続・オラクルは「サン」を生かせるかWeekly Memo

Sun Microsystemsの買収によって、ハードウェアとソフトウェアを一体化した垂直統合ビジネスに突き進むOracle。果たして死角はないか――。

» 2010年10月25日 08時03分 公開
[松岡功,ITmedia]

日本オラクルがシステム製品戦略を発表

 「オラクルはサンを生かせるか」と題した本連載のコラムを7月5日に掲載したが、今回はその続編のつもりで書く。

 同コラムでは、ハードウェアもソフトウェアもオープンな製品を効果的に統合し、さまざまなニーズに合わせて最適化されたソリューションによって顧客により高い価値を提供していくのがOracleのめざす垂直統合ビジネスであることを、日本オラクルの遠藤隆雄社長の発言として紹介した。

 併せて遠藤社長が、「Oracleの垂直統合ビジネスはオープンではない、との見方があるが全くの誤解だ」と強調したことも記した。これらの発言は、日本オラクルが6月30日に開いた2010年5月期決算説明会でのひとコマで、当時はまだ旧Sun Microsysstemsのハードウェアを中心としたシステム製品に関する戦略が明らかになっていなかった。

 米Oracleがシステム製品戦略を発表したのは、9月中旬に米国で開いたプライベートイベント「Oracle OpenWorld 2010」で、ラリー・エリソンCEOが満を持して説明した。それを受けて、日本オラクルが先週19日、国内でのシステム製品戦略について会見を行った。

システム製品戦略を説明する日本オラクルの大塚俊彦 専務執行役員

 同会見では、日本オラクルでシステム事業を統括する大塚俊彦 専務執行役員がシステム製品へのコミットメントとして、「継続的な投資の強化」と「ハードとソフトの統合製品による顧客へのビジネス価値の提供」をあらためて強調した。

 また、Oracle OpenWorld 2010で発表された製品群の中から、新SPARCチップ「SPARC T3プロセッサ」およびこれを搭載したサーバ「SPARC T3システム」、ストレージ「Sun ZFS Storage Appliance」、新OS「Oracle Solaris 11」を今後、国内市場へ投入していくことを明らかにした。

 さらに、SPARC EnterpriseサーバおよびSolaris OSについては、今後5年間のロードマップも示してみせた。これらの新製品やロードマップの内容については、すでに報道されているので関連記事などを参照いただくとして、ここではシステム製品の基本的な考え方について語った大塚専務の発言を紹介しておこう。

 「システム製品は個々のコンポーネントにおいてもベストオブブリードをめざす。統合製品では当社ならではの最高のコストパフォーマンスを追求する一方、個々のコンポーネントではコストパフォーマンスとともに、オープンな製品としてユーザーに幅広い選択肢も提供していきたい」

垂直統合ビジネスの死角

 この発言を聞いて、以前から気になっていたことがあらためて頭に浮かんだ。それは、旧SunのシステムとOracle製品ではないアプリケーションを組み合わせて使っているユーザーに不安感を与えないか、である。

 例えば、旧Sunのシステムと独SAPのERPを組み合わせて使っているユーザーは、ワールドワイドで数多く存在する。Oracleが掲げる垂直統合モデルには、当然ながらアプリケーションとして同社のERPもラインアップされており、将来的に旧Sunのシステム上でSAPのERPを使い続けることができるのか、ユーザーが懸念するのは自然だろう。

 Oracleとしては、そうしたユーザーに対して旧Sunのシステムを足がかりに、ERPのリプレース攻勢をかけたいというのが本音かもしれない。ただ、オープンシステムだけに、ユーザーがSAPのERPを使い続けることを優先すれば、システムのほうをリプレースする可能性が高い。そこに死角はないか。

 折しもSAPは先週、米国で開いたプライベートイベント「SAP TechEd 2010」で、同社製品の利用環境におけるクラウドコンピューティングおよび仮想化基盤として、IBM、Dellと連携強化していくことを発表した。SAPはすでに「Virtual Computing Enviroment(VCE)」を推進するCisco Systems、EMC、VMwareとも同様の連携を図っている。この動きは、将来を見据えたSAPの“Oracle包囲網”とも受け取れる。

 こうした中で、Oracleも垂直統合ビジネスのリスクは重々承知だろう。日本オラクルの大塚専務の「ユーザーに幅広い選択肢も提供していきたい」という発言には、垂直統合一辺倒ではないOracleの姿勢が感じられた。ビジネス戦略としては垂直統合モデルに注力する一方で、システム製品においてはユーザーに幅広い選択肢も提供し続ける。この立ち位置を取り続けることができるかどうかが、Oracleの今後の飛躍のカギになるのではないだろうか。

 システム事業を担うマーク・ハード社長、さらにはエリソンCEOがどう舵を取るか、注目したい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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