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» 2011年03月07日 07時40分 UPDATE

Weekly Memo:小売業向けITビジネスにみるクラウド化提案のヒント

富士通が先週、「小売業向けビジネスへの取り組み」と題して開いた記者説明会で、クラウド化提案の仕方について興味深い考え方を披露した。その内容とは――。

[松岡功,ITmedia]

小売業のIT化に求められる5つのポイント

 総務省が3月1日に公表した事業所版の国勢調査にあたる「経済センサス」によると、日本国内にある本・支社や個人経営の事業所数は2009年7月1日時点で約604万事業所を数え、そのうち産業別では卸売・小売業が約155万事業所と、全体の4分の1を占めた。従業者数も全体の2割に達する卸売・小売業は、まさしく日本の産業を支える分野である。

 そんな大きな影響力を持つ業界のIT化は今、どのように進展しているのか。クラウド化への取り組みはどうなっているのか。以前から機会があれば調べてみたいと思っていたところ、富士通が2月28日に「小売業向けビジネスへの取り組み」と題して開いた記者説明会で、そうした情報を整理して紹介していたので、同社の取り組みと合わせてここで取り上げてみたい。

 説明に立った富士通 流通ビジネス本部小売ビジネス推進統括部の滝口勉 統括部長によると、小売業の代表格であるスーパーや百貨店、コンビニエンスストアの既存店ベースの売上高は、過去10年間を見てもほぼ前年割れが続いており、「売り上げ減少で厳しい経営をどう建て直すか、そのためにITをどう活用するかが大きな課題となっている」という。

 では、小売業のIT化において具体的に何が求められているのか。それをひも解くために、まずは小売業のシステム全体像を見ておこう。滝口氏によると、下の写真に示したのがそのイメージである。少々見づらい写真で恐縮だが、全体像がコンパクトに描かれているので掲載しておく。

富士通が描く小売業のシステム全体像 富士通が描く小売業のシステム全体像

 全体像の配置を補足説明しておくと、小売業の範囲のうち、左半分が店舗系をはじめとしたフロントエンド、右半分が基幹MD(マーチャンダイジング)システムをはじめとしたバックエンドである。そしてバックエンドの下部に物流システムや、流通業界のデータ交換方式を定めた次世代EDI規格である流通BMSを含めたSCM(サプライチェーンマネジメント)システムが記されている。

 滝口氏はこの全体像を示したうえで、小売業のIT化に求められるポイントを5つ挙げた。バックエンドでは「基幹MDシステムの刷新」と「取引先との戦略的提携」、フロントエンドでは「ネットビジネスの効率化」と「消費者のライフサイクル分析」、そしてシステム全体に関わる形で「クラウドの有効活用によるコスト低減」といった点だ。

クラウド化で捻出した資金を戦略投資に

 このうち、基幹MDシステムとクラウド関連について、富士通の取り組みを紹介しておこう。

説明に立つ富士通 流通ビジネス本部小売ビジネス推進統括部の滝口勉 統括部長 説明に立つ富士通 流通ビジネス本部小売ビジネス推進統括部の滝口勉 統括部長

 基幹MDシステムの刷新では「計器飛行型MD」をキャッチフレーズに、計器が並ぶ飛行機のコックピットのように、ポータル画面で各種情報が一目で確認でき、アラートによって即時アクションが起こせるシステムを次世代基幹MDソリューションとして展開していく構えだ。

 クラウド関連では、サーバ統合を含めたインフラのクラウド化によるコスト低減提案を積極的に行っていくとともに、小売業向けSaaS(サービスとしてのソフトウェア)も拡充していく計画。滝口氏はその1つとして、高齢化などで宅配サービスへの需要が高まっていることを受けて、夕食宅配サービスを2011年度上期に提供開始することを明らかにした。

 また、2011年度下期には、中小規模の小売業者にも導入しやすい形でPOS(販売時点情報管理)システムのクラウドサービスを提供開始する予定だ。滝口氏によると、同サービスは自前でPOSシステムを構築・運用するよりも、例えば5年間の使用で比べた場合、「少なくとも3割は安くしないと、魅力的なクラウドサービスとして受け入れてもらえないだろうと考えている」という。月額料金がどれくらいになるかは明言しなかったが、そのレベルによっては中小規模の小売業者にも広く普及するポテンシャルはありそうだ。

 さらに滝口氏の話で最も興味深かったのは、クラウド化提案の仕方である。同氏によると、小売業のIT投資は売上高の0.45%が目安になっているとし、「つまり、IT投資額はあらかじめ決まっているケースが多い。その中で新規の戦略投資を行っていくためには、既存ITのコストを下げるしかない。そこでクラウドを利用して既存ITのコストを抑え、捻出した資金を新規の戦略投資に当てましょうと提案している」という。

 こう聞くと当たり前の提案のようだが、果たしてそうか。とかくクラウド化提案といえば、クラウド化によるメリットばかりに目が行き、戦略投資を軸にしたIT予算の有効活用という視点が、ユーザーもベンダーも意外にぼやけているのではないだろうか。その意味で滝口氏の話は、クラウド化提案の仕方での本来大事なポイントを思い起こさせるヒントがあるように感じた。

 最後に蛇足ながら、本コラム「Weekly Memo」も今回で150回目となった。これまでおよそ3年間にわたって連載を続けてこれたのも読者諸氏の叱咤激励のおかげである。感謝申し上げるとともに、引き続きのお付き合いを願いたい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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