元旦の新聞各紙が報じた「少子高齢化」と「スマートフォン」Weekly Memo

元旦の新聞各紙が報じたニュースから、今後のIT分野に大きな影響を与えるとみられる2つのキーワードに注目してみた。

» 2011年01月05日 07時55分 公開
[松岡功,ITmedia]

迫り来る少子高齢化社会

 元旦の新聞は、各社とも新年に向けたさまざまなメッセージを込めようと意気込んでつくることもあって、読み応えのある記事が多い。押し並べてみると、共通のキーワードが浮かび上がってくる。そんな中から、今後のIT分野に大きな影響を与えるとみられる2つのキーワードに注目してみた。

 まず1つ目は「少子高齢化」。厚生労働省が元旦に向けて発表した2010年の人口動態統計(年間推計)を各紙とも掲載していたことから、その内容が強く印象に残った。

 それによると、日本在住の日本人の人口減少幅は戦後最大の12万3000人に上り、初めて10万人を突破した。出生数は微増したが、死亡数が1947年の統計開始以来最多の119万4000人を記録したためだ。人口減は4年連続で、減少幅は年々大きくなっている。

 同省では、高齢化に加え、猛暑の影響で7、8月の死亡数が増加したことが影響したと分析している。死亡数が100万人を超えるのは8年連続となる。人口は05年に初めて減少に転じ、06年は出生数の増加で増えたが、その後は減少が続いている。

 こうした人口構成の変化に伴って起きる「2020 / 2030年問題」への対策を急ぐべきだという声が、専門家をはじめ関係者の間で高まっている。2020年問題のポイントは、20年代に団塊世代が後期高齢者になることだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、毎年の死亡数は150万人台に達して出生数の2倍になり、高齢化率は30%を超えるという。

 また、2030年問題は、未婚や離別、死別による単身世帯の急増によって起きるとされる。とくに単身化が進むのは、その時期に中高年となる団塊ジュニア前後の男性。60代で見ると、05年に10%だった一人暮らしの割合は30年に25%になるという。女性も50、60代で単身化が進み、男女合わせた全世帯で一人暮らしは4割に迫ると予測されている。この問題の背景にあるのは未婚率の上昇だ。30年の時点で生涯未婚率は、男性が3割に、女性で2割を超えるとされる。

 2010年に戦後最大の人口減となった日本は、来る2020 / 2030年問題にどう対処し、どのような少子高齢化社会を築いていくのか。そこにITが大きくかかわってくるのは間違いない。少子高齢化社会にITをどのように役立たせていけばよいのか。あらためて、そうした問題意識を強く持つべきだと考える。

パソコンを追い抜くスマートフォン

 2つ目のキーワードは「スマートフォン」。元旦の新聞各紙で、IT分野では最も多かった話題だ。その中から印象的だった記事の一文を少々紹介しておこう。

 まず、日本経済新聞の「デジタル進化論・変わる競争条件」という新連載記事にこんな一文があった。

 「米IBMが1981年にパソコンの原型であるIBM PCを発売してから30年—。端末の主役が変わろうとしている」

 その根拠として、「米調査会社IDCによると、11年のパソコン世界出荷は1割増の3億8503万台にとどまる。スマートフォンは44%増え4億2098万台になる見通し」を挙げ、「07年にアップルが初代iPhoneを投入して市場拡大のピッチが上がってから、わずか4年でパソコンを追い抜くことになる」とした。

 では、そんな勢いづくスマートフォンの今年の注目点はどこか。産経新聞が「2011経済・注目製品 勝負の年」と題した記事で、「今年は、発売が予定される主力製品のほとんどがアンドロイド端末とされる」とし、「日本市場を知り尽くした国内メーカーの端末が多く登場することで、消費者の目も向くようになる」とのアナリストのコメントを紹介。一方、「王者のアップルも、夏前に新モデルを投入して迎え撃つとの臆測が広がっている」とした。

 朝日新聞は「ケータイ快速新時代」と題した記事で、「携帯電話の高速通信が新たな段階に移ろうとしている」とし、これまでよりも最大で10倍速くデータを送れる新たな国際標準規格「LTE」のサービスを紹介。「高精細な動画や電子書籍データを短時間でやりとりできるだけでなく、同時翻訳やナビゲーションなどの新しい機能が、携帯端末を持つ生活を進化させる可能性を秘めている」とした。

 最後に、元旦ではなく大晦日(2010年12月31日)の日経新聞の「経済教室」に、東大の坂村健教授が「企業経営の課題 — 携帯電話の脱ガラパゴス化」と題して寄稿していた論説記事の一文を紹介しておきたい。

 「ガラパゴス化は日本のメーカーが海外市場の求めるものを作らなかったから起きた。技術イノベーションはできても、ガバナンスのイノベーションが自らの力ではできない日本。だからこそ日本のガバナンスイノベーションは常に黒船を必要とする。その黒船はiPhoneというカタチでやってきた」

 では、坂村教授はこれからどうなるとみているのか。

 「黒船のiPhoneによって、日本の携帯電話キャリアから奪われたガバナンスはもはや戻らない。ユーザーがそれを望まないからだ。キャリアから指定されたアプリケーション・プラットフォームを使いガラケー(ガラパゴス携帯)しかつくれない体質になってしまったメーカーにはお気の毒だが、キャリアはすでにスマートフォンに舵を切った。しかし、これは日本企業にとって世界市場でビジネスを展開するチャンスかもしれない」

 この坂村教授の論説記事は、ぜひ全文を読まれることをお勧めしたい。「ガバナンスのイノベーション」は、さまざまな分野に適用できそうな非常に興味深いテーマだと考える。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ