【第2回】ICTサービスの可能性中堅・中小企業 逆境時の経営力(2/2 ページ)

» 2011年05月17日 08時00分 公開
[西田直基,日本総合研究所]
前のページへ 1|2       

情報処理・分析系におけるICTサービスの可能性

 情報処理・分析系システムにおけるICTサービス活用は基幹業務システムと同様ほとんど進んでいない。

 この分野で聞かれる課題は、「データ抽出・分析に時間がかかりすぎる」「もっと素早く情報が欲しい」といった処理能力に関するものと、「自分たち(利用部門)で自由にシステムを準備したい」という自由度に関するものである。

 処理能力については、IT部門や委託ベンダなど開発側に原因もあるが、それ以上に予算の制約からくるハードやインフラの能力不足が大きな問題となっている。情報処理・分析系システムは一時的に負荷がかかって通常はそれほど必要としないという特徴があり、負荷の高いところに合わせて設計すれば無駄の多いIT投資となってしまうため、コスト面とのバランスをとって設計されてしまうのである。しかし、処理能力が一時的に必要なときに必要なだけ利用するという使い方ができればこうした問題は解消される。

 自由度については、もし利用部門で開発すれば、たとえ開発規模は小さくても別途開発環境を社内で準備しなければならず、コストがかかってしまう。しかし、クラウドサービスを活用すれば実行環境とは別に開発環境を簡単に作ることができ、開発が終わればすぐに削除できる。

 このように情報処理・分析系システムでは抱えている問題をサービスの活用で解決できる余地が大きいわけだが、簡単に実現できるわけではない。それが可能であるならば、とっくに経営資源が豊富で先進的な大企業が動いているはずだ。

IT戦略のイノベーションと中堅・中小企業の勝機

 情報処理・分析系システムでサービス活用が進まない理由は、サービスを活用するためにシステムの設計、構築手法そのものの変更が必要となるからである。そのようなシステム構築は、一部の企業や、企業内の一部門で取り組まれている。しかし、あくまで実験的な取り組みであることが多く、まだ普及しているとは言えない。

 近い将来、クラウド上で簡単にシステム構築ができるようになってくる。それは単に開発環境が「こちら側か」「あちら側か」という話ではなく、データ設計や開発手法といったアーキテクチャそのものが変わることを意味する。

 例えば、現在ほとんどの情報分析系システムはリレーショナルデータベース(RDB)を中心として設計・構築されている。しかし、最近ではRDBを使わずにITシステムを設計・構築する手法が注目されている。Googleで提供される各種サービスや、多数の会員を抱えるソーシャル系サービスなど、実際に膨大なデータの瞬間的な処理が実現できているのは、ハードの処理能力だけではなく、データベースの設計思想・構築手法によるところが大きい。

 ただ、新たなアーキテクチャによって社内の情報処理・分析システムを構築するには既存のIT資産やIT人材の持つノウハウが無駄になる可能性があり、簡単にはいかないだろう。特に大企業の持つIT資産やIT人材は相対的に大きく、またその意思決定プロセスも多段階になっているため、こうした変更を行うにはまだ時間を要するだろう。企業トップやCIO(最高情報責任者)によほどのビジョンやリーダーシップがなければ、大企業がICTサービスを自社のIT戦略に深く組み込むことは難しい。ここに中堅・中小企業の勝機がある。

 現時点ではICTサービスを利用したシステム構築は制約が多く、ノウハウも十分には蓄積されていない。混沌とした状況の今だからこそ、小さいが故に効かせることのできる小回りや、組織全体に対して発揮しやすいリーダーシップを武器に、先駆けてそのノウハウを蓄積し、いち早く理想の情報システムを構築することが競争優位性を築くチャンスとなる。大企業の隙をつくチャンスはそう長くはないだろう。

プロフィール 西田直基(にしだ・なおき)

株式会社日本総合研究所 総合研究部門

社会・産業デザイン事業部 ICTサービスイノベーショングループ マネジャー

大手通信会社にて企業向けITシステム導入に従事。

その後、日本総合研究所にてB2B企業のマーケティング戦略立案、新規事業立案支援、ITグランドデザイン策定支援など各種コンサルティングを手掛ける。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ