クラウドと向き合うための勘所――討論会から探るユーザーマインド

クラウド活用につきまとう不安――その中身を知るクラウドと向き合うための勘所(2/2 ページ)

» 2011年02月07日 10時00分 公開
[合田雅人,ITmedia]
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サービス内容の進化も念頭に

 日経BP コンピュータ・ネットワーク局ネット事業プロデューサー兼日経コンピュータ編集プロデューサー 星野友彦氏は、クラウド事業者がユーザーと交わすSLAの内容について、今後さらにユーザーが納得できるものにしていくべきだと話す。

 「クラウド事業者の中には、SLAを明確にしないでいる会社も多い。ユーザーは具体的なケースを想定して事業者を問いただしていくべきでしょう。システムが何分間止まったら“停止”と見なすのか。システム停止を通告するのはどのタイミングになるのか。それらの点を明確にしておかなくては、“確保”を保証する可用性の算定も違ってきます」

 例えば3分止まったらシステム停止と見なすのか、見なさないのか――それだけで可用性の確保については、前提が異なってくる。こうしたことは多くのユーザーが承知していることだ。しかし、クラウドという新しいサービスを前にすると、厳しいチェックの目が甘くなりがちということを肝に銘じておくべきだろう。

 一方で、インプレスビジネスメディア ITLeaders 編集長の田口潤氏はこの問題について次のように話す。

 「可用性が99.9%と99.99%の違いは、具体的には1年間で9時間の差になります。双方の数字をどう見るかで、ユーザーが求めるサービスの内容も違ってきます。サービスレベルを犠牲にしても低コストのサービスを利用したいケースも出てきます。クラウド事業者も99.999%というように100%へ近づけていくことだけを目指す訳にもいかなくなる。それでは海外の事業者と戦えないからです。高可用性を維持できる高級なサービスばかりを提供していては勝ち目がない」

 基本的な約束事を交わすことは大切だが、高いレベルのサービスばかりを求めるのではなく、今後はケースバイケースで、値ごろ感のあるサービスを選択していくことになる可能性が高い。サービスのレベルに応じて、上手にクラウドサービスを使いこなすユーザーとそうでないユーザーとでは、大きく差が付くようになるかもしれない。

ユーザーと事業者がともに目指すべきこと

 かつて先進的なクラウド事業者たちは、「銀行にお金を預けるのに、どうしてデータを預けようとはしないのか」というようなメッセージを発していた。もちろん、「われわれは信頼に足る事業者なのだ」という意味を含んでいたのだろう。

 ここに来て、クラウドを利用し、データも含めてさまざまなシステム利用を進める企業が増えつつある。こうしたユーザーに対して事業者側も新しいメッセージを発信すべきだろう。信頼に足る具体的な保証内容、障害時の対応策を明確にする内容を含んだメッセージを、である。

 「クラウドサービスは今やユーザーから注目を浴びています。大きな期待を背負っているといっていい。一方で、“システムのアウトソーシングサービスとどこが違うのか”という厳しい見方もある。クラウドサービス事業者は、これまでのサービスが成し得なかったITサービスをユーザーに提供していかなければならない。だからこそSLAをはじめとする基本的な約束事が大切になります。少なくとも、システムが停止して再稼働する際、ユーザーが業務をどこから再開させればいいのかを示さないといけない」(アイティメディア 浅井英二氏)

 いま、クラウドを活用しているユーザーはある程度先進的なユーザーだといえるだろう。そうしたユーザーが事業者に対してある程度厳しく接し、サービスとしてのレベル向上を促す流れを作っておくべきだといえそうだ。

 アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp 編集長の大谷イビサ氏は次のように話す。

「まだまだ、“クラウドって何?”という素朴な疑問を抱いている企業の担当者が多くいます。クラウド関連イベントでも、基本的なレクチャーをしてくれるセッションに人気が集まります」

 そう考えると、これからもクラウドサービスを活用するユーザーが、セキュリティなどさまざまな不安を抱き続けることは確かだろう。不安にとらわれすぎず、的確なリスク回避策を取れる知恵をユーザー全体で共有していく必要があるかもしれない。

 クラウドサービスは他のITサービス同様、活用の方法を間違えると全く無駄になりかねない。朝日インタラクティブ CNET Japan編集長 別井貴志氏が話すように、ユーザーが痛い目に遭ってしまうこともあるようだ。

 「パブリッククラウドを使ってシステム開発環境を作ろうとしたが、結局思うようにいかず、自前でサーバを用意して構築した方がコストも時間も節約できたという例が意外と多いのです。これは一時的な現象なのかもしれませんが、ユーザーはそうしたリスクも念頭に入れた上でクラウド活用を進めていく必要があるでしょう」


討論会に参加した別井氏、大谷氏、舘野氏、浅井氏、田口氏、星野氏(左から)。さまざまな観点からの意見を各氏が表明した

 セキュリティや障害時対応に対する不安は、クラウドを自分たちが利用する環境として見た時に感じるユーザーの不安だといえる。しかし、それだけでなくその環境を利用したときの自分たちの力量に対する不安も今後増えてくることが十分に予測できる。不安を消し去るものは、恐らく、「クラウドサービスに何を求めるのか」というユーザー自身の明確な指針ではないだろうか。

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