自分のこころを大切にしよう――震災時のメンタルケアこころの処方箋(2/2 ページ)

» 2011年04月07日 11時30分 公開
[竹内義晴(特定非営利活動法人しごとのみらい),ITmedia]
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日常を取り戻すために

 今、被災地では物理的な支援活動が行われています。直接支援できないことに、無力感を抱かれている方もいらっしゃるかもしれません。直接被災していない私たちにできることは、1日も早く日常を取り戻し、元気に仕事をすることで、被災地の皆さんを間接的に支援することではないかと思います。

 そこで、早く日常を取り戻すポイントについてお話します。

 情報を選択する

 先ほど脳から見た実体験と映像の働きについてお話したように、映像はこころに大きな影響を与えます。しかし、実生活の中には情報が必要な場面もたくさんあるので、情報を断つことは現実的ではありません。

 そこで私は、情報の入手先を選択することをお勧めします。

 例えば、ラジオはテレビに比べて視覚情報がない分、テレビに比べてネガティブな気持ちにはなりにくいでしょう。また、テレビは惨状を映し出す傾向が多いのに対し、ラジオは前向きになるような情報を伝える傾向にあるように私は感じました。さまざまなリスナーの励ましの声に、「つながっている感」も抱けます。

 また、文字情報であるインターネットも、映像よりはネガティブな気持ちにはなりにくいでしょう。ただし批判記事もありますので、どのような記事が自分に必要かを考え、情報を選択して触れることが大切です。

 泣きたい気持ちを受け入れる

 人は、惨状が大きければ大きいほど、「被災地の皆さんはもっとつらいのだから、私は泣いてなんていられない、がんばらなくちゃ」といった気持ちが生まれ、自分の気持ちを押さえ込む傾向があります。自然災害を防ぐことはできませんし、あなたには何の罪もありません。どうか、傷ついている自分を責めないであげてください。

 泣きたいときは泣きましょう。「〜ねばならない」という考え方から少し離れてみましょう。深呼吸をしたり、好きな音楽を聴いたりして、リラックスしましょう。少し上方を見て、ゆったり座るとリラックスできます。今までの楽しかった体験を頭の中でイメージするのもいい方法です。

 怒りを上手に発散する

 時には、思うようにならない憤りや、さまざまな情報の中にある心無い一言に怒りを覚えることもあるかもしれません。このような感情のまま他の人に批判的な気持ちをぶつけたり、Twitterなどに怒りをつぶやいたりすると、全体的に緊張感が高まっている中で、思わぬ攻撃にさらされることも考えられます。

 このような場合は、他の人に迷惑にならないようなところで、大声を出して発散しましょう。例えば車の中は、誰にも聞かれずに怒りを発散するのに最適です。

 他の人とつながりを持つ

 不安な気持ちをどうしても拭い切れないのなら、人と関わる時間を作ってみませんか。話を聞いてくれる友人に不安な気持ちを話しましょう。お互いに考えていることを話し、体験を共有しましょう。「ひとりじゃない。みんながいる」という気持ちが芽生えてくるでしょう。

 もし近くに話を聞いてくれそうな人がいない、もしくは知り合いには話しづらいときには、カウンセラーなどの専門家に話を聞いてもらうのもいい方法です。私どもNPO法人しごとのみらいでも、お話をお伺いできます。

 できるだけ、日常のことをする

 先日、「今までブログに楽しいことを書いていたのに、罪悪感でいっぱいになり、記事を全部消してしまった」という方がいました。何もできないときほど、そう思われるのも不思議ではありません。

 日常を取り戻すためには、今までやっていたことを、今までどおりやることを試みましょう。普段どおり仕事をしたり、ブログを書いているのなら今の気持ちをブログに書いたり、するなど、無理にがんばる必要はありませんので、できることからはじめてみましょう。リフュレッシュのために、友人とお酒を楽しんだりするのもいい方法です。

 もし、何らかの罪悪感を抱いてしまったら、自分の気持ちを押さえ込むほうに意識を向けるよりも、今、日常が送れることに感謝するほうに意識を向けてみてはどうでしょうか。無理に思い込む必要はありませんので、「ありがたいな〜」と言葉にするだけでも構いません。そして、いつも通りに過ごしましょう。

 いつも通りの生活が、いつも通りの気持ちにさせてくれます。


 今、この瞬間もさまざまな変化が起きています。ひょっとしたら、これから先も大変なことがあるかもしれません。被災者の方の気持ちを思うこともとても大切ですが、もっとも大切なのは「あなた自身の気持ち」であることを忘れないでください。

 私たち一人ひとりには、この困難を乗り越える力が宿っています。明けない夜はありません。暗い静寂の夜の後には、暖かい光とともに、新しい朝がやってきます。

著者プロフィール:竹内義晴(たけうちよしはる)

 竹内義晴

特定非営利活動法人しごとのみらい理事長。ビジネスコーチ、人財育成コンサルタント。心理学トレーナー(米国NLP協会認定NLPトレーナー)

自動車メーカー勤務、ソフトウェア開発エンジニア、同管理職を経て、現職。エンジニア時代に仕事の過大なプレッシャーを受け、仕事や自分の在り方を模索し始める。管理職となり、自分が辛かった経験から「どうしたら、ワクワク働ける職場が作れるのか?」と悩んだ末、コーチングや心理学を学ぶ。ちょっとした会話の工夫によって、周りの仲間が明るくなり、自分自身も変わっていくことを実感。その体験を基に、仕事で疲れたこころを充電し、仕事のスキルアップや成長感得られる体験を通じて「しごとを楽しくする」NPO法人を設立。コーチングやカウンセリング、チーム作りの指導を行っている。

著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。
Twitterのアカウントは「@takewave」。


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