豊富なコンピューティングリソースを提供する次代のクラウドシステム。スマートグリッドやスマートシティなどを実現する上で欠かせない社会インフラ基盤となる日も近いはずだ。
日本オラクルで開催されたITmedia オルタナティブブロガーによる参加型イベント。データセンターの見学やクラウドコンピューティングに対する議論の模様は既にお伝えした。最終回となる今回は、統合型ミドルウェアマシン「Oracle Exalogic」のような高性能のクラウドシステム基盤を利用することで実現可能となる、次代のクラウドの世界についてディスカッションした内容をレポートする。
日常的にさまざまな企業のITシステムを研究する立場にある「情報インフラ24時 眠らないシステム」の中寛之氏は、Exalogicの膨大なメモリ空間が魅力だと語る。これにセンサーネットワークなどを連携させることで、世の中に散在しているさまざまなデータを集約して、今以上に大量データをリアルタイムに処理できるようになると強調する。
日本はセンサー技術で世界をリードする立場にあるため、こうした取り組みは今後のクラウドの世界において期待できる領域だと考えられる。センサーから取り込んだ莫大な量の情報トラフィックの濃淡を分析できれば、現時点では想像できないような情報活用が実現できるかもしれない。
例えば、使用電力などを都市全体で効率的に管理するエネルギーシステムや、鉄道や道路などの各種情報をリアルタイムに分析して、さらなる安全性を追求する交通システム、消費者の行動をリアルタイムで解析して、ジャストインタイムで彼らのニーズに応えるようなマーケティングシステムなど、数多くのシステム基盤を構築することが可能になるだろう。
「『ビジネス2.0』の視点」の林雅之氏は、将来的にクラウドは社会インフラの1つになり、エコシステムとして機能するようになるべきだと指摘する。このたびの大震災で、戸籍情報や納税履歴などの重要なデータが失われてしまった自治体もある。そうした重要なデータをクラウドに集約しておくという考え方は、情報保護対策としてすぐに実施できて、なおかつ効果の高いものといえるだろう。
しかし、それらを統制のとれた形で実施、運営するには、国民IDなどの導入を真剣に検討しなければならないだろうと林氏は述べる。また、昨今注目を集めているスマートグリッドやスマートシティを実現していく上でも、クラウドを社会インフラ基盤に取り入れていくことが重要だろう。
では、クラウドサービスを提供する上で不可欠なデータセンターの現状はどうか。林氏は「日本のユーザーが海外のデータセンターを利用してはいても、アジア地域の人々が日本のデータセンターを使うという状況はほとんどない」として、日本のIT産業が弱体化している傾向に警鐘を鳴らす。一方で、シンガポールや香港は、規制緩和や優遇制度など国策としてデータセンター事業を盛り上げており、いまやアジア地域のさまざまなデータが集まりつつあるという。
林氏は「日本にデータを集めるための仕掛け作りが必要」と力を込める。今後、日本が活性化するためには、データセンターなりクラウドサービスの拠点なりを国内に置き、アジア地域の人々がそれらを利用するというモデルの構築が喫緊の課題といえよう。
その中で、林氏から提案として出されたのは、このたびの被災地である東北地域を新たに「クラウド特区」として指定し、復興のための起点にしていくというアイデアである。これからは、東北の復興が日本そのものの復興につながることは間違いない。それに向けたテーマの1つとしてクラウドを掲げ、ITをフル活用して災害に強いスマートシティを作り上げていく。そうした復興のアプローチも大切ではないだろうか。
「Power to the People」の柳下剛利氏は、高性能なマシンを活用して膨大なデータを高速処理できるようになれば、今は夢物語のようなことも次々と実現可能になるはずだと期待を込める。しかし、そのためにはExalogicのようなクラウドプラットフォームの機能や性能を、アプリケーションの開発側がいかにして使いこなせるかどうかが重要になってくると述べる。現状では、大量データを高速に処理するようなアプリケーションを開発できるエンジニアが少なく、このままでは、せっかくのコンピューティングリソースも「宝の持ち腐れ」になりかねないと指摘する。
そこで不可欠なのが、クラウド時代の人材育成である。企業において、かつては、コンピューティングリソースが限られていたため、できるだけ使用するメモリを節約するようなプログラミングを追求していた時代だった。クラウド時代では、リソースが膨大であるため、アプリケーションを構築する上での前提条件が以前とは大きく様変わりしている。そうした状況に即した技術情報の整備が早急に必要であり、強力無比なプラットフォームの提供だけにとどまらず、次代の技術者を育てることも、ユーザーはオラクルに期待しているのである。
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提供:日本オラクル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2011年5月31日