名古屋議定書、医療分野のIT投資、日本オラクル【雨天炎天】 ITmedia エンタープライズ時評

利益配分の対象となる遺伝資源の範囲や(名古屋)議定書の適用時期について、途上国と先進国の溝が埋まらない。医療関連分野のIT投資は加速する見込み。日本オラクルは医療情報連携基盤市場への本格参入を表明した。

» 2010年10月27日 12時23分 公開
[谷古宇浩司,ITmedia]

 遺伝資源の利用と原産国および利用者との利益配分のルールを定める「名古屋議定書」の採択を巡って、多くの遺伝資源を有する途上国と(ライフサイエンス産業を擁する)先進国との間で意見が対立している。

 生物の遺伝資源は医薬品のもとになる。

 米Oracleのニール・デ・クレセンゾ氏が10月26日の記者会見で指摘したように、新薬開発のパラダイムは、「基礎研究」「発見&開発」「臨床試験」「ケア・ポイント」を担うプレイヤーたちの活動が相互に結びつく形態へとシフトしつつある。クレセンゾ氏はそれをライフサイエンス産業と医療が1つにまとまった「ネットワーク型医療&ライフサイエンス産業モデル」として記者たちに紹介した。同モデルにおいては予測的で予防的な(患者)参加型のパーソナル医療が究極的な姿である。

 パーソナル医療の実現に向けて、ライフサイエンスおよび医薬品業界は相互の連携を模索しつつ、新たなビジネスチャンスの開拓に乗り出し始めている。そんな彼らにとって、企業活動に支障をきたす(内容が盛り込まれる恐れがある)議定書の採択はできるだけ敬遠したいのが本音だろう。

 日本の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が5月に掲げたIT戦略3本柱の1つは医療分野に関するものであった。この分野には、「どこでもMY病院」構想、シームレスな地域連携医療の実現、レセプト情報の活用による医療の効率化、医療情報データベースの活用による医薬品等安全対策の推進などの施策が含まれている。

 海外は言うに及ばず、日本国内だけに限っても、医療関連業界の近未来にはそれなりの活況が予想される。医療は金になるのである。

 データベース大手の日本オラクルが26日の記者会見で医療情報連携基盤市場への参入を表明したのは、「医療関連分野の売り上げを年々倍々に拡大」(日本オラクル 白石昌樹氏)する絶好の機会だからと考えられる。同社は、帝京大学医学部付属病院の医療情報連携基盤構築プロジェクトにおいて、データベースをはじめとしたミドルウェア製品の納入実績がある。専任の技術、営業チームおよび製品の日本語化チームを編成することで同社は、医療関連業界への本格参入を果たすことになる。

 「名古屋議定書」はどのような中身で採択されるのだろうか。市場の最前線でビジネスチャンスを狙う企業の動向から、途上国と先進国間の利益配分を巡る熾烈な綱引きの様子が垣間見える。

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