業務プロセスを改善するAcrobat

Adobeが提供するPDF作成ソフト「Acrobat」の最新版では、顧客のニーズに応えた機能改善がなされている。従来の枠組みを超え、企業の業務プロセス改善までを支援するという。

» 2010年12月15日 12時40分 公開
[伏見学,ITmedia]

 業務文書のデジタル化という言葉が叫ばれて久しい。電子メールやオンラインストレージサービスの利用によって、テキスト情報や動画像ファイルなどの受け渡しは物理的に郵送することなく、PCやモバイル端末で容易に行えるようになった。しかしながら、デスク周りや会議などを見渡すと、依然として紙の文書を大量に積み上げている人が多いはずだ。

 紙の業務文書を電子化するために登場したのがPDF(Portable Document Format)である。米Adobe Systemsが1993年に発売した電子文書作成ソフトウェア「Acrobat 1.0」で採用され、一躍世の中に広まった。現在、Web上にあるPDFのファイル数は1億6000万個を超えており、個人PCのハードディスクや企業のファイルサーバなどを合わせるとその数は計り知れない。Acrobat自体も累計で3200万本、PDF文書を表示、印刷、操作するための無償アプリケーション「Adobe Reader」は6億本以上もダウンロードされているという。

UIを科学的根拠に基づき改良

 このたびAdobeが発表した最新版「Acrobat X」は、ユーザーのニーズを受けてさまざまな改良が加えられた。その最大の特徴がユーザーインタフェース(UI)の改善である。具体的には、ユーザーが頻繁に使用するツールや機能を1つのウィンドウ枠で表示することで、使いたい機能がすぐに見つけられるようにするなど操作性を向上した。従来まではAcrobatのバージョンアップごとに機能をつぎはぎで追加していたため、ヘビーユーザーでなければ、使いたい機能がどこにあるか分からず操作に戸惑うという課題があった。最新版では操作メニューを整理し、新規ユーザーでも迷わずに機能を使いこなせる仕様になっている。

 UIの改善について、同社でAcrobatソリューション部門 マーケティング担当ディレクターを務めるマーク・グリリー氏は、「Acrobatにはユーザーの行動を追跡(トラッキング)する機能を埋め込んでいる。そこからユーザーの操作に関する数値化されたデータを抽出し、UIの改善に活用した」と説明する。単にユーザーの声という定量的なデータだけでなく、科学的なアプローチもなされたわけである。

 こうした機能改善の背景には、複雑で非効率的なワークフローをより簡単にして顧客に貢献するといった同社の理念がある。Acrobatを活用することで、この理念を具現化し、企業の業務改善を実現できるのだという。

複雑な業務を単純化する

米Adobe Acrobatソリューション部門 マーケティング担当ディレクターのマーク・グリリー氏 米Adobe Acrobatソリューション部門 マーケティング担当ディレクターのマーク・グリリー氏

 では、Acrobatによる業務改善とはいかなるものか。Acrobatを企業に導入することよって得られる最大の効果がペーパーレス化である。業務文書を紙からデジタルへ移行することで、「コスト削減に加えて、社員の生産性が向上する」とグリリー氏は語る。例えば、大和ハウス工業では、業務文書や資料の電子化によって、これまで年間で約5000万円かかっていた印刷コストを解消したほか、設計に伴う最新の図版をいつでも閲覧できることで部材の選択ミスも減少したという。

 Acrobatの効果はペーパーレス化だけにとどまらない。業務プロセスの簡略化にも貢献する。例えば、PDFの文書をWordやExcelのファイルとして再利用したい場合、PDFのテキストをコピー&ペーストによってWordに取り込み、保存することが多いが、どうしてもレイアウトや表が崩れてしまう。Acrobat Xが提供する機能を活用すれば、ワンボタンで表示を維持したままファイル変換ができるという。

 また、「PDFポートフォリオ」という新機能を使うことで、WordやExcel、写真、動画など複数のファイルを1つのPDFとしてまとめることができ、企業に散在する複数ファイルをテーマに応じて一元管理することが可能である。「やらなければならない複雑な業務を単純化することによって、顧客がよりビジネス効果を出せるような支援をするのがAdobeの役目だ」とグリリー氏は強調する。

 Acrobat製品の普及によってドキュメント管理市場で高いシェアを占めるAdobeだが、まだまだ拡大の余地はあるという。「例えば、MicrosoftのOffice関連製品はさらに大きな販売本数を誇っている」とグリリー氏は述べる。

「OfficeユーザーがすべてAcrobatを導入する必要はないかもしれない。しかし今後、業務文書を紙からデジタルに移行する企業は増える。移行後、デジタルデータをより効率的に管理したいというニーズは高まるだろう。市場開拓の可能性は大いにあるのだ」(グリリー氏)

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