駅は“マザーステーション”に生まれ変われるかSFC ORF 2010 Report(2/2 ページ)

» 2010年11月23日 08時10分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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駅を良くするハードとソフト

 伊藤氏は、JR東日本が現在開発を進めている顧客サービスの技術を紹介した。

 その一例として、「完全対話型情報端末」では、経営合理化によって人員の少ない駅でのサービス向上を目的にしている。駅に設置された大型ディスプレイを通じてオペレーターが利用客の要望に対応するもので、例えばベビーカーで訪れた女性客にスムーズに移動できる道順を地図で紹介する。

 また車いす移動支援ロボットは、車いすを乗せたロボットが駅構内の段差やホームと列車の段差を安全に乗り越えるためのシステムである。現状では車いすで列車に乗ろうとすると、事前に連絡した上で駅の職員による介助が必要になるが、車いすの利用者がより簡単に列車を利用できるようにするのが目的だ。

 こうした研究について伊藤氏は、「駅は街の出入り口でもあり、“街を動かす原動力”としての役割を担うために次世代の駅設備を目指している」と述べた。

 山本氏が主催する「女の欲望ラボ」は、20〜40代の女性100人以上が参加するコミュニティーで、メールを通じて日常生活に関するさまざまな要望や意見を交換しているという。山本氏は、駅に対する期待として「マザーステーション」になることが求められていると紹介した。

 山本氏によれば、女性の社会進出が進んだことで日常生活におけるストレスや疲労を抱える女性が増え、“癒し”や温かみ、便利さなどを志向する人が増えているという。「駅には必ず誰かいるものの、そこでは“人肌”は感じられない」(山本氏)

 コミュニティーでは、駅に足して母親が持つやさしさや温かみ、何かを生み出すような役割を求める声が上がっている。例えば駅で農業体験ができることや、ボランティア活動に参加できること、勉強ができる場であること、さまざまな商品のサンプルが手に入れられる場であるなど、その声はさまざまだ。駅は単に移動のための場であるだけでなく、日常生活の場となることを期待する女性が少なくない。

人と技術が一体になった発展

 従来の鉄道システムは、多くの人をいかに効率的に輸送するかという点が最大のテーマとされてきた。その中心となる駅にも大量輸送を可能にする機能性が求められてきたが、社会情勢の変化によって、利用者の多種多様なニーズに応えることが求められている。

 だが旧来のシステムで構築された環境を変えるのは容易ではない。例えば、バリアフリー化によって狭いホームにエレベーターを設置すれば、エレベーターの周囲はより狭くなる。階段を使う不便さは解消されるが、ホームがさらに混み合うなどの新たな課題も生じてしまう。白山氏は、「すべての要望に応えたくても、物理的にできないことがあります。それを現場でいかに工夫していくか、“技”のいる仕事です」と話している。

 理想的な駅の将来像を実現するには、利用者のさまざまなニーズを技術で解決していくことと同時に、利用者同士がコミュニケ―ションを交わして快適に利用できる環境作りも必要になる。ハードとソフトが一体になった取り組みが、山本氏の言う「マザーステーション」を実現する方法になるようだ。

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