ビジネスコミュニケーション進化論(前編)大競争時代を勝ち抜くワークスタイル(1/3 ページ)

ビジネスのスピードが加速し、グローバル化も進む環境では、社員の生産性を高めなければ競争に生き残れません。そのためにはコミュニケーションの活用が不可欠と言えるでしょう。ビジネスコミュニケーションの重要性について、コミュニケーションツールの変遷に照らしながら解説します。

» 2011年02月08日 07時30分 公開
[米野宏明,日本マイクロソフト]

 この十数年の間にITは革新的な進化を遂げました。もはや当たり前となった電子メールは、ITとして語られる機会が少なくなり、まるごとクラウドにアウトソースするケースも増えています。ほんの十数年ほど前には、セキュリティを過剰に気にするあまり、電子メールによる外部との連絡を禁止していた企業もあったほどですから、ずいぶん様変わりしたものです。しかし、われわれの働き方はこの十年でどれぐらい変わったのでしょう。

 今や1人で黙々とこなす作業は限られており、チームでの分担による共同作業がごく日常的になりました。それどころか、ほとんど面識のないような同僚、あるいは外部や海外の協力会社、顧客など目の前にいない相手との共同作業も日常的なものになりつつあります。こうなると、決められた場所に集められた情報をみんなで参照するという、一方通行の情報伝達の組み合わせた伝統的なスタイルの「情報共有」では十分に機能しません。何事にもスピードが要求されますし、また、市場環境も刻々と変わります。オペレーションのルールを固定できず、その都度最適な方法を探りながら、ビジネスを進めていく必要があります。したがって、“アドホック”で双方向のつながりの中から、いかに効率よく情報を引き出すための対話――「コミュニケーション」がより重要になるのです。これは外的な要因ですから、好むと好まざるとにかかわらず、働き方を変えなければ個人や組織の競争には勝ち残れません。

電子メールは限界

 大いに普及した電子メールですが、逆に煩わされている人も多いことでしょう。ある調査によると、平均的なオフィスワーカーが電子メールの処理に費やす時間は、1週間当たり13時間にも上るそうです。ちょっとメールの多い人なら、午前中いっぱいをその処理に奪われてしまう計算です。しかし、十年ほど前には今ほど大量の電子メールを受け取るような状況ではなかったはずです。なぜこんなにも電子メールの数が増えたのでしょうか。

日々大量の未読メールが発生

 電子メールはその名が示す通り、「手紙」の延長線にあるデジタルツールです。ITとはいえ、あくまでアナログ世界のルールをそのまま引き継いでいます。処理の自動化により、スピードアップと人手の削減は実現できましたが、基本的には手紙と同じ特性と限界を持ちます。

 手紙も電子メールも、非同期で一方通行の情報伝達メディアです。もちろん返信はできますが、一つひとつのトランザクションは独立しており、返信は保証されていません。このため、相手を拘束しないというメリットがあります。送信者は、相手がどのような状況に置かれているかを知る必要がなく、メールボックスをめがけて投函できます。受信者はそれをいつ読んでも自由なのです。

 しかし、このメリットは同時にデメリットも伴います。送信したメールは、返答がない限り、相手がそれをどのように受け止めたのかが分かりません。内容を理解してくれたのか、あるいは無視されたのか、今まさに返信しようとしているのか、送り手はまったく知る術がないのです。

 一方、受け手も、自分にとって価値のないメールにまで、一定の労力を割くことになります。メールボックスには、重要なメールだけでなく、一斉同報のメールや間違いメール、宣伝メール、スパムメールが届きます。投函が容易なだけに、締まりのない応答が延々と続くチェーンメールも起きやすいでしょう。最初から何往復ものやりとりが必要なコミュニケーションになると分かっているのにもかかわらず、電子メールを延々と使うケースもよく見られます。直接やりとりしている当事者同士ならまだしも、CCに追加されたグループアドレスに所属する「ほぼ無関係」の人のメールボックスまで、そのようなたくさんのメールで埋め尽くしてしまいます。

 これらのメールの内容に価値がないかどうかを知るには、一度開封しなければなりません。残念ながら、人間の情報処理能力はほとんど向上していないため、メールが普及すればするほど、メールを判別する負荷が増えていきます。重要なメールがその他の重要でないものの中に紛れ込み、見逃される確率が高まってしまいます。もちろん、整理や分類を工夫することである程度は改善できますが、元々が手紙と同じ特性である以上、物理的な限界は超えられません。このような「電子メールのオーバーロード」は、現代のオフィスワーカーの生産性に深刻な影響を与え始めています。

電話ではダメな理由

 それならもっと電話を使えばいいじゃないか、という人もいます。私もその通りだと思います。かつて電話は遠隔コミュニケーションの唯一の手段であり、現在でも電話回線を持たないビジネスなどほとんどありません。しかし、実際には多くの人が、遠隔コミュニケーションの大部分にメールを選択するようになりました。十年ほど前は、営業部門などで社内の電子メール利用を禁止し、電話を使わせるようにしたという話をよく耳にしたものです。「実は営業部長がメールを打つのが苦手だったから」などという裏話もあったりしますが、少なくとも表向きは、「同僚と電子メールばかり使って直接会話をしないのはよくない」という理由が多かったように思います。しかし、これらの試みが数年以上続いたケースを少なくとも私は知りません。今は皆無でしょう。電子メールの代わりに電話を使わせるようなことはできないのです。

電話は掛けてみるまで相手の状況が分からない

 電話の最大の欠点は、相手がどのような状況に置かれているのかを事前に知ることができない点にあります。状況が分からない相手との電話によるファーストコンタクトは大変なストレスです。電話は同期コミュニケーションメディアですから、相手が電話口に出なければコミュニケーションが成立しません。電話をかけてみても、相手がとることができなければ、二度手間、三度手間になります。運よく電話口に出てくれても、会議中や作業中に割って入ることになります。十分な時間を取れなかったり、邪険に扱われたりするかもしれません。状況の見えない相手と共同作業の機会が増えれば増えるほど、このストレスは増大していきます。

 一方、電子メールは相手の状況に左右されることなく情報を発信できますから、送り手にとっては気楽な手段です。電子メールの普及によって、着信メールを確認する頻度も高まりました。送り手は、いつ返信されるか分からないストレスを感じながらも、また、自分自身が電子メールのオーバーロードに悩まされながらも、ファーストコンタクトでのストレスから逃れるために電子メールを利用します。その結果、電子メールの量が増え続けるのです。

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