのユーザー企業がIT投資に対して消極的な姿勢を見せていることから、ITベンダーやシステム開発各社は利益を上げるためにわずかなパイを奪い合うといった状況にある。

 そうしたビジネス環境の中で、IT企業は新たな売り上げを求めて海外市場に進出することが不可欠である。その足掛かりとなるのが「クラウドコンピューティング」である。グローバルで通用するクラウドサービスを作り上げ、海外市場に輸出していくことが、日本のIT産業が生き残る手段の1つといえよう。

 それに同調するように、日本政府もクラウド普及に力を注いでいる。経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課の鴨田浩明氏は、社団法人 情報サービス産業協会(JISA)が10月13日に開催したシンポジウム「情報技術マップ2010」の基調講演で、「クラウドサービスを武器に、日本のIT企業の海外売り上げを2〜3倍に増やしたい」と将来の可能性を語った。

高速な情報処理が可能に

経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課の鴨田浩明氏 経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課の鴨田浩明氏

 なぜクラウドが脚光を浴びるのか。クラウドの強みは、巨大なデータセンターにおけるコンピューティングパワーによって大量のデータや情報を迅速に集積、分析、処理できる点にある。クラウドを活用することで、さまざまな産業でのイノベーションにつながると鴨田氏は述べる。例えば、医療分野においては、病院や健康家電メーカー、スポーツジムなどからデータを統合し、それを分析することで、個人の健康管理や新薬の開発につながるという。農業分野においては、センサで農場の気温や肥料の濃度などをリアルタイムで管理することで生産性を高められるとしている。

 これら自体は既存のシステムでも実現可能だが、クラウドサービスを活用すれば情報処理能力は飛躍的に向上する。「農業やヘルスケアの分野では従来サービスと比べて、1日当たり数十万倍のデータ量を扱うことができる」と鴨田氏は説明する。

立地面積に課題あり

 このように、クラウド活用の効果に対する期待は大きいが、日本でクラウドサービスを展開するに当たりいくつかの課題がある。その1つがデータセンターだ。クラウドサービスを提供する上で大量のサーバを設置するためのデータセンターは必要不可欠だが、日本ではその国土の狭さから米国と比べて規模の面で不利な状況にある。野村総合研究所が作成した資料によると、日本で最大のデータセンターとなる富士通の「館林システムセンター」の敷地面積が2万2000平方メートルであるのに対し、米・アイオワ州ブラフスにあるGoogleのデータセンターは486万平方メートルと、その差は歴然だ。

 さらに、日本の多くのユーザー企業では「サーバの稼働状況を目視で確認したい」「何かあったときにすぐ駆けつけたい」といった要求があることから、東京を中心とした首都圏にデータセンターを設置するケースが多い。「米国と比べて日本のデータセンターは規模においてかなり後れをとっている。また、(規模を拡大する上で)不利な立地にデータセンターを設置しているのが現状だ」と鴨田氏は指摘する。

 そこで、小さい立地面積で効率的にデータセンターを運営するために、さまざまな施策が取られている。その一例がコンテナ型データセンターの設置である。これはISO規格の輸送用コンテナに、サーバラック、電源および通信配線、空調設備、消火設備などを組み込んだデータセンターで、従来型のデータセンターと比べて、少ない初期投資、短い構築期間、省スペース、高い空調効率、移動式といった特徴を持つ。現在は「建築基準法」に抵触するが、今年度内に規制緩和されるという。

経産省の取り組み

 日本でのクラウド推進に向けて、経産省では「イノベーション創出」「制度整備」「基盤整備」の3本柱を施策として打ち出している。具体的に、イノベーション創出では、海外展開支援や公共サービスの刷新、公共データおよび行政情報の公開、制度整備ではクラウド市場の成熟化、データ利活用と権利保護の両立、データ越境移動の円滑化、基盤整備では、環境負荷低減に関する技術開発、産業構造改革、データセンターの立地環境整備、クラウド時代に合わせた人材育成などを掲げている。

 とりわけ海外でのビジネス展開を見据えて、データセンターの立地環境整備には力を注いでいる。「サーバ需要を十分に収容でき、規模の経済を働かせることのできる中規模、大規模データセンターの立地を推進してクラウドサービスの基盤を整えるとともに、日本企業が交通、農業、医療などの分野において、安全、安心なシステムインフラサービスを構築し、海外での展開を実現していきたい」と鴨田氏は意気込んだ。

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