立ち上がる最後の巨大市場――BoP市場の可能性 野村総研【雨天炎天】 ITmedia エンタープライズ時評

成長が見込まれるBoPビジネスの現状と日本の将来的な取り組みについて、野村総合研究所が提言をまとめている。彼らが「最後の巨大市場」と呼ぶBoP市場の可能性とは。

» 2010年11月19日 08時00分 公開
[谷古宇浩司,ITmedia]

 BoPとは、Base of the Economic Pyramidの略。「低所得層を構成する経済ピラミッド」のうち、(経済ピラミッドの)底辺層を指す言葉だ。同市場を「潜在力のある新たな市場」とする考え方は、米コーネル大学のスチュアート・L・ハート教授と米ミシガン大学のC・K・プラハラード教授による「経済ピラミッドの底辺の隆盛」(1998年)という研究報告書で紹介され、広く知られるようになった。

 野村総合研究所の川越慶太氏(公共経営戦略コンサルテイング部)によると、BoP市場の規模は所得総額で約5兆ドルだそうだ。該当総人口はおよそ40億人。地球の人口に占めるシェアは70%を超えているという。この層の1人当たりの年間所得は3000ドル以下だ。

 野村総研は日本の企業および政府機関等に対し、BoP市場に注目すべきだとの提言をまとめている。その根拠は、1)購買力があり、拡大が期待できる市場であること、2)ソブリンマネーの流入が加速していること、3)先進諸国とは異なる市場の成長シナリオがあるため、早期の参入が必要であることの3点である。

 この3つの根拠のうち最も注目すべきは市場が拡大傾向にある点だろう。携帯電話とマイクロファイナンスの普及が、BoP世帯の家計モデルに「革命」をもたらしている。

 マイクロファイナンスとは、低所得者向けの短期・小口・無担保ローンのこと。平均的な融資額は数千円から数万円の間で、1年以内の返済期間を設定している金融機関が多い。特徴的なのはその金利だ。だいたい年率25〜70%という高額の貸し出し金利が設定されている。高金利にもかかわらず、日本の都銀の貸倒率(約1.32%/96年〜00年度平均)と遜色ないのが実情だ。マイクロファイナンスを通じて融資を受けた人々はその資金を元手に事業を開始する。その結果、10年間で8500万人が貧困からの脱却に成功したとのレポートもある(マイクロクレジットの現状 サミット・キャンペーン・レポート 2009年版)。

 携帯電話の普及も彼らの事業効率の向上を促していると川越氏は指摘する。総務省の「世界情報通信事情」によると、ケニアにおける携帯電話の加入者数は2008年度で1623万4000人、普及率は41.9%だった。インドの携帯電話加入者数は5252万5000人、普及率は44.7%だ(2009年)。携帯電話は情報武装のためのツールにとどまらず、簡易送金サービスの端末にもなる。ケニアでは、「M-PESA」と呼ばれるショートメッセージサービス(SMS)を用いた送金サービスが普及している。人口3200万人のケニアで携帯送金のエージェントが5000カ所以上設置されている。5000カ所というのは、東京三菱UFJ銀行のATM数の約2倍である。この送金サービスが普及していることで、「富の偏在が縮減し、家計消費が拡大している」(川越氏)。

 BoP市場の特性を生かしたIT化と金融システムの構築が、同市場の経済規模拡大に寄与していることは事実だろう。また、このような状況に加えて、ビジネス開発型の先進的なNPOやNGO、政府機関が開発に加わり始めたこと、さらに、先進国で開発されたインフラ技術の導入による劇的な市場成長速度が、BoP市場の立ち上がりを支援していることもまた事実だ。川越氏は、BoP市場の潜在的な可能性を高く評価し、「いま先行投資としてBoPビジネスに取り組むことは、10年後、競争が激化した巨大市場において不足する“時間”を買うことに等しい」と話すのであった。

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