ベンチより実効性能を重視――スパコンについてNECに聞いてみた次期SXは2013年リリース?(2/2 ページ)

» 2011年02月01日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]
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次期SXは2013年以降のリリースを目指す

 こうなってくると、気になるのは次期SX(SX-10?)のリリース時期だ。2007年のSX-9発表時にNECは、「(SXシリーズは)これまでと同じペースで開発していく」としており、2010年ごろにはSX-10(仮)がリリースされるだろうと予想されていた。

 状況が大きく変わったのは2009年5月のこと。文部科学省と理化学研究所が進める次世代スーパーコンピュータプロジェクト「京(けい)」から、NECが事実上の撤退を表明したのだ(これによりベクター・スカラー複合型だった京は、スカラー型として開発が進められることとなった)。NEC撤退後のことではあるが、2009年11月の事業仕分けを巡るやり取りも記憶に新しい。

 巷間では主な撤退の理由として、巨額の開発費負担があるのではとウワサされたが、LINPACKベンチマークを性能目標に掲げる京と、実アプリケーション環境での実効性能を重視するNECの間に、目指すものの違いがあったことも否めないだろう。いずれにせよ、京の開発進捗にリンクしていた次期SXは、ここで“仕切り直し”を迫られることとなった。

 加えて、ベクター計算機を取り巻く市場動向には厳しさがあるのも事実。「市場ニーズを再度掘り起こすには、次期SXで何をやるかが重要」(久光氏)という認識のもと、NECではベクターの優位点である“メモリバンド幅の広さと、それによる高い実効性能”をより推し進めたコンセプトで開発を進めているという。

 現行機種であるSX-9までは、1つのノードで16のCPUと1テラバイトまでのメモリをサポートする「共有メモリ型」という方式を採っていた。この場合、CPUだけでなく、メモリのコントローラや、メモリをルーティングするチップを個別に実装し、基板上で結線する必要があった。

 この方式のまま開発を続けると、構造が肥大化し、消費電力も膨大なものとなる。また結線が多く、そして長くなると、CPU―メモリ間のレイテンシも許容できないレベルになってしまう。

 そこで次期SXでは、従来「CPUチップ」「メモリコントローラのチップ」「メモリルータのチップ」と個別に実装していた物をワンチップ化し、メモリを直付けする構造を採る。このチップには(ベクター計算機としては異例の)専用キャッシュも搭載し、「スカラー型の良さも取り込みつつ、ベクター型のメモリバンド幅の広さをより生かす方向。ワット性能比も大きく向上できる」(久光氏)という。「実装に関する技術的な課題はクリア済み」(久光氏)だ。

 ここには、単なる筐体ごとのコストパフォーマンスではなく、TCOという観点からスカラー型計算機に対抗したいという意図も見て取れる。次期SXが、向上した実効性能にかかわらず消費電力が低ければ、スカラー計算機でPCクラスタを構成するよりも導入台数を減らせるし、設置スペースも狭くて済む。「一般的にHPC分野では導入金額の25%が年間の電気代として乗ってくる」(久光氏)といい、「高性能なベクター計算機を入れれば、台数単価は高くとも、TCOで対抗できる。現状はどうしても“1台いくら”という価格比較をされてしまうが、例えば5年で減価償却する期間のTCOを比べてもらうような訴求をしていきたい」と久光氏は話す。

 これらの点を踏まえ、久光氏は次期SXのリリース時期について、「2013年ないしそれ以降のリリースを目指す」と見通しを述べる。

ベンチマーク重視か、実効性能をとるか

 この先、エクサスケール(10の18乗)の演算性能を持つコンピューティング環境に移行する際、スカラー計算機で実現するならば際限なくPCクラスタを並べなければいけない(これには電力やファシリティなどの問題も付随する)。確かにLINPACKベンチマークの数値は向上するかもしれないが、「メモリウォールの問題からB/F値は低下する一方で、実効性能は期待できない。特定のベンチマークを念頭に、ユーザーの実用に耐えないシステムを作ったところで、いかほどの意味があるのか」と久光氏は疑問を投げかける。

 「PCクラスタをひたすら並べて性能を出すやり方は、例えば中国などが得意とするところ。最新のTOP500で“天河一号A”が1位になったこともあり、米国ではLINPACK ベンチマークの妥当性を問う声も上がり始めた。あくまでも個人的な見解だが、TOP500という指標そのものが見直される可能性もあるのでは」(久光氏)


 「スパコンユーザーに最高の実効性能を提供したい」とする久光氏は、同時に「日本発の“ものづくり”の価値向上につなげられれば」と話す。「オープン化という掛け声のもと、x86に代表されるスカラー型プロセッサが市場を寡占して20年が経つ。ここでベクターの存在感を示したい」(久光氏)

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