買い物客は店内滞在時間の80%を、無駄に過ごしていた「買う」と決める瞬間(2/2 ページ)

» 2010年11月16日 11時30分 公開
[大里真理子,ITmedia]
前のページへ 1|2       

購入までの3ステップ

 ソレンソン氏は、ショッパーが「買う」と決める瞬間へは次の3ステップをたどると主張しています。

  1. リーチ(目にとまる)
  2. ストップ(立ち止まる)
  3. クローズ(購入を決定する)

 五感で得られる情報の9割が視覚によるものであることを考えると、ショッパーが何を見ているのかが明らかになれば、ショッパーが何を考えているのかもある程度分かってくるはずです。ここで「アイ・カメラ」(※2)が活躍します。

 アイ・カメラを使うと、買い物客の目線の移動と固定(注視)の両方が分かります。その情報を精査したところ、購入プロセスには、以下のような特徴があることが分かりました。

  • 売場が雑然としていると、商品は目に入らない
  • 買い物客は、目印となるブランドを頼りに売場にたどりつく
  • 視線の焦点が集まるのは、床から約0.9〜1.5mの高さである
  • 買い物客は、店内ではめったにお金の計算をしない。値段は頭に残らない
  • 買い物中は文字はほとんど読まないが、色や形、画像・映像には反応する

出典:「買う」と決める瞬間 ダイヤモンド社

 スーパーには多くの商品が置かれていますが、1週間で商品1つ当たりに来店客が視線を向けるのべ時間は、わずか5分にすぎません。その中で、ほかの商品より注目される商品もありますが、この調査からも分かるように、それはその商品自体の良し悪しよりも、むしろその商品が店内のどこに置いてあるのかによって左右されています。

 ショッパーは垂直方向より水平方向に目を動かし(目の筋肉の3分の2は水平の動きのためにある)、陳列什器の前で立ち止まっているときは、床から約1.5mの高さの視野内で水平に目線を動かします。店舗設計の観点から言えば、垂直方向よりも水平方向で固まりを作って陳列する方が効果的というわけです。

買い物客を理解するポイント

  • 買い物客の行動タイプは「急ぎの買物」「買い足し」「まとめ買い」の3つ
  • 「急ぎの買物」タイプが人数として多く、お金を使う速度も速い
  • しかし店舗の設計は、「急ぎの買物タイプ」に焦点を合わせていない
  • 買い物客の視線は、その商品が店内のどこに置いてあるのかによって決まる。
  • 商品は、水平方向にかたまりを作って陳列する方が効果的

 次回「1ドルの売り上げにかかる秒数」(11月18日掲載予定)では、今回得た事実に対応したスーパーの例を紹介します。


 ※1. PathTracker

出典:「買う」と決める瞬間 ダイヤモンド社

 PathTrackerとは、1台のショッピングカートの動きと、そのショッピングカートで購入された商品を関連付けるものです。すなわち、ある買い物をした買い物客が、どのように店内を動き回ったかが分析できます。ショッピングカートの動きは、カートに取り付けたRFIDタグ(無線ICタグ)から送信されるデータを受信して把握します。そのカートにどんな商品が入っていたかは、カートがレジに到着した時刻をもとに、POSの取引ログの中から特定の売り上げデータを見つけ出すことによって把握します。ソレンソン氏のブログに詳しい説明が書かれていますので、そちらもご参照ください。

 ※2. アイ・カメラ

出典:「買う」と決める瞬間 ダイヤモンド社

 アイ・カメラとは、視線の動きをとらえるアイトラッキング(eye tracking)で使用される特殊なカメラです。このカメラは、視野に入ったものを10分の1秒ごとに記録し、コンピュータにその情報を送信します。このカメラは、同時に角膜がとらえたポイントも記録して送信するので、受信した側でこの2つの情報を重ね合わせることで、ショッパーが見たもの、焦点を合わせたものを分析することができます。

 アイ・カメラに写った映像

出典:「買う」と決める瞬間 ダイヤモンド社

 写真全体が買い物客の視野に何が入ったかを示しています。十字の焦点マークは、店内を進むにつれて1秒ごとに焦点が合った個所です。

「買う」と決める瞬間

「買う」と決める瞬間

著:ハーブ・ソレンセン、監訳:株式会社テイラーネルソンソフレス・インフォプラン、訳:大里真理子/スコフィールド素子

ダイヤモンド社

2010年9月10日

ISBN-10: 4478012768

ISBN-13: 978-4478012765

1890円(税込み)

ブランドや広告が効かなくなり、「買い」は売り場で決まると言われる今、「ショッパー・マーケティング」の第一人者が、「消費者」(店の外にいる人)と「ショッパー」(店内にいる人)を明確に区別した上でショッパーの行動(視線の動き、通路の進み方など)を最新技術を用いて観察、従来の常識を覆すショッピングの科学


プロフィール 大里真理子(おおさと・まりこ)

大里真理子

アークコミュニケーションズ 代表取締役社長。

「目指せグローカルなビジネスコミュニケーション!」をモットーに、Web/クロスメディア制作・翻訳/通訳/ローカリゼーション・ライティング・人材派遣/紹介を営む。
「ITmedia オルタナティブ・ブログ」の「マリコ駆ける!」を執筆中。twitterのアカウントは@marikokakeru


関連ホワイトペーパー

流通業


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ