【第1回】エラスティック経営とIT日本企業のグローバル進出を支えるIT(3/3 ページ)

» 2011年05月16日 12時00分 公開
[立花良範,アクセンチュア]
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社内ITのクラウド化を推進せよ

 エラスティック経営を支えるITとは、景況変化や事業ニーズに合わせて迅速にそのボリュームと装備を変化させられるようなITである。そのためにクラウドスキームが有効なのは間違いないが、一企業の基幹システムを担えるようなクラウドサービスはいまだ出現していない。一方で多くのグローバル企業にとって、現行の基幹システム群を全てゼロクリアして新たな情報基盤を整備するような手法は、過去のIT投資の経緯からしても、現在のIT投資の理路からしても、その規模からしても、到底難しい選択である。ではどうすればよいのか。

 逆説的な言い方になるが、クラウドスキームを活用し、エラスティック経営を実現するためには、社内IT自体のクラウド化が必須だと考える。社内ITとは、ITにかかわるヒト、モノ、カネの全てを指す。それをクラウド化するとは、事業部門のユーザー目線で見れば、ITサービスの提供者が自社のIT部門やIT子会社に限らなくなることを意味する。事業経営に必要なITサービスは、事業経費の一部として妥当な料金を払い、もっとも適切な提供者から買えばよい。

 一方、IT部門から見れば、クラウド化は自らの要員設備を社内のユーザーだけでなく、社外にまで広げて提供する機会の獲得を意味する。ITは自ら投資して競争力あるサービスを開発し、それ自体を事業として運営する可能性を得るのだ。

 社内ITのクラウド化については既にパブリック・クラウドサービスの利用という形で事例を増やしつつある。メールやポータル、CRM(顧客情報管理)やSFA(営業支援システム)領域のSaaS(サービスとしてのソフトウェア)化である。一方、実際に企業のIT部門がクラウドサービス化したものではないが、当社の子会社であるNAVITAIREは、航空業界のローコストキャリア(LCC)向けコア業務システムを過去15年にわたりクラウド形式で提供している。世界で70社以上のLCCがこのサービスを利用している。

 日本の金融業界でも、野村総合研究所(NRI)の提供する「STAR」「I-STAR」「T-STAR」といった証券業務や投資銀行業務に特化したシステムサービスがASPモデルを保持しており、高いシェアを誇っている。

<strong>図5</strong> Navitaire(出典:アクセンチュア) 図5 Navitaire(出典:アクセンチュア)

 このようにエラスティック経営における企業ITを考えるにあたり、従来の個社単位のIT整備の視点と別に、企業や業界をまたいだ共同利用やサービス化の視点を併せ持つべきと考える。グローバル経営において有望な事業や企業との合従連衡は当たり前のことである。これを事業遂行の一部であるITサービスについて実施しない理由はどこにもない。

 どうすればそのような変革が可能となるのか。どうすれば堅牢なレガシーITをクラウド化できるのか。そのためにテクノロジベンダーはいかなるソリューションを提供してくれるのか。次回以降、より具体的なシナリオに触れていこう。


著者プロフィール

立花良範(たちばな・よしのり)

アクセンチュア株式会社

テクノロジー コンサルティング本部 IT戦略・インフラ グループ統括 エグゼクティブ・パートナー

通信・ハイテク業界を中心に多数の大規模SIにてアーキテクト・プロジェクトマネジメントを経験。現在はIT戦略・インフラグループ統括として、多様な業界におけるIT戦略立案からIT構造改革の実行・運用まで幅広く従事。


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