「もっとエキサイティングに」── 人中心のソフトウェアで時代の要請に応えるSAPSAPPHIRE NOW 2011 Orlando Report

SAPのスナーベ共同CEOは日本プレスのインタビューに応じ、個人の自律的な意思決定に委ねる新たな時代の企業経営を「人中心のソフトウェア」によって支えていくことを明らかにした。

» 2011年05月23日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
日本プレスとのインタビューでは東日本大震災に対する哀悼の意を表するのも忘れなかったスナーベ共同CEO

 「SAPのブランドにエキサイティングなイメージも加えたい」── こう話すのはSAPの共同CEO、ジム・ハガマン・スナーベ氏だ。もうひとりのCEO、ビル・マクダーモット氏が北米を拠点に営業とその戦略を統括するのに対して、スナーベ氏は欧州で主に製品やソリューションを統括する。SAPデンマークのコンサルタントから20年でトップまで上り詰めたが、親しみやすさは失ってない。SAPPHIRE NOW 2011のインタビュー中にもその優しい人柄が伝わってくる。

 「堅牢さ、高機能、高品質、ドイツのエンジニアリング……、今のSAPブランドには既に素晴らしいイメージがあるが、これらにぜひ、人をわくわくさせるエキサイティングさを併せ持たせたい」(スナーベ氏)

 ソフトウェアベンダーの老舗であるSAPはこの40年近く、企業規模でビジネスプロセスを統合するエンタープライズビジネスアプリケーションの開発にフォーカスしてきた。それこそが同社の強みだが、顧客企業を取り巻く環境やそれに応じた経営のスタイルは時代とともに変わり、それを支えるソフトウェアも変わる。BusinessObjectsやSybaseなど、矢継ぎ早の買収もイノベーションを一層加速し、時代の要請に応えるのが狙いだ。

 5月17日に行われたSAPPHIRE NOW 2011 Orlandoの基調講演でも、「インメモリ技術」による桁違いのスピード、「モバイル」によるリーチの拡大と並んで、「人中心のソフトウェア」を掲げ、iPhone/iPadでも使える「Sales OnDemand」もプレビュー、これまでのSAPアプリケーションとは180度正反対の、ユーザーがわくわくするようなソフトウェアを開発していく方向性を打ち出していた。

 「CRMの領域はオンデマンドに適したアプリケーションであり、そこには大きな市場がある。われわれはアプローチを変え、ここに取り組もうと考えた。つまり、ビジネスプロセス統合の視点ではなく、営業マンが日々の仕事でやっていることを注意深く観察した」(スナーベ氏)

 顧客に関する情報は実に多岐にわたり、受注となれば与信をチェックしなければならないし、正確な納期も回答しなければならない。もちろん、予定どおり納品されるよう注意も払う。上司や部下をはじめ、多くの社員やパートナーらとチームで働く必要もある。

 「Sales OnDemandでは、デザインのやり直しを5度も指示している。顧客のレビューも短いサイクルで何度も繰り返し、営業の現場がどのようにしたら生産性を高められるのかをフィードバックしてもらった」とスナーベ氏は明かす。

 Sales OnDemandは現在、Philipsをはじめとする20社がテストしており、今年後半には広範な企業への提供が始まるという。

これからの経営は「魚の群れ」のように

 「人中心のソフトウェア」はSales OnDemandにとどまらない。既に社内では新しいHCM(Human Capital Management:人財管理)アプリケーションの試行も始まっているという。

 「これまでのHCMは、とかく会社の視点で社員を管理・評価するものだったが、これからはユーザーが自身のスキルを把握し、さらに能力を高めていくツールでなければ歓迎されない。企業はそれらの情報を活用させてもらえばいい」とスナーベ氏。いわば主客の逆転だ。

 SAPは40年にわたり、企業経営の在り方をIT、特にソフトウェアで支えてきたのは既に触れたとおりだ。メインフレームで稼働したSAP R/2までは中央集権的な経営スタイルを支え、1990年代に入ると分散化を志向した経営に応えるべくクライアント/サーバ型のR/3に移行、そして今、膨大な情報を現場でリアルタイムに分析しながらスピーディーに意思決定を行う時代に「クラウド」「インメモリ」、そして「モビリティ」へと舵を切る。

 「魚の群れのように、互いが距離を計りながら、瞬時に方向を調整、ぶつかることなく自律的に泳いでいく。今後の企業経営もそうなるだろう。そうした経営のスタイルを支援するソフトウェアが求められるはずだ」(スナーベ氏)

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